26話 レベル確認
嘔吐は数日で治ってくれた。しかし下痢については、なかなか治らなかった。トイレのない外にでられない状態が、なんと10日近くも続いたのだ。
そんな下痢もようやく治まってくると、現状のステータスが気になりだした。土の魔女を倒したわけだから、絶対にレベルがあがっているはずだ。
では、どこでステータスを調べられるのか? ナタン村ならば大聖堂で確認できた。だったらこの町の大聖堂でも可能なはずだ。
とりあえず大聖堂へいってみることにした。
トアタラもついてきた。以前とは違い、並んで歩くのは問題ない。特訓の甲斐があったというものだ。顔が40cm以上離れていれば、たぶん嘔吐の心配もない。
「あれ、佐藤? お久しぶり~♪」
背後からだ。このロリ声はリリサか?
ふり向いて確認する。
正解だ。キュートな顔がそこにあった。
「よう、しばらくぶり」
リリサが両足そろえて、ぴょんと跳びはねた。おれたちの前に立つと、屈託のない笑顔を見せた。そんな小動物のような動作が、とても可愛いらしくて困る。
「デート中? お邪魔だったかな」
いたずらそうに目をすがめている。
「そんなんじゃねえよ。ステータスの確認にいくところなんだ。で、いいところにきてくれた。リリサに教えてもらいたいんだが、この町の大聖堂でもステータスって確認できるのか」
「できるよ。デートじゃないんだったら、わたしもついていこうかしら。たまにはチェックしておかないとね。ところでトアタラ、わたしのこと、覚えてるかな?」
初めて2人が対面したは、トアタラが像にされる直前のことだ。リリサが声魔法『遠声』で彼女の名を叫んだのだが、距離がずいぶんとあったし、あのとき彼女の視線が探していたのはおれだった。
そんな状況下、はたしてリリサを認識できていただろうか。それに結構な日数が経っている。仮に覚えていたとしたら、むしろ驚愕に値することだ。
やはり首をかしげている。
「まあ、無理もないわね。わたし、歌女のリリサ。踊り子ギルドのみんなから、仲よくしてもらってるんだあ。よろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「きゃはっ、堅いんだ。ため口でいいよ」
「はあ」
いま、トアタラとリリサを連れて歩いている。
2人のルックスのよさは尋常ではない。とびきりの美少女だ。
すれ違う通行人たちから、おれはどう見られているだろう。
羨望か? そんなことはない。
ぷっ、つりあわねえ~、とか思われているに違いない。
笑いたけりゃ、笑うがいいさ。
町の大聖堂に到着した。息を呑むほど荘厳な建造物だった。
勝手に入ったら怒られるだろうか? しかしリリサはなんの躊躇もなく、すたすたと先をいった。ということは入ってもいいのだろう。
中に入ると、奥に台座のようなものがあった。上に石板が乗っている。バクウの小屋にあったものとそっくりだ。
そこに手をかざせばステータスが確認できるわけか。
「早くっ、佐藤からよ」
リリサに促された。
おれが1番手か? いいだろう。
少し緊張しながらも、土の魔女からの戦利品をしっかりと手に持った。小物はポケットに入れた。手をまっすぐ前にだす。
光の板が浮かびあがった。
あなたのステータスは以下のとおりです。
年齢 15
レベル 4
職業 踊り子
攻撃力 17 + 4 + ?
防御力 14 + 0
持久力 13 + 0
敏捷性 23 + 15
魔力 1 + 5
魔法 使える魔法はありません
特技 インド
所持金 エラー (担保による貸借があるため表示できません)
装着品 盗賊の証 魔人のウルミ 小刀 回復魔法の結晶 炎の指輪
その他 特にありません
いままでになかった年齢の表記があった。この異世界にきて年齢はどうなるのか、と心配にはなっているものの、いまは別にどうでもいい。
さて、レベルが2段階もあがっている。おそらく1つ目のアップが『武勇の舞』の厳しい特訓によるもので、2つ目のアップが土の魔女を倒したことではなかろうか。
攻撃力が一気に17まできたのは嬉しい。きっとこれも『武勇の舞』のおかげだ。ギルドの諸先輩に感謝しなければならないだろう。
気になるのは、装備品による攻撃力の加算ポイントだ。『+4』だけでなく『+?』も表示されている。この“はてなマーク”は何を意味しているのか。どのアイテムが原因となっているのだろう?
