43話 朗報
______登場人物______
【佐藤 (Lv.5)】一人称は平仮名の『おれ』。職業は踊り子。爬虫類が大の苦手。
【トアタラ (Lv.7)】呪いによって人間に変えられてしまった少女。
【リリサ (Lv.29)】ロリっこフェイスの歌女。呪いによって体を男に変えられた。
【? (Lv.1)】仮面をつけた案内人。
【シン先生 (Lv.99)】謎の占い師。Lv.99というのは自己申告のため怪しい。
【峠の番人 (Lv.?)】山の妖精と暮らしている大女。若い男の子が大好き。
トサカ鬼の角を得ることに失敗した。
もうこれで、シン先生には占ってもらえなくなった。
渓谷から山をのぼっていく。会話はない。誰もが黙りこんでいる。陰鬱な空気の原因はおれにあったが、この沈黙を破るのもおれだった。
「ちょっと休憩させてくれないか」
休憩なんて、これまでいつも案内人が要求してきたことだ。今回は珍しくおれが頼んだ。みんなの足が止まる。承諾してくれたようだ。
地面に剥きだした大樹の根っこに腰をおろす。膝の上に肘をつき、低くなった頭を抱えた。一気に押しよせてくる疲労感。全身に広がっていく虚脱感。何もかもが面倒に思えてきた。長くて深い息を吐いた。もう何度目の嘆息だろう。
トアタラが落ちつきなく、おれの周りをウロウロしている。リリサは隣にずっと立っていた。わかっている。2人とも心配してくれているのだ。
一方、案内人は地べたに尻をつけ、ぐったりしている。体力的に限界がきているようだ。それでも暫くすると、ひょっこりと立ちあがった。わざとらしく咳払いしたのち、衝撃的なことをさらりと口にするのだった。
「……トサカ鬼の角を入手する方法ならばまだある。場所は城下町ベルレイム。半年ごとに開催される『武闘大会』優勝の副賞が、そのトサカ鬼の角だったはず」
何っ? おれは思わず目を見開いた。
トサカ鬼の角が手に入るかもしれないってことか。
本当かと問いただすと、案内人はチッと舌打ちした。
「話しかけないのがルールでは?」
そりゃまあ、そうだが。
相変わらずの冷たい語調だった。
ところでベルレイムとは聞きおぼえのある町だ。はて、どこで聞いたんだっけ? 思いだした。耳にしたのは乗合馬車の乗継地点でのことだ。あのときはジャライラ町からシャザーツク村へいく途中だった。乗継地点でおれたちをおろした乗合馬車は、ベルレイム町へ向かっていったのだと記憶している。
「佐藤、いってみましょう」
トアタラが真っ先にそういってくれた。
そしてリリサも。
「それがいい、いってみようよ。わたしとしても、武闘大会なんてレベルあげのチャンスだもん」
2人の笑顔が背中を押してくれた。
トサカ鬼の角を手に入れる可能性はまだ残っていた。それに賭けてみようか。
案内人に頼みこむ。
「案内のことなら口を利いてもいいんだよな。ベルレイムのいき方を教えてくれ」
チラリと冷めた一瞥がきた。
「これからいってやってもいい。ついてくれば?」
「ついていく! 一緒にいってくれるのか、ありがとう」
案内人に向かって平身低頭した。
こいつ、舌打ちばっかで愛想なんてないが、実はイイ奴かも?
なんとなく仮面の下が気になった。
さて、まずはクルス村に戻らなくてはならない。
そのためにはこの険しい山をのぼり、峠を越え……。
「ハァー。また峠の番人がでてくるんだろうな」
リリサがぴょんと前にでる。
「溜息なんてついちゃって。本当は嬉しいくせに」
「別に嬉しかねぇーし」
「わたしも佐藤がいじめられているところを見ると、心が苦しくなります」
「違うのよ、トアタラ。佐藤はあれで喜んでたの」
「本当ですか、佐藤」
「そんなことはない! リリサ、変なことを吹きこむんじゃねえよ」
霧がでてきた。
そろそろ峠にたどりつく頃だろう。無駄な努力かもしれないが、なるべく足音を立てないように歩いた。するとみんなも合わせてくれた……。ハクションっと案内人がくしゃみをするまでは。
「つーかまーえたー」
でやがった。また後ろからだ。
背中を圧迫する柔らかな2つの物体。とても気持ちいい……いやいや、迷惑だ。
ふり向くとあの笑顔があった。もちろん峠の番人だ。
「きょうはもう遅いから、ここに泊まっていきなさいな。山の夜は危険よ」
危険なのはあんたでしょうが。
峠の番人がパチンと指を鳴らす。
なんだ?
突然、周囲の景色が変わった。ここは丸い部屋の中。学校教室の半分くらいの広さがあり、天井は円錐状になっている。恐ろしいことにドアがない。完全な密室監禁状態だ。
まるでアナログ時計のインデックスのように、室内の壁際を12台のダブルベッドがぐるりと囲んでいた。
「どのベッドがいい?」
「1人用のがいいです」
「だーめ。そんなのないもん」
そのままベッドに押し倒された。
「なーんにもしないから安心して」
安心できるかっ。
激しい抵抗も空しく、添い寝されることに。
「わたしと一緒はイヤ?」
「イヤに決まってるでしょ」
もちろんそう答えた。
峠の番人の腕に力が入る。
「いーの」
「よくない」
抵抗できない。
いつの居間にかそのまま眠りについてしまった。
目を覚ますとうっすらと霧に包まれていた。もう、あの密室の中ではない。ここは草や葉の上。峠の番人の眠りによって、魔術のようなものが解けたのか?
あたりが少し明るくなっている。ようやく朝を迎えたようだ。
トアタラがいる。リリサがいる。案内人がいる。みんな眠っていた。
隣にいる峠の番人もまだ熟睡状態。
この間にみんなを起こし、峠を越えてしまおう。
リリサの耳もとでささやく。
「おい、起きろ」
目を開けたリリサはおれの顔を見るなり、「きゃっ」と甲高い声をあげた。
「襲われるかと思ったじゃない。びっくりさせないでよ」
「誰が襲うか!」
リリサの声にトアタラや案内人だけでなく、峠の番人までも起きてしまった。




