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54話 トサカ鬼の角

 武闘大会の優勝を逃した。そのため『トサカ鬼の角』を手に入れることは叶わなくなった。現実は甘いものではないのだ。


 ところがリリサはそれを否定した。


「そうでもないよ」

「どういう意味だ?」


 だっておれは決勝で負けたんだぞ。

 トサカ鬼の角は優勝者のみに贈られる副賞じゃないか。


 リリサは袋からある物体をとりだした。

 嬉々とした顔でそれを見せつける。


「じゃーん。これ、なんだかわかる?」

「動物の角のようだが。はっ、もしかして……」

「そのとおりトサカ鬼の角でーす」


 何故それをリリサが持っているのだ。

 おれはポカンとすることしかできなかった。


「優勝者のサバールがお見舞いにきたって、さっき話したでしょ?」


 ということは優勝者から副賞の1つを、図々しく頂戴したというのか。

 それにしてもよく譲ってくれたものだ。サバールの心の広さに感謝したい。


「譲ってもらえたのは案内人のおかげだよ」

「何っ」


 耳を疑った。

 嘘だろ、あの案内人のおかげって……?


「おねだりしてくれたんだ。特技で」


 ああ、そういえば案内人の特技って、そんなやつがあったんだっけ。

 おねだり、たかり、ゆすり、カツアゲだったかな。


 だけど嫌な予感がする。念のため確認しておこう。


「ちなみに使用した特技は、ゆすりやカツアゲじゃなく、本当におねだりなんだよな?」


 喉から手がでるほど欲しいアイテムだが、ゆすりやカツアゲして得たものならば喜べない。というか返さなければならない。


「うん、わたしがずっと見てたけど、強引なカツアゲじゃなかった。彼もね、娘さんの病気さえ治せれば、それでよかったんだって。回復魔法の偉い先生に診てもらうためには、どうしても大金が必要だったみたい」


 それなら問題なかろう。余計な心配は杞憂だったようでホッとした。


 このトサカ鬼の角さえあれば、シン先生に占ってもらえる。おれは案内人に心から礼を述べた。しかし案内人はそっぽを向いてしまった。おそらく感謝されるのが苦手なのだろう。


「わたしにも感謝してよね」


 というリリサの話を聞いてみると、おれの代理としてエキシビジョンにでてくれたそうだ。大会にエキシビジョンなんてものがあるとは知らなかった。本来は本戦トーナメントに残った出場者全員が、そのエキシビジョンに出場しなくてはならなかったらしい。


 リリサがフィールドに現れると、豪雨のような拍手に包まれたとのことだ。予選で披露した芸術的なパフォーマンスが、観衆の心に強烈な印象を残していたためだろう。リリサは歌と踊りを熱く求められたが、それを断固として拒否し、優勝者サバールにエキシビジョン・マッチを申しこんだのだという。しかし彼からは丁重に断られたそうだ。まあ、当然だろう。彼にとっては失うものこそあっても、得るものなんて何もないのだから。


 ところが逆に勝負を申しでてきた人物がいた。準決勝に残ったビットーリョ・コルフィーノだ。ちなみにレベルは41。なかなかの数値だ。彼がリリサに勝利した場合の条件は、なんと『嫁になれ』だった。


「えっ、リリサに嫁になれって?」


 そんなものを条件として提示してきた奴が悪いとはいえ、これをひき受けるのは詐欺みたいなものだ。リリサが勝てば結婚は不成立。負けたとしてもオトコであることを証明すれば、やはり不成立となる。つまりリリサは勝ち負けに関係なく、絶対に彼の嫁にはなれないわけだ。


「わたしね、初対面で軽々しく結婚なんて乞うてくるような人を、合法的にボコボコに懲らしめてやりたかったの」


 リリサのいう『合法的』とは『社会的ルールに外れずに』という意味だろうが、その社会的ルールに傷をつけているのはリリサ自身ではないのか?

 まあ、そのことはいっか。


「で、勝負の結果は?」


 リリサは得意げな顔でVサインをだした。


「そっか。よかった。おめでとう」


 ちなみに戦利品はナシとのことだ。リリサは試合前、勝利報酬として彼の魔剣と魔盾を要求していたらしいが、結局は受けとりをキャンセルしたそうだ。リリサもさすがに気がひけたのだろう。


「もしかしてわたしのレベル、あがっているかも♪」

「レベル41の強敵に勝ったんだもんな。きっとあがってるさ」



 このあとおれは病院に移った。そこで1日だけの入院となる。それにかかる費用は大会側が負担してくれるらしい。


 ここベルレイムではまだ宿をとっていなかったが、同行者3人もおれのつき添いとして、病室に転がりこむことになった。

 何しろそこは侯爵の建てた病院であり、入院用の個室はそこらの宿よりずっと豪華だった。

 ちなみに病院側からは『つき添いは1人まで』といわれていたが、案内人の例の特技で強引に押しきったのだ。


 いつの間にか病室からトアタラの姿が消えていた。

 彼女が病室に帰ってきたのは数時間後だ。


「いま戻りました」

「トアタラ、どこにいってたんだ?」

「馬を売ってきました」


 そういえばクリス村から乗ってきた馬たちを、有料の預かり所に置いてきたんだっけ。売りにいってきてくれた彼女に礼をいうと、売上金を差しだしてきた。カネを数えてみる。


 あれ? おかしい。

 もう一度数えてみた。


 やはり数え間違いではない。どういうことだ?


 クリス村で買ったときは、4頭で46,600マニーだった。それがどうして49,200マニーに増えているのだ! 売るときは二束三文になるだろうと諦めていたのに。恐るべしトアタラ。そういえばジャライラのホテル・スワスワでも、彼女はおれより安値で宿泊してたんだよな。


 差額分の2,600マニーは彼女に受けとってもらった。


 それからもう1つ臨時収入があった。準優勝のおれに、僅かばかりの賞金がでたのだ。これは当然、仲間たちがわざわざ旅につき合ってくれたおかげである。だから賞金はみんなと山分けとすることにした。


 ところが案内人は勿体ないことに、それを拒むのだった。サドゥヴィという職業柄、カネや財産は一時的にしか持てないというのだ。それならば、せめて美味しいものをいっぱい食べさせてあげなくては。



 明日、退院したらシン先生の待つシャザーツクへ向かう予定だ。

 その前にステータス確認でもしておこうか。



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