45話 城下町ベルレイム
4人での朝食。食卓に並んでいるのはバターブレッド、アヒル卵のバター焼き、それからバターミルクも。カロリーは高そうだ。
案内人の体力はすっかり回復したみたいだ。きょうの出発に問題はなかろう。
食事中、乗合馬車の話を切りだした。昨夕3人で調べてきたベルレイムまでのルートについてだ。
話を聞いた案内人は、不機嫌そうにこういった。
「武闘大会に参加したいんだよね? 乗合馬車なんて考えていたら無理。間に合わない」
苦労して情報収集してきた結果がそれかよ。じゃあ、どうしろというのだ。そもそも『間に合わない』っていう懸念は、案内人の体力不足のせいではないのか。もちろんそれを口にするつもりはないが。
案内人が言葉を足す。
「トサカ鬼の角を手に入れるには、ある程度の出費を覚悟すること」
それについては覚悟している。最終的にシン先生に占ってもらえるのならば、所持金すべてを使いはたしたっていい。
「わかってる。だから詳しく話してくれ」
案内人はうなずいた。
「大会はあしただったはず。だから乗合馬車を諦めて、馬を買う必要がある。すなわち乗馬でベルレイムにいくしかないという意味。わかる? 馬の相場は1頭あたり10,000マニーだと聞いている。初心者が乗る場合、気性の穏やかな馬に限定されるから、12,000マニーくらいはするかもしれない。4人分ならば4頭で48,000マニー。なあに、ベルレイムに着いたら売ればいい。ただし我々は商売人としての交渉力はないので、高く買って、安く売ることになる。それでも片田舎で馬を買って大都会で売るというのは、まだ救いがあるといえるだろう。もし逆だったら大損することになっていたから」
48,000マニーとはかなりの高額だが、そのくらいならばおれの所持金でなんとかなる。しかも到着地で売れば、ある程度のカネは戻ってくる。問題ない。
どうにか宿屋の伝手で、馬を売ってくれる人に知りあえた。4頭買って46,600マニー。想定額より安く購入できたのが嬉しい。
さっそく城下町ベルレイムを目指した。
4人とも乗馬初心者だが、みな優しい馬だったので、無難に乗ることができた。
馬といっても休憩は必要だ。
2時間程度進ませたら、30分くらいは休ませた。
川のほとりの草原で1晩野宿し、翌日午前にベルレイムに到着した。
城下町のベルレイムは、この異世界で見てきたどこよりも都会だった。
人々がおしゃれならば、町自体もおしゃれだ。
大きな中央広場に、剣を天に向けた人物の巨大像が立っている。この地で約150年前に大活躍した有名な侯爵だという。
町の観光をしたいところだが、おれたちには時間がない。馬を売っている時間もない。馬は有料の預かり所に連れていった。
これから大急ぎで武闘大会に参加しなければならない。大会の優勝だけが、トサカ鬼の角を手に入れる唯一の方法だ。
大会は侯爵の住む城と隣り合った闘技場で開催されている。その『されている』というのは、すでに始まっているという意味だ。最悪、もう参加を受けつけていないことだって考えられる。とにかく急いだ。
闘技場に到着。
実に壮麗な建築物だ。思わず見入ってしまった。
「受付はそろそろ終わりますよー」
男の声が響いた。
受付はまだ終わっていなかったということだ。
どうにか間に合いそうだ。
受付窓口へとダッシュ。
4人の中で先に到着したのはおれだった。
乱れた息を整え、大会出場を申請した。
現在、行なわれているのは、予選ともいうべき出場審査なのだという。
本戦に出場できるのはたった8名。
申請を終えた者は、会場で出場審査を受けなければならない。
おれは86番のカードを渡された。
係員に連れられて闘技場に入っていく。
場内通路を進んでいくと、その先にフィールドが見えた。
大観衆の拍手が鳴りひびいている。
フィールドの隅に1人の男がいた。彼は観客に頭をさげ、退場していく。
係員の話では、大会参加者の1人1人が大観衆の前で、武術や魔術のパフォーマンスをすることになっているそうだ。出場審査とはそのことだ。観客の拍手は審査員の採点にも影響を与えるらしい。そして高得点を叩きだした者だけが、本戦へ進めるのだという。
巨大な布が掲げられている。そこに参加者の名前が記載されていた。
すでにおれの名前も追加されているではないか。仕事が早いものだ。
No 名 & Lv. 得点
01 フアイ・ノーロア・サーフ・ヰズナ Lv.22 24
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77 ミュッフェ Lv.77 85
78 アゾンルード Lv.21 28
79 ウェイティ・オー Lv.40 38
80 ナッセル・ハーウィ Lv.25 35
81 パテア・ヨミトカ Lv.34 40
82 ハフンブーイ Lv.24 41
83 リンドボア Lv.27 32
84 ヒューリウ Lv.51
85 ボボブマ Lv.18
86 佐藤 Lv.05
レベルまで公開されているが、最も高いのは43番手のLv.81だ。バクウより高いことになる。ちなみに最も低いのがおれのLv.05だ。これで優勝を狙えるのだろうか……。
いま84番のヒューリウの得点が書きたされた。50点だ。
するとフィールドの隅にいた男がまた1人、観衆に手をふりながら退場していった。おそらく彼がヒューリウなのだろう。
ところでフィールド中央の台に、さっきからずっと人が立ちつづけている。背丈は低く、ずんぐりとした体型だ。彼が85番のボボブマって人のようだ。公開されたレベルが低いせいか、観衆の関心はすこぶる低かった。それでもおれのレベルよりずっと高い。
出場者名簿の布に新たな参加者が書き加えられた。
No 名 & Lv. 得点
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87 リリサ Lv.29
88 トアタラ Lv.07
89 アンナイニン Lv.01
トアタラまで参加している。ちょっとどうするんだよ。いくら仔龍の短剣があるからって無茶だろ。
それから89番のアンナイニンって、もしやおれたちの案内人のことか。おいおい、何を考えている? どうなっても知らねーぞ。
突然のことだった――。
この闘技場にすさまじい落雷があった。
目が眩むほどの光と、大爆発のような轟音。
あたかも100や200の雷が合わさったような強烈なものだった。
闘技台の石畳が完全に破壊されていた。
この大魔法が85番のボボブマのパフォーマンスだと知り、正直なところ度肝を抜かれた。こんなのはもう反則級だ。
闘技場は大拍手に包まれた。観戦するだけの彼らにとっては、最高のパフォーマンスだったようだ。




