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21話 共闘

「その剣はどうしたんだ」


 土の魔女を刺した剣を見ながらトアタラに尋ねた。


「護身用に買ったんです。ミレラ……ええと、働いているお店の店員に勧められて。『仔龍の短剣』っていうそうなんです。攻撃力がすこぶる高くなる掘りだし物でした。代わりに『風の首飾り』を売ることになりました。でも『風の首飾り』にはカマイタチという魔法があったそうなので、ちょっと勿体なかったかもしれません」


 トアタラの『仔龍の短剣』の刃は、波打つような形状になっていた。おれもこの異世界にいるのなら、剣の1つくらい買っておいた方がいいのかもしれない。そのためにも早く借金を返済し、ある程度のおカネを稼がないとならない。


 この晩からトアタラと部屋をシェアすることになった。バクウの小屋を思いだす。ナタンの村にいた頃はそこの物置で、こう、一緒に寝泊まりしていたんだった。


 朝、目を覚ますと、金属鏡の前でトアタラが髪を梳かしていた。

 不思議な光景にも思えた。しかしなんだかほのぼのする。


 おはようと声をかけると、彼女は驚いたようにふり返った。おはようございますと返事がきた。

 よかったらどうぞ、と彼女がテーブルを指差す。パンとチーズが置かれていた。

 こんなことまでしてもらって申しわけない。感謝の気持ちでいっぱいになった。


 彼女は職場のペットショップへ向かった。

 だいぶ遅れて、おれもギルドへいった。雑用の仕事があるのだ。


 ギルドは宿から少し遠いのが難点だ。

 建物の前に到着。開き戸の向こう側から、仲間たちの賑やかな声が聞こえてくる。開き戸を開け、中に入って挨拶した。


 踊り子ギルドは美男美女ぞろいで眩しすぎる。自分も同じ踊り子であることが不思議でならない。

 グラナチャを見つけた。究極的に美しい姿はすぐ目に入る。彼女を見るのは3日ぶりだが、きょうもひときわ大きなオーラを放っていた。


 遅れてイケメンのフェルザヴァインがやってきた。絶世の美女グラナチャと話しこむ。2人が顔を合わせていると、実に絵になる。実はNo.1の美男美女同士でつき合っていたりして。

 ほかの先輩たちは、きのうの土の魔女の話で盛りあがっていた。おれも話に加わった。


「そうだ。佐藤、聞いたぞ。お前の泊まっている部屋に土の魔女がきたそうじゃないか。悪かったなー、土の魔女がでてくるような宿を紹介しちまって」


 そういったのはオルファゴだ。宿の主人から聞いたのだろう。


「とんでもないです。オルファゴには感謝していますから」


 先輩たちが驚いている。


「おいおい、土の魔女が宿にきたのか? よく無事だったな」

「はあ。おれも何がなんだか」


 トアタラの活躍については話さなかった。もし話せば彼女を巻きこむことになるに決まっている。彼女を危険にさらしたくない。


「それにしても佐藤は謎な人物だよな。夕方は土の魔女が佐藤の顔を見て逃げていくし、深夜に現れたときもまた逃げてったんだろ? 佐藤には土の魔女が苦手とする不思議な力でもあるのかな」


 そして別の先輩もいう。


「ああ、まったく謎だ。まず佐藤っていうのも聞きなれない名前だし、着ている衣服だって変わってらあ。顔につけているそれだって……。どうして目の小さくなるものをわざわざつけてんだ? まあ、ファッションセンスは人それぞれだけどさ」


 ここでオルファゴが嬉々として口をだす。


「佐藤はそんな個性的な身なりをしてるが、実はなぁ、女と一緒に部屋を借りてるんだぜ」


 誤解を招くようなことを吹聴するのはやめてほしいものだ。まったく!