攻撃力に関わりそうなのは『魔人のウルミ』『小刀』『炎の指輪』の3つだ。小刀はなんの変哲もない小刀だろうから、残る2つのどちらかによるものだと思われる。まあ、考えるのはあとにしよう。
超長剣を両手に持った。へえ、『魔人のウルミ』ねえ。この超長剣って、そんな名前があったんだ。
ここでリリサが甲高い声をあげた。何かを発見したらしい。
「きゃっ、『回復魔法の結晶』なんて持ってるの? 驚いたー。それ、ものすごくレアだよ。もし人が瀕死状態になっても、それさえあれば完全回復できるの。ただし1回使用すれば砕けちっちゃうらしいから、むやみに使うべきではないわね」
土の魔女から得た宝石のことか。ポケットに手をつっこみ、それをぎゅっと握った。これはとんでもない宝だ。なくさないようにしなけれなならない。
続いてトアタラの番だ。彼女が石板に手をかざす。
あなたのステータスは以下のとおりです。
年齢 15
レベル 5
職業 愛玩動物
攻撃力 9 + 75
防御力 18 + 8
持久力 11 + 0
敏捷性 8 + 5
魔力 28 + 16
魔法 使える魔法はありません
特技 天気予報、暗視 物品鑑定
所持金 10,946マニー
装着品 白闇の鏡 仔龍の短剣 魔女のローブ 大地の靴
光の髪飾り 魔女のイヤリング 聖水の指輪
その他 呪われています。ただし満月の夜間のみ呪いが解かれます。
「あれ? トアタラの年齢、15だったのか。ヤモックからは14だと聞いていたけど」
「はい。この町に到着した翌日、15になりました。佐藤と一緒ですね。なんだか嬉しいです」
誕生日がきたのならいってくれよ、というセリフをはきたいところだが、あの頃、彼女を避けていたのはおれだった。いまのように近距離で会話することなんて、まったくできなかったのだ。ああ、忸怩たる思いとはこのことか。
彼女のレベルは5だ。知らない間におれよりも高くなっている。そのうちの1つは土の魔女に剣を刺し、ダメージを与えたことによるものか。
でも3段階もアップしているなんて、いったいどういうことだろう。心当たりを尋ねてみた。
「おそらく……何度か危険な目に遭いましたので」
「この平和なジャライラの町で、危険な目に?」
おれが驚愕していると、トアタラに代わって、リリサがこう話してくれた。
「佐藤は知らなかった? この町って踊り子ギルドにいるような紳士たちばかりじゃないの。変質者がものすごく多いんだ。特にトアタラのように綺麗で大人しそうな子には、本当に危険なところなのよ」
えーと。つまり……。
トアタラが首肯する。
「はい、それでミレラが武器の購入を勧めてくれました。この『仔龍の短剣』は本当に役に立ちました。それから土の魔女相手にも」
変質者を大量に刺して、レベルアップしたわけか。
澄ました顔して怖いもんだな。
でも無事だったようで何よりだ。
ところで彼女の攻撃力の加算ポイントが半端じゃない。『+75』ってすごすぎだろ。それって『仔龍の短剣』によるものか。
トアタラに頼んでちょっと借りてみた。この状態で石板に手をかざす。
エラー (仔龍の短剣を装備するには魔力が足りません)
そんな表示がでた。おれには使えないらしい。
ここである実験をトアタラに依頼した。おれの攻撃力の“はてなマーク”が気になっていたのだ。
仔龍の短剣の代わりに、魔人のウルミを持ってもらった。
彼女が石板で確認する。
攻撃力 9 + 1
魔力 28 + 36
攻撃力と魔力については上記のとおりだ。
おかしなことに、魔力加算ポイントが『+36』にもなっている。ははん、わかったぞ。仔龍の短剣を装備すると、高い攻撃力の代償として、20ポイント(36-16)も魔力が減算されてしまうのだ。つまり装備するには、魔力が20以上になっておく必要があるのだろう。
さて、肝心な攻撃力については、『+?』が表示されていない。ほかのアイテムでも試してみたが、やはり『+?』はでてこなかった。
「ねえ、佐藤。それって個人の特技と関係しているんじゃないの?」
リリサがそんなことをいった。特技を有効活用することで、数値に増減がでるってことか? しかし特技のせいで酷い目に遭っていたおれとしては、とうぶん特技のことを忘れていたかった。試してみるつもりなんて、さらさらない。だから結局わからないままとなった。
ステータス確認は、いよいよリリサの番だ。




