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18話 土の魔女

 ______まえがき(登場人物のおさらい)______


【佐藤】一人称は平仮名の『おれ』。職業は踊り子。爬虫類が大の苦手。

【トアタラ】呪いによって人間に変えられてしまった少女。

【フェルザヴァイン】踊り子ギルドの超イケメン。特技『剣の舞』を具有する。

【グラナチャ】踊り子ギルド随一の美女。

【オルファゴ】踊り子ギルドの一員。佐藤に宿を紹介した。

【シャスラ】踊り子ギルドの事務員。

【謎の美少女】職業は歌女(うため)。月夜の晩、佐藤に裸体を見られてしまった。



 ある日、ギルドへいってみると、いきなり拍手に包まれた。

 はて、何ごとか。

 事務員のシャスラが笑顔でやってくる。


「実は佐藤に朗報があります。踊り子としての初仕事、受けてみる気はありませんか?」


 正直、驚いた。当分は雑用だけの仕事しかないのだと思っていたからだ。拍手はこのためのものだったらしい。みんなが自分のことのように喜んでくれた。ギルドの仲間はいい人たちだ。

 その仕事内容とは、特技インドでダンス・イベント会場を盛りあげることだそうだ。すなわち会場の客たちにも踊ってもらうというものであり、前例のない斬新な試みらしい。もちろん1度だけのスポットの仕事だが、反響次第では今後も頼まれるかもしれない。

 1曲のみに限定されるが、ギャラは90マニー。そんなものだろう。おれには実績がないのだ。シャスラにはOKと答えるとともに感謝した。

 仕事は決まったが、特技を使用するだけなので、準備も練習も特にない。楽なものだ。


 イベントのミーティングは午後からの予定だった。その前の昼休み、すなわちシエスタの時間には市場へいってきた。いつものイグアナ相手のトレーニングと、昼飯を食うためだ。その帰り道、トアタラの働いているペットショップのようすもこっそり見にいってきた。彼女はほかの店員と笑顔で話をしていた。

 

 昼休み後、イベントのための長いミーティングが行なわれた。それが終わると、もう外は日が沈みかけていた。ギルドから先輩たちとともにイベント会場へ向かう。この仕事に携わるギルドメンバーは、おれを含めて8名いる。うち女子が3名。イベントの主役は『剣の舞』だが、フェルザヴァインはほかの仕事とかけもちのため、途中参加となるそうだ。


 いよいよイベントが始まった。ギルドの先輩たちが踊りを披露している。ちなみに特技インドの出番はずっとあとになる。1人で出番を待っていた。

 ちょっぴり不安だった。特技インドが屋外ステージでちゃんと発動してくれるのだろうか……。徐々に出番が近づいてくる。緊張のため逃げだしたい気分にもなってきた。そんなとき――。


 近場にある見張り塔の鐘が鳴った。

 なんだろう?


 日没を知らせるような意味合いではなさそうだ。この異世界にきてから、こんな鐘の音は初めてだ。あたかも危機感をかきたてるような響きだった。

 会場の客たちがざわめく。先輩たちの踊りはいったんストップとなった。せっかくこれからおれの初仕事だというところだったのに!

 叫び声が聞こえてきた。


「土の魔女がでたぞ」


 たちまち会場が悲鳴に包まれ、大混乱を始めた。

 土の魔女といえば、確か……男の心臓を食して生き、女は素焼きの粘土像に変えてしまうという話を聞いている。魔王の娘ということなので、それなりの魔力があるのだろう。

 会場の客たちは蜘蛛の子を散らすように逃げだした。


 ギルドの先輩たちは1ヶ所に集まり、うち合わせを始めた。まだその場にフェルザヴァインの姿はなかった。

 先輩の1人がおれのところにやってきた。


「いまから土の魔女と闘う。俺たちはこのときのために特訓してきた。これはチャンスなんだ。踊り子の誇りにかけて、戦士だけがヒーローじゃないことを、世間に知らしめてやるのさ。フェルはまだきてないが、なあに問題ない。佐藤、俺たちの闘いっぷりを見てるがいい」


 本当に土の魔女と闘うつもりのようだ。しかもずいぶんと自信がありそうだ。


「じゃあ、おれは参戦しなくていいんっすか?」

「当然だ。特訓してない佐藤がいても、連携を乱すだけだからな」


 ちょっとホッとした。先輩たちは会場をとびだし、叫び声の方へと向かっていった。おれもついていく。


 大通りの真ん中に、怪しげな人物が立っている。黒いローブに身をまとい、顔には銀色の仮面をつけていた。どう見ても怪しい。先輩たちはあれが土の魔女だといった。


 武装した集団がその土の魔女を囲んでいた。先輩たちに聞いてみる。


「彼らは誰です?」

「治安警備の戦士だ。へん、あいつらかなり手こずってるな。もう満身創痍になってるじゃん」


 戦士……。バクウのような巨漢はいないが、みんな立派な剣と楯を持っている。彼ら戦士たちでさえ歯が立たない土の魔女に、踊り子の先輩たちは勝つ気でいるらしい。


「佐藤は建物の中に隠れているんだ。小さな窓から見物でもしていろ」


 おれは先輩のいいつけに従った。近くの建物に入り、窓から外を眺めた。


「いくぞ、『武勇の舞』だ」

「おう」


 先輩たちの左足が、ドン、ドン、ドンと石畳を踏む。闘いの始まりだ。

 踊り子は男女3人ずつ。みんなの動きがそろっている。激しい動きなのに、リズミカルで息がぴったりだ。まるで中国拳法の集団演武でも見ているよう。とてもカッコイイ。なるほど、これこそ踊り子ならではの闘い方だ。先輩たちの武器は槍、短剣、それから見たこともない4刃刀。ちなみに4刃刀は、4つ羽のプロペラの先っちょが刃になっているような武器だった。


 一方、土の魔女も妙な武器を持っていた。とても細長い剣で、鞭のようにしなっている。あとから知ったことだが、その超長剣にはウルミという名があるらしい。土の魔女の動きも、先輩たちに負けないくらい軽やかだった。


 踊り子の先輩たちは強かった。戦士たちを圧倒していた相手に、結構いい勝負をしているではないか。つまり踊り子たちの実力が、戦士たちに勝っていたということになる。おれは何もやってはいないが、同じ踊り子として鼻が高い。

 とはいっても状況は土の魔女の方がやや優勢か。それでもフェルザヴァインが闘いに加われば、もしかすると勝ってしまうかもしれない。彼は特技『剣の舞』を具有しているのだ。ああ、早くきてほしい。



 ここで新たな参戦者の登場となった。



 しかし待望のフェルザヴァインではなかった。別の人物だ――。


「きゃはっ。覚悟してね、土の魔女♪」


 チョキで左目を隠し、無邪気な笑顔で参戦する気でいるようだ。

 緊張感がまるでない。


 おれは茫然とした。現れたのは幼い少女――あの歌女だ。

 どうして彼女がここに?

 おい、駄目だろ。あんな華奢な女の子が参戦したところで、なんの役にも立たちっこない。おれ以上に足手まといになるだけだ。

 ああ、そうか。わかったぞ。あの子はきっと馬鹿なんだ。可愛いけど。





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