27話 ギルド仲間
次のステータス確認はリリサの番だ。
石板に手をかざすと、光の板が浮きでてきた。
あなたのステータスは以下のとおりです。
年齢 21
レベル 29
職業 歌女
攻撃力 37 + 1
防御力 35 + 18
持久力 54 + 0
敏捷性 51 + 5
魔力 176 + 11
魔法 炎球 湯球 氷塊 氷結 毒煙 石礫 砂嵐 旋風 暴風
放電 閃光 火柱 水柱 小爆発 千本針 霰 液体凝固
遠声 遠耳
特技 眠りの唄 混乱の唄 癒しの唄 悪夢の唄 木霊
所持金 39,668マニー
装着品 小刀 風の帽子 虹のイヤリング 星のペンダント
風の小手 妖精のワンピース 踊り子の靴
その他 呪われています。ただし満月の夜間のみ呪いが解かれます。
まず何よりも年齢に一驚を喫した。
どう見ても年下なのに、かなり年上だったとは! 齢20を超えて恥ずかしげもなく、よくあんな“ロリっこ嬌態”ができるものだ……とは口にだせない。
レベルはさすがに高い。魔力については3桁だ。しかも多数の魔法が使えるようだ。特技も5種類。土の魔女に立ちむかおうとしただけのことはある。しかし彼女は不満そうに頬を膨らませている。
「ざーんねん。レベルアップしてなかった。がんばってきたはずなんだけどなあ」
「いやいや、レベル29なんてすごいじゃないか」
「でもねぇ、半年以上もずっと29のまま。30の壁が厚くてー。このくらいのレベルだと、仮に町の変質者すべてを殲滅したところで、少しもポイントアップにならないからね。本当はわたしが土の魔女にとどめを刺して、レベルアップする予定だったんだけど、佐藤に横取りされちゃったから! どーしてくれるのっ」
リリサは目をすがめ、人差し指をこっちに向けた。
「横取りって。人聞き悪いなあ」
「じょーだんだよ。わたしじゃ、全然敵わなかった。あー、レベルアップするためにはどうしたらいいのかしら……」
そんな物憂いげな表情は彼女に似合わない、と強く思った。
大聖堂をでて、おれたち3人はそれぞれ別れた。
リリサの行先については聞いていないが、トアタラはミレラのいるペットショップへ挨拶にいくそうだ。おれはいったん宿に戻り、戦利品の一部を持って道具屋に向かった。もちろん売るために。
土の魔女の持ち物は、想像以上の高値で換金できた。そのカネを手にしてギルドへ向かった。ギルドに対し、青光石を担保に借金しているが、いまはもう余裕で返済できる。
ギルドの建物に入っていく。
開き戸の向こうに先輩たちがいた。彼らを前にして一礼する。
「ご無沙汰しています」
「よう、佐藤じゃねえか」
嬉々とした面持ちで仲間たちが寄ってきた。
久々におれがきたことを喜んでくれた。しかしここのみんなも下痢や嘔吐に苦しんでいたらしい。高熱をだした者もいたとのことだ。
「やっほー」
数時間前に別れたばかりのリリサが手をふっている。
なんだ、この踊り子ギルドに遊びにきていたのか。
実は、昨日も一昨日も顔をだしていたそうだ。自分のところのギルドよりも、こっちの仲間の方が気が合うらしい。
オルファゴがおれの頭をくしゃくしゃにまさぐる。
「佐藤が土の魔女を倒してくれたおかげで、踊り子ギルドの株があがったぞ」
おれは首を小さく横にふった。
「信じられませんね。グラナチャが土の魔女だったんですから、むしろ評判は悪くなったと思っていましたけど」
「グラナチャが土の魔女だったことは、まだ世間にゃバレちゃいねえよ」
先輩たちの話では、多くの人がここに感謝を告げにきたそうだ。それは土の魔女に像に変えられていた女や、その家族たちだ。殺された男たちが蘇ることはないものの、像に変えられていた女たちのほとんどはもとに戻ったらしい。『ほとんど』ということは、もとに戻らない女像もあるということだ。例えば損壊のあったものなど。
よくよく聞いてみると感謝ばかりでなく、予想どおりクレームもきていたようだ。下痢や嘔吐、高熱の被害に遭った町人は少なくなかったらしい。
