53話 決勝
次回投稿は1/13となる予定です。
よろしくお願いいたします。
同行係員とともにフィールドへと向かう。
決勝の相手はサバール・ハイガーというらしい。
レベルはどのくらいだっただろうか。リストに書いてあったが覚えていない。
同行係員に尋ねてみたところ、レベルは29とのことだ。ならばリリサと同じだ。彼もレベル30の壁に悩んでいるのだろうか。
対戦相手の情報についてそれくらいしか教えてもらえなかったが、向こうのブロックにはレベル77のなんとかという出場者がいたはずだ。そのブロックを勝ち抜いてきたのだから、かなりの実力者に違いない。
相手情報のほかにも、確認しておきたいことがあった。
いまさらだが……。
「大会優勝者って副賞としてトサカ鬼の角がもらえる、と聞いたんですが、それは本当ですか?」
「はい。優勝者には様々な副賞が与えられます。そのうちの1つがトサカ鬼の角です。しかし最近トサカ鬼の角は入手しにくくなりました。副賞となるのは今大会が最後になるかもしれません」
ならば案内人の情報は正しかったということだ。
よしっ、必ず優勝してやる!
そのためには試合への集中が必要だ。いまはエルリウスのことを考えないようにしなければならない。
場内通路からフィールドにでた。
陽の光がまぶしい。正面には土の闘技台が見える。
ここで突然、驚愕に値するほどの大拍手を観衆からもらった。
どうしたっていうんだ? これじゃ、おれ、まるで人気者ではないか。
同行係員が耳語する。
「さきほどの準決勝、近年まれにみる好勝負だったと大評判です。観衆はあの剣さばきを決勝でも見たがっているのです」
さっきは拍手なんかなかったくせに。
闘技台へあがろうとしたとき、対戦相手のサバールが登場した。
彼も闘技台へと歩いてくる。一癖も二癖もありそうな風貌だった。ギラギラした眼。上半身は裸。黒く焼けた肌が刺青で装飾されている。ヘチマのような形状の壺を、背中や腰にぶらさげていた。
剣や槍を持っていないところを見ると、彼の攻撃の主体は魔法なのか。
厄介な相手かもしれない。
刹那に目が合った。負けられない。
この勝負で優勝者が決まる。
緊張してきた。闘技台の上で深呼吸する。
観客席から佐藤コールが起きた。これじゃ、まるでおれのホーム会場だな。対戦相手のサバールが気の毒に思えてくる。だが人気も実力のうちだ。
サバールも闘技台にのぼってきた。
広いフィールドのド真ん中で、決勝の相手と対峙する。
「この試合、勝たせてもらいます」
「俺だって負けられねえ。病床に伏した娘のために絶対勝つ」
「同情を誘おうったって、手は抜きませんからね」
「そんなんじゃねえよ。全力でこい。ねじ伏せてやる」
初っ端から全力でいくと決めた。
さっさと終わらせてしまおう。
では準備だけしておこうか。
特技を念じる。頭の中で念じるだけならフライングにはなるまい。このくらいは許されるはずだ。
脳内で次々と特技の選択を進め、最終項目のところまできた。
選択項目は3つ……ではなく4つ。
どういうことだ! 特技が増えているではないか。
もしや前試合の勝利でレベルがあがったのか? 縦にこう並んでいる。
特技を選択してください
* インド (ボリウッド)
* インド (沐浴)
* インド (カラリパヤット)
* インド (ゼロの発見)
ゼロの発見ってなんだ?
大事な試合に未知なる特技を使用する勇気はない。
当然、カラリパヤットを選ぶつもりだ。
しかし試合はまだ始まっていない。
開始されるまで、特技の選択画面をこの状態のままにしておこう。
審判が闘技台にあがってきた。
大会主催者への礼を済ませ、闘技台をおりていく。
そして審判の手があがった。
「開始」
すぐさま特技でカラリパヤットを選択した。
何がなんでも勝つ!
*** *** *** ***
あれっ、ここはどこだ?
相手のサバールはどこにいる?
「やっと気がつきましたか」
トアタラの顔がある。
おい、駄目だろ。いまは試合中だ。
いいや、違う。ここは闘技台ではない。
おれ、どうしてベッドで寝ているんだ? どうして部屋の中にいるんだ?
まさか負けたなんてありえない。おれにはカラリパヤットがあるんだから。
「トアタラ、試合はどうなったんだ」
彼女は口を閉じたまま、首を横にふるのだった。
「そっか、負けたのか。おいおい、トアタラが泣くなって」
「ごめんなさい」
「だから謝るなって」
ノックもなく戸の開く音がした。
「佐藤、目が覚めたのね」
リリサが部屋に入ってきた。案内人も一緒にいる。
「おれ、負けちゃったみたいだな」
「覚えてないの? 開始6秒でいつもの気絶。こんなに早く終わったのって、大会新記録だって。佐藤が苦手なのって、トカゲだけじゃなかったんだね」
ああ、思いだした! 対戦相手のサバールの戦法を。
彼はヘビ使いだったんだ。
試合開始と同時に、壺の中から大量のコブラが現れて……。
相手の武器は大っ嫌いな爬虫類。勝てるわけがなかった。
思いだすだけでも、また失神してしまいそうだ。
試合の詳細はトアタラとリリサが話してくれた――。
気絶したあとも、勢いの止まらないコブラたちに迫られ、全身を毒牙で噛みつかれていったとのことだ。すぐに毒の魔法治療が施されたが、さきほどまで2時間も眠りっぱなしだったようだ。
その間、エルリウスが見舞いにきてくれたそうだ。
いつかまた会おうと、伝言を残して去っていったらしい。彼が向かったのは大魔術師のもとだという。左腕の魔法治療のためだとか。
そのあとサバールも見舞いにきてくれたそうだ。
サバール……。まさか“天敵”が武闘大会に潜んでいたなんて。
溜息をついた。
「がんばったつもりだったけど、トサカ鬼の角は手に入れられなかったわけか」
「そうでもないよ」
とリリサが笑顔を見せる。




