魔王の自覚
あの怒涛の始まりから早一ヶ月。
「おらー!!!!」
今日もタケゾウの気合いの声が山に響く。
今現在山でタケゾウは修練をしている。
指導をしているのは元魔王ベルスことベル爺である。
「タケゾウ。
そんなに力んでばかりいたら
何の力も発揮できないぞ。
もう一度瞑想からやり直しじゃ。」
今の修練は単純な身体強化に
岩を木刀で割るというもの。
木刀はタケゾウが作ったもの。
流木や調度いい形の物を拾っては
削り壊し拾っては削り壊しを繰り返している。
岩は横幅三メートル、高さ二メートル程の物。
タケゾウの作ったエセ木刀程度では
最初は全く傷は付かなかったが何万
何兆も剣撃を打ち出すうちに
少し欠け、今では薄っすら亀裂が出来ている。
授かった力の『再生』や『制限解除』は
現在のタケゾウには
まだうまく使いこなせていない。
再生は修練の傷や筋肉痛を治すなどで
練習しているがなかなか上達せず
制限解除はまだ加減がわからず
ひどい時は骨折までしてしまう。
なのでまずはそもそもの身体強化に励んでいる。
この練習法はタケゾウから提案した。
父のケンヤに教わった物の改良版である。
瞑想をしながら自然体を作ることは
すでに出来るようになっていた。
自然体を作ってからは
再生を使って筋肉の断裂を治していく。
『集中、集中、集中』
筋肉をイメージし繊維を一本一本繋いでいく。
筋肉痛をほぼ完全に修復する。
時間にして約一時間程である。
「治ったぞベル爺!」
「遅いわいタケゾウ。
さて木刀を持て。
次はワシと稽古じゃ。」
この後いつものように
ボロボロになって倒れるタケゾウ。
再生を使用し傷を治す。
少し深い傷は完璧には治らず傷跡が残る。
そして傷をある程度治したら
昼食を取りながら
ルーナがいる日は
世界情勢や魔法について教えてもらう。
ルーナがいない日はベル爺に
魔法や昔、世界で何があったかを
教えてもらっている。
それ以外空き時間があれば本を読んでいる。
今日はルーナがいる日である。
「土の神がいる土地の者たちは
基本ドワーフという名前の
小人族のみで、彼らは物作りがうまいの。
土を使った釜だったり
レンガという物で家を作ったり
前に教えた天人族の
フリューゲルが生み出した
鉄を龍人に教えてもらった
火の魔法を使い
温度調節しながら
武器や生活に必要な物に
作り変えたりと
物作りへの情熱は
他を圧倒しているの。
この部屋でも使っている
光晶石の光を拡散させる
あの入れ物を作ったのもドワーフなの。
これに関しては
神様と共同で作ったと聞いているわ。
光晶石がないところは
ロウソクというのを使っているんだけど
これもドワーフが作った物なの。
今ではこういう生活に欠かせなくなった物は
大体ドワーフが作ってくれているの。」
「フリューゲルは知識が豊富なのに
自分たちでは加工とか
物作りはしなかったのか?」
「フリューゲルは確かに知識豊富で
鉄を作り出したけれど
基本的に知識にしか興味はなく
物作りをしよう
とした者がいたというのは
聞いたことがないわ。
もちろん鉄を加工したらこうなるんだな
というのには興味があったみたいだから
ドワーフに知恵と
鉄を供給したの。
けれどそれにもすぐ飽きてしまい
また違う知識の研究をしに
天人族の地に戻ったと聞いているわ。」
「なるほどね。
ところでルーナさん。
毎回…その…
来ているけど国のこととか大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫。
やることはしっかりやってるもん。
そ、それよりタケゾウ。
『さん』はつけないでって言ったじゃん。」
「い、いやその教えてもらってる立場だし
一応歳上なわけで……
さて修練してくるかな!!」
タケゾウは急いで外に向かった。
走るったら走る。
「こりゃ見事に逃げられてしまったのう。
タケゾウもきっと恥ずかしいんじゃて。
『今日はルーナさん来ないのか?』
なんて聞かれることもあるし
もう少しできっと距離も縮ま……。」
「そ、そ、それ本当に?!?!!!!」
勢いよくベル爺に問いかけるルーナ。
「あ、ああ。本当じゃ。」
「…………………。」
ボンっと下を向きルーナは煙を上げた。
『どうしよう。
心臓の音がうるさい。』
少しして顔を上げたルーナは
目の前のじじいが
めちゃくちゃニヤニヤしながら
こちらを見ていることに気付いた。
その後じじいは外壁に突き刺さる。
この一ヶ月こんな場面がよくある。
ルーナ自身は
この胸の高鳴りが何なのかには
まだ気付いていない。
逃げて来たタケゾウは
素振りをしながら考え事をしていた。
『ルーナさん何で
名前の呼び方に
こんなにこだわるんだろう……
さん付けが嫌な理由か…
仲良くなりたいとか
壁を感じるからとか前に言われたけど
最近はかなり仲良くなった
はずなんだけどな。
壁なんて特に感じないし…
全然わかんないな…
もし俺ならどんな人に
親しく呼んでほしいかな?
