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48話 トーナメント

 ______登場人物(主な武闘大会出場者)______


【佐藤 (Lv.5)】

 一人称は平仮名の『おれ』。職業は踊り子。爬虫類が大の苦手。

【エルリウス (Lv.37)】

 戦士。イケメン青年。佐藤とは乗合馬車で知り合った。

【ボボブマ (Lv.18)】

 魔法使い。強烈な落雷魔法のパフォーマンスで予選を1位通過した。

【ガイガーシュトッフ (Lv.27)】

 暗殺師。予選を最下位通過した。



 張りだされたトーナメント表に茫然とした。

 なんてことだ。対戦相手はあの恐ろしい落雷魔法の使い手ではないか。くじ運が悪すぎる。初戦くらいガイガーシュトッフと当たりたかった……。


 本選出場者はそれぞれ係員に連れられ、別々の控室へと向かった。

 おれを案内する係員は、背筋のぴんと伸びた初老の男だ。


 長い場内通路を歩いていく。やがて係員が足を止めた。どうやらおれの控室はそこのようだ。係員が開き戸を開ける。


 薄暗い部屋に入った。あとから係員も入ってきた。


 想像以上に狭苦しい。しかも蒸し暑く、窓すらなかった。

 ああ、もとの世界のエアコンが恋しい。扇風機でもいいから欲しい。

 額から玉のような汗が流れおちてきた。ある意味、もう闘いは始まっているってことなのか。


「あの、暑いんすけど。せめて窓のある部屋だと嬉しいんですが」


 係員が苦笑する。


「窓のある部屋は許可されていません。各出場者は外部との接触を遮断されます。従いまして他者の試合を見ることはもちろん、ようすを聞くこともできません。これはすべての出場者が少しでも同じ条件で闘えるようにという配慮です。公平を期すためなのです」


 そういわれても得心がいかない。他者の試合を見聞きしないことが、どうして公平を期すことに繋がるのだろうか。それについて係員はこういった。


「通常、出場者は他の出場者を前に、なかなか手の内を明かしたがりません。しかし初戦で強敵と当たった出場者はどうなるでしょう? 奥の手をださざるを得ません。そうなりますとたとえその試合に勝ったとしても、隠し技を他者に知られてしまうために次の試合で不利となります。ですが当大会においてそんな心配はありません。初戦からすべての技や魔法を明かしても問題ないのです。各試合とも全力で挑んでください」


 試合の配慮なんていらないから、控室の配慮をしてくれよ。


 汗でしとどになった顔をハンカチで拭く。ところが係員はほとんど汗をかいてない。羨ましい体質だ。


 ぼんやり天井を見あげた。

 競合相手の試合を見物できないとすると、彼らの技や実力を知るには、予選のパフォーマンスを見るしかなかったわけだ。ほかに参考となりそうなものといったら、公表されたレベル数値くらいか。

 裏を返せばパフォーマンスで披露したものは、徹底的に対策を練られてくるってことだ。


 遅れて大会に参加したおれは、ほかの参加者のパフォーマンスをほとんど見られなかった。反対にほかの参加者は、おれの『武勇の舞』をばっちり精察したはずだ。こりゃ結構デカいハンディキャップだな。


 なんだか不安になってきた。おれ、優勝できるのか?


 ところで……。


「あなたは係員なのに、ずっとここにいていいんですか」

「はい、わたしはあなたの同行係員ですから」

「なるほど。いわゆる見張りですね」

「そんなところです」


 開き戸の外側からノックがあった。

 いったん同行係員が部屋をでていく。しかしすぐに戻ってきた。


「第一試合が終わりました。間もなくあなたの試合が始まります。さあ、こちらへどうぞ」


 もうおれの出番か。

 第一試合って、劣化版フェルザヴァインとレベル81の対決じゃなかったっけ。他者の試合は見られないようだが、結果くらいは教えてくれないだろうか。駄目もとという気持ちで、同行係員に尋ねてみた。


 同行係員はきちんと答えてくれた。結果だけならば話すことも許されるそうだ。


 エルリウス・ユハルヒン・サーフ・ムアの勝利だそうだ。つまり劣化版フェルザヴァインが、レベル81の怪物級を破ったのだ。これは快挙ではなかろうか。


 場内通路を進み、フィールドにでた。


 広いフィールドを囲む観客席には、観衆がぎっしりと埋めつくされている。

 いまだにエルリウス・コールが鳴りやまない。誰もが前試合の彼の勝利に酔っている。いったいどんな試合だったのだろう。ああ、観戦したかった。


 落雷で壊された闘技台は、すでに修復されていた。

 仕事が早いもんだ。とはいっても決して元通りになったわけではない。石畳だった闘技台が、土に変えられているのだ。しかもずいぶんと低くなっている。足のくるぶし程度の高さしかないので、もはや台とは呼べないかもしれない。


「万一、試合中に大怪我を負ったとしても、看護部隊がおりますのでご安心ください。彼女たちは回復魔法のスペシャリストです」


 ほう、心強いもんだ。

 しかし対戦相手はあの『落雷』野郎だ。あんなのを落とされては、回復魔法も間に合わず、即死ではなかろうか……。

 無意識に足が震えていた。心臓の鼓動が速くなる。


 くそっ。どうしたんだ、おれ。何を怯えている。


 試合開始が徐々に迫ってくる。時間の流れは止められない。

 すでに土の闘技台に男が立っていた。

 おれもあそこに立たなくてはならない。


 同行係員が闘技台に手を向ける。

 さっさといけ、といっているのだろう。

 だが、おれは踏みだす足を止めるのだった。


「あいつって、きっと優勝候補の筆頭なんでしょうね?」

「さあ、どうでしょう。わたしからすれば、みな横一線に並んでいると思います」


 係員らしい回答だ。まあ、本音は聞かずとも、わかっているが。

 さらに彼はこう続けた。


「確かに彼は素晴らしい魔法使いです。レベルはまだ18だというのに、ご存じのとおり強大な魔法の具有者です。一般の人々にはあまり知られていませんが、彼がパフォーマンスで見せたアレは、上位魔術界ではとても有名です。魔王の『インドラのいかずち』にちなんで『ネオ・インドラ』などと称されています。しかも彼はまだ若手です。成長が非常に楽しみです。いつか彼のネオ・インドラが、魔王のインドラの雷を超えるのではないかと、上位魔術界の方々から大きく期待されています」


 ネオ・インドラかあ。

 あれだけ強烈だったんだから、そんな名前もつけられるだろう。

 初戦で最も当たりたくない相手だった。


「若手って、ちなみに彼は何歳です?」

「19です」


 19歳? 39の間違いではないのか。だってどうみてもオッサンだぞ。

 心の中で笑ったら、なんだか肩の力が抜けてきたような気がする。


「ありがとうございます」


 礼をいうと、同行係員は首をかしげてぽかんとした。

 土の闘技台へと進んでいく。


 相手は確かに強くて恐ろしい敵だが、絶対に勝たなくてはならない。

 トサカ鬼の角を得るために。



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