46話 予選
武闘大会の予選は、参加者がパフォーマンスで得点を競うというものだった。本戦へ進めるのはたった8名。
次はおれがパフォーマンスを見せる番だが、まだ係員からなんの指示もない。前の参加者が大魔法のパフォーマンスで、闘技台の石畳を壊してしまったからだ。
大勢の関係者が石畳のあったフィールド中央に集まり、困り果てた顔で相談している。おれはボケっと出番を待っているだけだった。
その間に、落雷魔法のパフォーマンスを行なった人の得点が、大きな布に書きくわえられた。その得点にたちまち場内が湧いた。
No 名 & Lv. 得点
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84 ヒューリウ Lv.51 50
85 ボボブマ Lv.18 99
86 佐藤 Lv.05
87 リリサ Lv.29
88 トアタラ Lv.07
89 アンナイニン Lv.01
大会の最高得点がでた。99だ。
できることならば、おれの順番の前にやらないでほしかった。
得点の高さで8位以内の者が本戦に出場できる。
暫定8位の者をリストから探した。
No 名 & Lv. 得点
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57 シュトガー・コルフィーノ Lv.42 54
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こいつの得点54を上回ればいいわけか。
54って、どれほどのパフォーマンスをやったのだろう?
いやいや、関係ない。おれが最高のパフォーマンスを見せればいいだけだ。
ようやく係員に呼ばれた。
いよいよおれの番か。
本来ならばパフォーマンスをフィールド中央にて行なうのだが、前述のとおり、85番の参加者が石畳を壊してしまったため、おれは端っこでやらざるを得なくなったらしい。
いくらなんでも端っこなんて寂しいものだ。もっと工夫はなかったのか。まあ、審査員から気を使われないのは、おれの圧倒的なレベルの低さによるものだろうけど。
フィールドの端へと歩いていく。
観衆はこんなに多いのに、誰もおれに注目なんかしていない。レベル5の参加者なんて興味ないのだ。それでもパフォーマンスが始まったら見てくれるだろうか。
観衆の拍手が審査に影響を与えるのは知っている。それを考慮すると、いまの状況はたいへん不利だといえよう。
しかし審査を行なうのは最終的に審査員だ。審査員たちからは物理的な距離が近くなった分、有利にもなったと考えられないだろうか。自信を持たなくては、いいパフォーマンスなんてできっこない。
指定された位置に立った。
大きく息を吸いこむ。腹からめいっぱいの息をはいた。
目を閉じ、頭の中で音楽を奏でる。
それでは見せてやろう。おれの『武勇の舞』を。
舞った――。
力強く、勇ましく、美しく、優雅に。
刮目するがいい。これぞ踊り子の本気だ。
パフォーマンスでは誰にも負けたくはない。
観衆の視線を肌に感じる。
初めの方こそ散々だったが、いまはみんなが注目している。
どんなものだ!
ジャライラ町のギルド仲間たちに見てもらいたかった。おれの成長を。
シャスラ、何もできなかったおれに、あなたが手とり足とり教えてくれたおかげですよ。
脳内に流れていた曲が終わる。ここでおれの『武勇の舞』が終了した。
見たか、審査員たち! これがおれのパフォーマンスだ。
深々と頭をさげる。大拍手に包まれた。
退場口の傍までいき、得点の表示を待った。
なんだかそわそわしてきた。
不安だ。おれとしては最高の出来栄えだったが……。
審査が終わったようだ。
係員が布に書きはじめる。
なんだか見るのが怖い。
だが、目を背けていたって仕方がない。
勇気をだして結果を確認する。
No 名 & Lv. 得点
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86 佐藤 Lv.05 58
87 リリサ Lv.29
88 トアタラ Lv.07
89 アンナイニン Lv.01
よっしゃ! 得点58だ。
8位どころか7位になっている。次のリリサのパフォーマンスがこの得点を抜いたとしても、おれの本戦出場は失われない。
おれはいったん退場した。しかしすぐに退場口へと引きかえした。
そこから仲間のパフォーマンスを見守るためだ。
リリサはどんなパフォーマンスを見せるつもりなのだろうか。
おれの得点が記載される前には、もう指定位置に立っていた。
ものすごい歓声を受けている。あのルックスだからだろう。リリサが手をふって返す。観客席は大盛りあがりだ。
そんなリリサと目が合った。
鋭い眼光がおれを射抜く。
おいおい。頼むから、おれに対抗意識を燃やさないでくれ。
そしてパフォーマンスが始まった。
リリサの歌声が場内に響く。この声量には感服する。
誰もが美しい歌に陶酔させられている。まるで魔法のようだ。
前半の春のような静けさから、後半は夏のような陽気なダンスを交えてきた。
さすがに巧い。まるで天女が踊っているようだ。息も切れずに歌い続けている。
やっぱりリリサは、たいした奴だ。
歌と踊りが終わると、大拍手で場内の空気が震えた。
大観衆は総立ちだ。拍手が鳴りやまない。審査員たちも感動に涙を流しているではないか。
踊り子としてほんのちょっとジェラシーを覚えた。
リリサが退場口に歩いてくる。
どうだといわんばかりの得意顔だ。
係員が布に得点を書きたす。
No 名 & Lv. 得点
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87 リリサ Lv.29 10
88 トアタラ Lv.07
89 アンナイニン Lv.01
盛りあがったのに得点はたったの10。結果がでるのもずいぶん早かった。
審査員に対して観衆から大ブーイングが起きた。
リリサも納得していないようだ。可愛くすねている。
だが仕方あるまい。
リリサはただ歌って踊っていただけだ。
確かにパフォーマンスは最高芸術だった。
だけどさあ、おれをライバル視するあまり、武闘大会であることを忘れていたんじゃないのか?
顔をあげて睨んできた。頬をふくらませている。
おれのせいか?
しかしさすがは歌女リリサ。不満そうな表情をしながらも、観客席には大きく頭をさげた。
そしてトアタラの番がやってきたが……。
大丈夫か?
所持している『仔龍の短剣』は、比類のない優れものだ。
それをパフォーマンスにどう活かす?
係員に連れられ、指定された位置に立つ。
リリサ同様、パフォーマンスの始まる前から拍手を受けている。
ああ、ルックスって大事なんだな。
トアタラはカチカチに緊張しているようだ。
がんばれ、トアタラ!
さて、彼女はどんなパフォーマンスを?
トアタラが口を開く……。
「88番、トアタラ。ナタン村の村歌を歌います」
駄目だ、こりゃ。




