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35話 大男

 ______まえがき(登場人物のおさらい)______


【佐藤 (Lv.4)】一人称は平仮名の『おれ』。職業は踊り子。爬虫類が大の苦手。

【トアタラ (Lv.5)】呪いによって人間に変えられてしまった少女。

【リリサ (Lv.29)】ロリっこフェイスの歌女(うため)。呪いによって体を男に変えられた。

【???】仮面をつけた案内人。

【シン先生 (Lv.99)】謎の占い師。Lv.99というのは自己申告のため怪しい。



 リリサはカードゲームにあと1手で勝てるところだった。フィニッシュと叫ぶ声には、それほどの自信が込められていた。

 最後の1手を邪魔したのは大きな手。リリサの細い腕を掴んでいる。見あげた先には、大男がそびえるように立っていた。荒くれ男7人のうちの1人だ。仲間の大男たちが笑う。


「ハンズ、そんなガキっぽいのが好みだったのかよ。ガハハハハ」

「うるせえ、可愛けりゃいいんだ」

「おれはそっちの澄ました顔のネーちゃんの方が好みだな」


 店内は大男たちの笑い声に包まれた。


「手ェー、放してくれないかなあ」


 リリサの表情はキレる寸前だ。


「いいから、こっちにこい」


 ハンズがリリサの手を強引にひっぱると、手持ちのカードは宙に舞いちった。

 リリサが般若の形相と化す。


「てめ、ぶっ殺す!!!!!!!」


 耳を疑った。


 怒り心頭のリリサが発した声は、もはや、ぶりっこ少女のものではなかった。どことなくオトコっぽさも含んでいた。呪いのかけられたリリサの“素の声”を、おれはこのとき初めて聞いた。

 リリサはいままでずっと無理しながら幼い少女の声をだし、がんばって生きてきたのだろう。呪われたあとも心だけは少女のまま。はかり知れないほどの苦労人だったに違いない。


 華奢な右腕は掴まれたままだった。左手の親指と人差し指で円を作る。

 えいっ、というかけ声で刹那に火花が散った。バチンという音も伴っていた。


 ハンズはその場にバタっと倒れた。失神したようだ。


「どうだったかな、わたしのビリビリは? 寝てちゃわかんないよ」


 リリサの声はすっかり可愛らしさをとり戻していた。

 (しな)を作るように小首をかしげている。


 ちなみにビリビリとかいってたが、電流でも流したのか。


 ゲームの勝利を邪魔してくれた大男への報復が済むと、リリサはそれですっかり溜飲がさがったようだ。愛嬌たっぷりの照れ笑いとともに、椅子に座りなおした。


 仲間の大男6人が立ちあがる。

 のっしのっしと歩いてきた。


「よくもハンズをやってくれたな」


 リリサはバラバラになったカードを集めてシャッフルしている。


「おいおい、何、無視ぶっこいてんだ!」


 それでも気にする素振りを見せない。

 すると厨房から店主の声がとんできた。おれたちへの忠告だ。


「お客さんたち、彼らはレベル20代の凄腕の者たちです。この場は謝った方が正解です」


 リリサはシャッフルする手を休めた。退屈そうな面持ちで、ガラスのない窓穴から外の景色を眺める。


「レベル30未満を倒したって、わたしのレベルあげにはならないからなあ」

「何をボソボソいってやがる。おい、てめえら、聞いて驚きやがれ。俺らは向こうの渓谷に住むトサカ鬼の末裔なんだぞ! ビビったか」


 トサカ鬼の末裔?

 おれとトアタラの目がきらりと光った。2人の声がハモる。


「「角っ!」」


 願ってもない僥倖だ。


 おれはすっーと立ちあがった。足で床を鳴らし、リズムをとる。ジャライラの踊り子ギルドで教えてもらった『武勇の舞』だ。

 トアタラも仔龍の短剣を手にとった。


 荒くれ男たちも短剣を握る。

 戦闘開始だ。


 武勇の舞の素早い動きで、6人の大男たちを翻弄する。彼らの短剣は空振りばかりだ。歯ぎしりしながら焦っていく巨顔が、これまた面白くて愉快だった。

 自分でも驚いた。へえ、おれってこんなに強くなっていたのか。もちろん厳しかった特訓の成果だ。あの町のギルド仲間たちに感謝したい。


 敵の攻撃をかわすのにも飽きてきた。そろそろこっちが攻めに回ろうか。そう思っていたところへ、大男たちが血を流しながらバタバタと倒れていった。


 これは?


 何もなかった空間から、さながら幽霊のようにパッと人が現れた。トアタラだ。彼女の仔龍の短剣は真っ赤に染まっていた。


 えっ? おれの頭が混乱している。

 椅子に座りながらリリサが笑っている。リリサにはこの状況が理解できているのか。


「トアタラ、教えてあげなさいよ。佐藤が馬鹿みたいに、ぽかんとしてるから」

「はい、実はこれを使ってみました」


 彼女が見せてくれたのは手鏡だった。

 思いだした。『白闇の鏡』だ。ナタン村で山賊を倒したときの戦利品であり、その能力は光のあるところで一時的に姿を消せるというやつだ。


「すごいじゃないか、トアタラ。こんな方法で闘えたんだな」


 するとリリサが口をはさむ。


「魔力の低い相手なら有効かもしれないけど、そういうのって魔力の高い相手には通用しないから気をつけてね」

「そんじゃ、リリサにはトアタラが見えてたとか?」

「ええ、うっすらとね。それよりさ、敵はまだ残ってるんだから、早いとこ片づけてよ。カードゲームの勝負、終わってないんだから」


 まだゲームを続けたいらしい。弱いくせに。


 残った敵はあと1人。

 トアタラが仔龍の短剣をふる。

 敵の大男は防御すべく丸い盾をつきだすが、仔龍の短剣がそれを真っ二つにきり裂いた。

 すさまじい短剣だ。さすがは魔力が高くないと装備できないアイテムだけのことはある。その切れ味には感服するばかりだ。


「ひえええええ」


 大男が奇声をあげて後ずさりしている。顔面蒼白で手足が震えていた。

 トアタラが澄ました顔で一礼する。


「アタマ、切らせてもらいます」


 おいおい、アタマじゃなくてツノな。

 いい大人が泣きじゃくる。


「ゆるしてください~、ゆるじでぐだざい~」


 おれはトアタラが彼を脅している間に、ほかの倒れた大男たちの兜を脱がせていった。しかし角の生えた者はいなかった。

 ならば泣いているそいつに期待するしかなさそうだ。彼に声をかける。


「彼女に殺されたくなけりゃ、兜を脱いでみろ」


 大男はスキンヘッドを見せた。角はなかった。


「トサカ鬼の末裔のくせに角はないのかよ」

「ありません。嘘ついてました~」


 おれとトアタラは2人並んで、ガックリと肩を落とした。



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