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39話 朝


 ______登場人物______


【佐藤 (Lv.5)】一人称は平仮名の『おれ』。職業は踊り子。爬虫類が大の苦手。

【トアタラ (Lv.7)】満月の夜は呪いが解け、ムカシトカゲに戻る。

【リリサ (Lv.29)】満月の夜は呪いが解け、少女に戻る。ただし21歳。

【???】仮面をつけた案内人。



 踊りをやめたリリサは、小川にそっと足を入れた。

 冷たいっ、といって肩をすぼめる。

 水を蹴りあげた。子供のようにバシャバシャと水面を踏みつぶす。


「ねえ、佐藤はそろそろ宿に戻って、もうひと眠りしたらどう? 今夜は突然起こしちゃってごめんなさい。それからここまでつき合ってくれてありがとう」


 足踏みをやめて、一礼してきた。

 そしてまた足踏みを始めた。


「リリサこそ、まだ帰らないのか?」

「満月の夜はいつもずっと起きてるの。だって勿体ないから」

「じゃあ、おれも今夜は眠らずに、朝まで遊んでいく」


 リリサが両手を後ろに組む。


「どーしてかな」

「そりゃー、完全な女の子のリリサの姿を、もっと眺めていたいからだよ」


 すると足踏みをやめて小川からでてきた。

 こっちに向かって歩いてくる。

 大樹の幹を背に座っているおれの前に立った。


 彼女が屈む。キュートな顔が間近に迫ってくる。

 おれは思わず、のけぞった。


「なんだよ」

「佐藤のエッチ」


 踵を返して小川に戻っていった。


「佐藤もこっちにきたら? 冷たくて気持ちがいいから」

「おれはここからリリサを眺めているだけでじゅうぶんだ」

「本当ぉーに、佐藤のエッチ」


 さっき泣いたカラスがもう微笑(わら)った。


 彼女はとんでもない相手に立ち向かおうとしている。おれもこの異世界にあるかどうかもわからないインドを探しもとめている。そうさ、夢や願望はデカくたっていいじゃないか。


 リリサが月を見あげる。


「満月の下の蛍たち、トアタラにも見せてやりたかったな」

「そうだな」

「声をかけようとしたけど、ベッドにいなかったの。だから佐藤を誘った」

「なんだ。おれ、代わりだったのか」


 ちょっとがっかりした。


「だけど佐藤とここにこれて、本当によかった」

「本当かよ」

「うん。佐藤じゃなかったら、あんな話はできなかった」


 リリサが鼻歌を歌う。小川の真ん中でまた踊る。


「次の満月も一緒に夜更かししようぜ」


 鼻歌と踊りが止まった。べぇーと舌をだす。


「だーめ。次の満月はトアタラと2人だけで散歩するの」

「じゃあ、おれは?」

「お留守番」

「どうしてだよ」

「だって佐藤は視線がエッチだから。トアタラはいま何してるのかなあ。満月だから呪いが解けるんだよね」


 呪われる前のトアタラを、リリサは知らない。おれの口から話すつもりはない。リリサは内心知りたがっているだろうが、ちゃんと理解している。人には隠しておきたい秘密があることを。リリサ自身も同じだから。


 それはそうと……。

 リリサのつぶやいていたことだが、トアタラはいま何をしているのだろう。

 ムカシトカゲに戻っているはずだが……。

 大丈夫だろうか? 誰かに捕獲されていないだろうか?

 心配になってきた。


「ねえ、佐藤。トカゲ捕まえちゃった」


 えっ? おいおい、このタイミングで何をいうか。


「受けとめてね。ほら、パス」


 両手で放られたトカゲが腹側から宙をつき進む。

 パニクったおれは何もできず、そのまま顔面キャッチ。


 気絶した――。



 目を覚ましたらリリサが傍にいた。

 徐々に状況把握していく。そして思いだした。


 ああ、トカゲ!


 だが気絶する直前、刹那にトアタラを見た記憶がある。

 それも一糸まとわぬ姿で。


 そう、あのとき陽がのぼりはじめていたのだ。

 顔面が受けとめていたのは美少女の素肌だった。



 ところでおれは気を失っている間に、シャツとズボンを脱がされていた。トアタラがそれを着こんでいる。まあ、当然そうなるだろう。

 トアタラの衣服は宿の部屋においてあるとのことだ。リリサがこれから彼女の服をとりにいってくるのだという。


 リリサが返ってくるのを待ちながら草地に寝そべった。

 トアタラも隣に寝そべった。

 明けていく空を一緒に眺めた。



 きょうのできごとがあって、リリサはトアタラの秘密を知ることとなった。

 またトアタラもリリサから、呪いの秘密をうち明けられたそうだ。


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