44話 メガネ
______登場人物______
【佐藤 (Lv.5)】一人称は平仮名の『おれ』。職業は踊り子。爬虫類が大の苦手。
【トアタラ (Lv.7)】呪いによって人間に変えられてしまった少女。
【リリサ (Lv.29)】ロリっこフェイスの歌女。呪いによって体を男に変えられた。
【? (Lv.1)】仮面をつけた案内人。
【シン先生 (Lv.99)】謎の占い師。Lv.99というのは自己申告のため怪しい。
【峠の番人 (Lv.?)】人間でも魔物でもない謎の大女。若い男の子が大好き。
「きょうも泊まっていけばいいのに」
峠の番人はそういうが、断固として断った。
彼女が顔を近づける。
「ずっと不思議に思ってたんだけど、どうしてそんなのを顔につけてるの?」
メガネを彼女に奪われた。
「ほーら。ない方が可愛いじゃない。目ぇー、結構大きかったんだね」
リリサも顔をのぞいてきた。
じっと見つめられると、なんだか照れくさい。
「うん、そっちの方がマシね」
「でもそれがないと遠くが見えにくいんだ。おれ、近視だからな」
さらにはトアタラまでもが、花の顔を寄せてきた。興味津津といった面持ちだ。
おれは久々に嘔吐した――。
「あ、あの……そういうの、そろそろ終わりにしてもらえませんでしょうか。わたし、女の子としてひどく凹みますので」
「ご、ごめん」
おれの失態に峠の番人が呆気にとられている。
この隙にリリサが彼女の手からメガネを奪った。いたずらそうにメガネをかけてみせる。
さすがはリリサ。可愛い……。思わずギュッとしたくなる。
「似合う子には似合うんだね」
と峠の番人。
悪かったな、似合わなくて。
しかしリリサはすぐに外してしまった。頭がくらくらするらしい。
峠の番人がまたメガネをリリサから奪いかえす。
「似合わないのにこれをつけてるのって、近視という理由だけ?」
「そうだが、ほっといてくれ」
すると彼女はメガネを強く握り、壊してしまった。
あーーーーー!
何しやがるんだ! この異世界にメガネ屋はないんだぞ。
おれは半泣き状態に。
「近視なら治せるよ」
「嘘だろ?」
「本当よ。魔術儀式で超簡単に」
「やってくれるのか」
彼女はにっこりと首肯した。
鼻歌を歌いながら、地面に大きな陣を描く。
パチンと指を鳴らすと、陣の八方の隅に小さな火が灯った。
赤い炎、黄色い炎、青い炎、白い炎。それぞれ2つずつ。
「では魔術儀式をとり行ないます」
おれを陣の中央に正座させた。
リリサが不審そうな表情を浮かべている。
「魔術儀式で視力を正常化させるって、聞いたことないんだけど」
そんなリリサを、峠の番人が叱責する。
「静かになさい。失敗したら失明することもあるんだから」
おいおい、大丈夫か。
陣の中に熱気がこもる。
峠の番人は舌を伸ばしてきた。
両目の周囲を舌先でなぞる。片目ずつ瞑らせ、瞼の上も舐めていく。さらには顔全体までも。
「目以外は関係なくありませんか」
と聞いたら、やはり叱られた。
もうどのくらい顔を舐められているだろうか。
「はい、おしまい」
目を開けた。
視力は変わっただろうか?
あっ……。
「見えるぞ、見える」
傍にそびえる大樹のてっぺんの方まで、小さな葉っぱが1枚1枚よく見える。離れて立つトアタラやリリサの顔もくっきりとしている。メガネなしでここまで見えるとは!
峠の番人に「ありがとう」と礼をいった。
「こちらこそ、ア・リ・ガ・トっ」
ウインクとともに返してきた。こっちは礼をいわれる覚えはないのだが。
そろそろ峠をおりなくてはならない。山麓の村クリスへ向かうのだ。
「ねえ。お土産を持ってってよ」
峠の番人から小さな箱を渡された。非常に貴重で高級なお香だという。
どれほどの価値なのかは不明だが、とりあえずふたたび礼をいった。
では、峠を越えるとしようか。
4人で歩きだした。
峠の番人が手をふっている。
「またきてね。できれば若い男の子をいっぱい連れて」
リリサがオトコだとバレなくてよかったと思う。
リリサを肘で軽く小突いてやった。
「何よ」
「別に」
足を踏まれた。
ところで案内人が無事だったのは、まだ子供だからだろうか。それとも仮面を被っていたからだろうか。
※佐藤は案内人が同年代の少女であることを知りません。
起伏の激しい山道やケモノ道を進んでいく。
いくつかの山を越え、やっとの思いでクルス村に戻ってきた。
大通りの雑踏にホッとする。
もう足がパンパンだ。でもおれはまだマシだった。案内人は疲労の限界に達しているようすだ。もはや歩くことすら難しそう。きょうこのまま村を出発するのは、とても無理だと思われる。
一昨日と同じ宿に泊まろうとしたところ、案内人はもっと料金の高い宿を所望するのだった。もちろん支払いはこっちの負担となる。だがトサカ鬼の角の情報をくれた案内人には逆らえない。
今夜はゆっくり休んで、明日のために体力を回復しておいてほしい。
早めの夕食のあと、案内人はすぐベッドに入ってしまった。
外はまだ明るかったので、トアタラとリリサを連れて散歩にでかけた。
村歩きしながら情報収集も行なった。城下町ベルレイムへのいき方は案内人が詳しいだろうけど、一応おれたちも調べてみることにしたのだ。案内人がどれだけ最新の情報を持っているのかは不明だが、交通というものは時とともに変わっていく生き物なのだ。
村人に聞きまくってわかったことだが、クルスからベルレイムへいくのは結構大変らしい。いくつかのルートはあるのだが、最低でも2回、乗合馬車を乗りかえなくてはならないようだ。
あした案内人に報告しよう。




