10話 少女の呪い
______まえがき(登場人物のおさらい)______
【佐藤 (Lv.2)】一人称は平仮名の『おれ』。山賊から村を救った。
【トアタラ (Lv.2)】幸薄そうな美少女。山賊長にとどめを刺した。
【バクウ (Lv.79)】村の外れに住む大男。戦士。
干し草のベッドの上で目を覚ました。
隣にはトアタラが眠っている。ここはバクウが住む小屋の物置だ。パチャンの絵が完成するまでの間、ここで寝泊まりさせてもらうことになっていた。その絵はようやく、きのう完成した。だからきょう出発する。この世界のインドを目指して。
トアタラを起こさぬよう、静かに物置をでた。
きょうは1人で朝食を作ってみようか。
これまで朝食と夕食はトアタラと2人で作っていた。食材は折半で。そして物置を貸してくれているバクウにご馳走していた。ただ昼飯だけはいつもトアタラと2人で外食していた。外食といってもサンドイッチを買って、木陰で食べるというようなことが多かった。それからアトリエにいった帰りには、ヤモックの奥さんがときどきフルーツやクッキーなどの土産を持たせてくれた。それらはトアタラの好物だ。そしてヤモックの奥さんは、いつもこういうのだった。
「不幸な女の子には優しくしてあげるのよ」
もちろん優しくするつもりだ。ちなみに『不幸な女の子』とはトアタラのことだと理解している。おそらく『不幸』とは呪いに関することに相違なかろう。
でもいったいどんな呪いなんだ? 気にはなっても聞けるようなことではない。
そうそう。アトリエといえばパチャンだが、彼には大金が舞いこむことになっている。おれが彼を画家として指名したおかげだ。彼はいつも機嫌がよかった。そこで彼におねだりした。アトリエで絵を描きたいと。
パチャンは快く承諾してくれた。
おれは大きなキャンバスに描いてやった。我が二次元嫁を。パチャンの驚いた顔といったらなかった。彼には斬新すぎる画風だったようだ。決して写実的ではないのに、魂が熱く揺さぶられるといっていた。しかしヤモックから「このヘンテコな絵、嬢ちゃんに似ているな」といわれたときはハッとした。自分でも気がつかなかったのだ。
さて、今朝の話に戻る。トアタラが起きてきたときには、すでに朝食がテーブルに並べられていた。バクウもトアタラを待っていた。
「ごめんなさい。わたし寝坊をしてしまって」
可愛かった。実をいうと、その顔が見たくて、わざと起こさなかったのだ。
3人でテーブルを囲む。バクウがスープを口に含んだ。
「どうかした、少年。わしの顔を不思議そうに眺めおって」
実はバクウのことで、少し考え事をしていたのだ。
トアタラと知りあったばかりのとき、彼女はバクウのことをこういっていた。
――バクウはトアタラを嫌っている。近づくと食べられてしまう――
はて……。
聞いてはならないことをバクウに聞いてみる。
しかもトアタラ本人のいるところで。
おれは聞かずにはいられなくなったのだ。
「バクウはトアタラのことが嫌いなのでしょうか」
きょとんとするバクウ。
ということはトアタラの誤解だったわけか。
まあ、そうだろうとは思っていたが。
「違うようですね。安心しました」
「もちろんだ。嫌っていたら誰が物置を貸すものか」
トアタラもホッとしたようすだ。
バクウが首をかしげる。
「どういうことだ、トアタラ」
「以前、耳にしましたのもで。わたしのようなものは好きではないと」
バクウは下を向いて考えこんだ。しばらくして何か得心したように顔をあげる。おれに一瞥をくれたのち、彼女の顔をじっと見据えるのだった。
「トアタラ。きょうお前は少年とともに旅にでることになっている。だがその前に呪いについて、うち明けておくべきではないかな」
優しく丁寧な口調だった。
トアタラは自分の胸に手を当てた。
「はい……。佐藤には……わたしのすべてを……話さねばなりません」
「無理に話す必要はないぜ。どんな過去があってもトアタラはトアタラだ」
話に興味はあったが、トアタラが震えていた。
だからおれは話すのをやめさせた。
彼女の目に涙が溜まっていく。泣かせるつもりはなかったのだが。
トアタラは首を横にふった。そして不幸な少女は真実をうち明けた。
「わたしは呪いをかけられて、人間にさせられてしまいました」
なんだそりゃ。
……そういうことってありえるのか。
「じゃあ、もとは?」
「ムカシトカゲとして生まれてきました」
えっ?
トカゲ?
ここからおれは彼女を見る目が180°変わってしまった。
ぎょえええええええ! トカゲ~~~ェッ!
嘘だろ? まさか大の苦手のトカゲだったとは。
おれは無類の爬虫類嫌いなのだ。目が合っただけで身がすくんでしまう。
※ムカシトカゲは爬虫類ですが、トカゲではありません。
「少年、どうした。顔が真っ青だぞ」