感謝もクレームも直接おれにくることはない。それらすべてをギルドがひき受ける。ギルドとはそういうものだそうだ。
また、領主や町長から金一封の礼があるかもしれないといわれていたが、それについて今回は『ナシ』だと正式に通知があったとのことだ。
シャスラにカネを渡した。これで借金の全額返済を果たしたわけだ。ふうっと息をはいた。すべてをやり終えたような気がしたのだ。
彼女は「青光石をとりにいってくる」といって、建物をでていった。
「ところで佐藤……」
フェルザヴァインが難しい顔をしている。
「……この町からでていった方がいいかもしれない」
するとオルファゴがズタズタと歩いてきた。
「待った。どういうことだ、フェル。佐藤にでていけっていうのか」
フェルザヴァインは首をふった。
おれに向き、肩に右手をそっと置く。
「佐藤は魔王の娘を退治した。はたしてその魔王が黙っているだろうか。当分、身を隠していた方がいいのではないかな。もちろん佐藤がいなくなれば、ボクもみんなも寂しがる。ただキミの安全を考えるならば、ということだ」
報復にくる可能性はじゅうぶんにある。しかも相手が魔王ともなれば、このうえなく危険だ。今度こそ死ぬかもしれない。
だがそんなことよりも、おれには町を離れなければならない理由があった。それにきょうで借金もなくなり、カネには余裕がでてきたのだ。
「実はおれも近々、町からでていくつもりでした」
オルファゴが驚いたような顔をする。
「はあ? 佐藤まで何をいってやがる。どこかいく当てでもあるのか?」
「当てとかいうんじゃなくて、いかなくてはならないところがあるんです」
「それはどこだ」
「インドです」
事務のシャスラが青光石を持ってやってきた。彼らとの会話はそこまでとなった。担保にしていた青光石を受けとった。
ギルドには後日あらためて挨拶にくることとなった。
ギルドから宿に向かう。
「佐藤ぉー」
追いかけてきたのは歌女リリサだった。相変わらずキュートで愛らしい笑みを浮かべている。
「ねえ、佐藤。わたしも旅にでようと思ってたところなの」
「リリサが?」
「ここにいたんじゃレベル29のまま。もっとレベルあげがしたいの。歌女ギルドのみんなは、レベルあげに興味ない人たちばかりだし、歌についてもあまり向上心が見られない。いずれ、わたしまでそんなふうになっちゃいそう。でも歌と魔法でこの世の人々を救いたいの。そしてゆくゆくは、魔……」
リリサは口を噤んだ。
「どうしたんだ?」
「わたしって、すぐ大きなことを口にだしちゃう。こんな夢みたいなことを語っちゃって馬鹿みたい、と思ったでしょ?」
「ううん、その夢、かっけーと思った。夢を語ってるのは、おれも同じだ。この世に本当にあるかどうかもわからないインドへいきたいなんてさ」
本当はこの異世界にインドなんてないのかもしれない。
「インドって素敵なところなの?」
「たぶん」
「ユートピアみたいな?」
「かつてインドをそう表現した人もいたよ」
※昭和の話です。
あれっ、ガンダーラってインドじゃなくて、実際にはパキスタンだったか?
何にせよ、おれの抱くイメージとしちゃ、インドとは古より多くの人が憧れた聖なる大地ってところだ。
「あのトアタラって子も、インドに連れていくの?」
「いいや、彼女にはここが合っている。ジャライラの町にきてから生き生きしてるんだ。ペットショップの仕事も楽しそうだし」
「ふうん」
リリサは背を向けて、おれの前を歩いているが、何か考えごとをしているようだった。
そして突然立ちどまり、くるりとふり返った。首を5°ほど右に傾け、無邪気な笑顔を見せてきた。
「それじゃ、佐藤。旅、わたしと一緒にしない?」
「リリサと?」
いたずらそうな目になった。
「ははん。もしかしてわたしみたいな女の子と一緒だと、ドキドキしちゃう?」
「いいや、リリサは男だろ」