うーん…
家族とか友達とか親友とかか……
確かにモトカズがさん付けで
呼んできたら気持ち悪いな。
あとは…好きな…
………………………………………………………………………………………………………………………。』
タケゾウは素振りを辞め
水瓶に桶をいれ水を汲む。
桶の水に映る自分を見る…。
「いや、いやいやいやいやいや。やい。
落ち着くんだタケゾウ。
今見えるそいつを
カッコいーなんて思っているのは
自分くらいだ。
ありえない。
この一ヶ月確かになんか
積極的だなとか思ったことが
なくはない。
なんてな…そんな訳ない。
きっと仲良くしたいだけだ。そうに違いない。
…………。
けどあんな高嶺の花のような
美人さんがもし…
少しそんな未来を想像するくらいならいいかな……。」
「どんな未来を
想像するくらいならいいの?」
ドキっとしたタケゾウは
後ろに跳びのき
そのまま桶が重なっているところに
足を取られ転倒した。
積み上げておいた桶が散乱し
タケゾウは情けない姿で声の主に聞く。
「ル、ルル、ル、ル、ルーナさん!!
ど、どど、どこから聞いてた?!
てか声出てたのか?!!!!」
「高嶺の花が何とかってとこくらいからかな。
何でそんなに慌ててるの???
高嶺の花ってことは
もしかして女の子のこと考えてたんだ?」
少しの沈黙。
沈黙は肯定の証と言わんばかりに
ルーナが意を決して言う。
「ふ〜ん……
ねぇタケゾウ?
元の世界にいたときは好きな子いとかいたの?」
ルーナは思い切って聞いた。
その表情は大人ぶっている
年上のおねーさんのような
実は聞きたいけど聞きたくないという乙女のような
そんな複雑な表情だ。
「そ、そんな子はいないよ!!!」
とっさにそういうタケゾウ。
実は気になる子はいなくはない。
がいきなりの出来事で簡潔に否定してしまった。
「ふ、ふーん。そうなんだ。」
タケゾウに背を向けながらルーナは言った。
おねーさんぽく言っているがその表情は誰がどう見ても嬉しそう。
「じゃ、そろそろ修練に戻るわ。」
背を向けたルーナにタケゾウは誤魔化す用には言った。
「そ、そうね。
私も付き合うね。」
そう言って振り返ったルーナはタケゾウに笑顔を見せた。
それはあの月夜の晩に見た心奪われる物だった。
ルーナが先に走って行き少し遠くでタケゾウに早く早くと手招きしている。
「ま、待ってよ!」
崩れた桶を直しタケゾウが走り出す。
タケゾウが出遅れた理由はご想像にお任せする。
気合いを入れ直し、修練を再開。
その後、日が暮れてルーナが帰りタケゾウは聖域に向かった。
聖域に入るには魔王の承認がいるがタケゾウはそれをサクヤにもらっているので
いつでも入れる。
今日もサクヤに七人のことと温泉を借りる為に向かった。
風呂は家にあるのだがやはり温泉の方が疲れが取れる。
再生をすれば肉体疲労は感じないところまで修復は可能だが
心の癒しまではできない。
「お邪魔しまーす。」
ゴゴゴゴという音と共に岩が開く。
「あ、タケゾウ。
いらっしゃい。」
サクヤが微笑みをタケゾウに向け言う。
「風呂借りるぞ。」
「一緒に入る?」
「入るわけあるか!」
いつものやり取りである。
風呂の後サクヤに七人のことを聞く。
サクヤたちは七人だが当初は十人ほどいたのだとか。
一人づつ仲間は減って行き最終的に七人になった。
世界を平和に。
それが神の願いであり、それを実行する為七人は召喚された。
この世界は約三百年前まで戦争中だったのだとか。
それがこの世界に来た者達の手によってわずか三年で平和になった。
血の滲むような努力をしたという。
召喚された中にかなりの秀才がまじっており、まず本で勉強をはじめ言語を種族分覚えたという。
また戦いも必要になるだろうとみんなで修練をしたのだとか。
能力に関しては召喚した神が七属性の魔法と加護を全てを使えるようにしてもらい
制限解除もできるようにしてもらったのだとか。
はっきり言って化け物集団である。
ただ個人差はあったみたいでその中での優劣はあったようだ。
制限解除は体がまったく耐えきれないとか
魔法も属性により向き不向きがあったりとか。
そして平和になった世界で各種族間の交流を盛んにし、異世界の知識を皆に与えた。
政治、商業、農業、工業、治安維持の方法などだ。
日付や時間に関してもサクヤ達が教えたことのようだ。
言語は日本語で統一し、現在の七人の神たちの得意分野ごとに別れ色々なことを教えた。
定着し軌道に乗って行くまでは二十年程かかったが世界はうまく軌道に乗り回り始めた。
異文化交流も盛んになり異世界の知識と共に色んな物が作られたのだとか。
そして何より神になったとはいえサクヤは三百年以上生きていることになる。
そして今日の話は
「どこまで話したかな?