 宿の主人も口が軽すぎる。もとの世界の日本だったら、個人情報漏洩の大問題になっていたぞ。


 彼の話に先輩たちが大騒ぎするものだと思ったが、案外、そうでもなかった。やるもんだな、という声はかかったが、その程度だった。あとで知ったことだが、異性の家に転がりこんでいる者は――あるいはそんな経験のある者は――このギルドに少なくなかったのだ。

 オルファゴの話はまだ続いた。


「でもそれがさあ、宿の主人によりゃー、彼女、グラナチャに匹敵するくらいの美貌の持ち主だっていうじゃねえか」


 ここで初めて騒然となった。大勢から「すげえじゃないか」などといわれ、髪を乱暴にくしゃくしゃにされた。

 美貌について自分と同じくらいだといわれたグラナチャは、面白くないらしい。どことなく目つきが鋭くなった。おそらく自分が1番じゃないと気が済まないタイプなのだろう。

 グラナチャと目が合うと微笑んでくれた。が、それはちょっと恐ろしげな笑顔だった。


 開き戸が開いた。

 外から誰かがまた入ってくる。


 その人物は踊り子ギルドの関係者ではなかった。


「やっほー。みんな元気ぃー?」


 笑顔で手をふっている。


歌女(うため)ギルドのリリサでーす」


 きのう土の魔女との闘いに加わった歌女だ。名をリリサというらしい。フェルザヴァインが彼女に問う。


「昨夕はごくろうさま。きょうはなんの用事でここへきたんだい?」

「共闘のお誘いにきました。一緒に土の魔女を倒しません?」

「どうしてボクたちと組みたいと?」


 彼女は両手を後ろに組み、ちょこんと肩をすくめた。


「歌女ギルドにも歌男(うたお)ギルドにも、土の魔女と闘おうなんて骨のある人は皆無なの。町の戦士たちもちょっとねえー。あれじゃ10年経っても勝てないでしょうし。だけどあなたたちならば見込みがあると思いますんで」


 オルファゴは腕組みしながら、首を横にふった。


「悪いけどボクたちは踊り子として土の魔女を倒したいんだ。名誉名声をほかのギルドと山分けなんてとんでもない」

「でも土の魔女が出現するたびに、男子が心臓を食され、女子が像にされつづけています。この状況を1日でも早く止めたいのです。みんなが平和を願っているのです。それなのに自分たちの名誉や名声が優先ですか」


 フェルザヴァインが天井を見あげる。


「うーん、それもそうだ。踊り子ギルドだけでなんとかしたいというのは本音だが、みんなの平和なんていわれてはNOといえなくなる」

「だがよう、フェル。いままで俺たちはギルドのために、特訓してきたんだぜ?」


 ほかの先輩たちも、あーだ、こーだ、といいだした。

 すると事務のシャスラがやってきた。


「祖父の代理としてわたしが決断させていただきます」


 おれは隣にいた先輩に小声で尋ねた。


「シャスラの祖父ってなんなんです?」

「あら、佐藤は知らなかった? お爺さんがギルド長やってるの。いま入院中だから、シャスラがギルド長の権限を一時的にひき受けているわけなのよ」


 そのシャスラはフェルザヴァインに目配せすると、リリサに笑顔を向けた。


「共闘に賛成です。町の平和を優先しましょう」

「シャスラはフェルに甘いからな」


 オルファゴは舌打ちした。ずいぶんと不満そうだ。

 歌女リリサが低頭する。


「ありがとうございます。みなさん、よろしくお願いします」

「キミの魔法は素晴らしかった。土の魔女退治に役立つことだろう」


 フェルザヴァインの言葉に、リリサは屈託のない笑顔を見せた。


「あなたの『剣の舞』、とても素敵でした。それからみなさんの『武勇の舞』も。わたしの魔法と連携すれば相乗効果が生まれるはずです。さっそく午後からでも、連携方法についてミーティングを始めませんか」

「すまないが、午後は仲間の葬儀があるんだ」


 仲間とはドゥアンのことだ。たちまちみんなの顔が暗くなった。別に忘れていたわけではない。敢えて明るく振舞おうとしていたのだ。エレナについては葬儀の話がなかった。女像はいつか元に戻ると、誰もが信じているのだろう。


「そうでしたか。ではミーティングは明日にしましょう。彼の葬儀にはわたしもいかせてもらおうかしら」


 午後、おれを含めたギルド仲間は、歌女のリリサとともにドゥアンの葬儀にいった。


 葬儀からの帰り道、リリサに声をかけられた。


「ところであなた、何者なの」

「えっ、おれのこと?」

「やっぱりなんでもない。じゃ、またあした」



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