あ、そうそう。
それでね体育祭のときニチカとタツがね………」
「今日はもう行くわ。
その話はまた今度な。」
実はこんな感じで一ヶ月ザックリしかわかってないタケゾウ。
びっくりしたことにサクヤとタケゾウは元の世界で八年程しか時間がズレていないのだ。
意外と近くてサクヤは元の世界の昔話に花を咲かせるようになってしまったのが原因である。
「そういや今日はご飯どうすんだ?」
「一昨日みんなで食べたときたくさん食べたから今日は少食にするから大丈夫。」
「そっか……。
それ以上痩せてどうすんだ?
充分細いだろ。」
「あーあタケゾウ。
乙女にその言葉はいけない。
気をつけなはれや。」
「あ、ああ?
わかった。」
「そういえば渡した物と魔力は体に馴染んだ?」
「ああ。
随分馴染んできたよ。」
「そう。
じゃ近々正式に渡すわ。」
「そしたらサクヤはどうなるんだ?」
「大丈夫。元々渡すと言っても無くなることは無いから。
神の特権みたいなもので私は月の魔法をこの世界の人々に付与しているの。
人柱としてね。
特定の個人に強く付与することもできるの。
加護魔法は適性や魔法自体極めた人がたどり着くところなんだけどその加護ですら個人に自由に付与
できるの。
使えるかは本人次第だけどね。
代々魔王になる人には付与しているしね。
世界のパワーバランスを守るために王族や王になる人には必ず加護魔法は付与しようって
私達の間で決めたの。」
「なるほどな。ところで器ってのは体の中にあるってのはの感じるんだけど
この胸にある刺青みたいなのがたくさん増えて器が満たされたってなるのか?」
「私の掌を見て。」
そう言うとサクヤは掌をタケゾウに見せた。
そこには自分の胸にあるのと少し似ている丸い紋様が浮かんでいた。
「これが器を満たしている紋様よ。
私達は最初からこの紋様だったんだけど私と人族の神以外はこの紋様が薄れている箇所があったり
歪んでいるところがあったりと様々だった。
全部の魔法は使えたんだけど加護がうまく使えないとか
戦闘で使えるほど魔法が強くないとかね。
そして私と人族の神ですら完璧ではなかった。
ただほぼ完璧な私達にはとある力が使えたの。
それは神に関することだからいえないけどタケゾウがここにいるっていうのが
それね。」
「ふむ。そもそも器ってのは何なんだ?」
「器はその人の魔力許容量みたいなものかな?
タケゾウはそもそも魔力が無いから器もなかったの。
そこに器を作って魔力保管が体内にできる用意をしたって感じ。
内包できる魔力はその器によって決まるの。
器の付与は初めての試みだったんだけどうまくいってよかった。」
「なるほどな。
じゃこの感じているのは魔力なんだな。」
「そうね。
この世界の人々は皆その器を持ってるの。
魔力保管ができるように。
ただ私達くらいの器はそうそういないと思うわ。
一応神だしね。」
「ふむ。
ちなみに魔力無くなるとどうなる?」
「気絶か最悪死亡みたいな感じかな。」
「死ぬのか!
じゃ気をつけて使わないとな。
てかもっと先言え!」
「ごめんごめん。
ひどい枯渇状態の場合ほぼ死ぬから。
限界超えないように調整してね。
枯渇した場合は他人が魔力を渡すしか助ける方法はないわ。」
「わかった。
覚えておくよ。
じゃ行くわ。ちゃんと飯食えよ。」
「はーい。
タケゾウも休む時は休むんだよ。」
聖域を出たタケゾウ。
飯を食いに戻るとなんとルーナが帰って来ていた。
国に戻り食材を買って来たようだ。
夕飯の支度をしている。
「ベル爺…
国ってかルーナさんが住んでるところはここから近いのか?」
「ふーむ。歩けば半日くらいはかかるかの?
ワシらのように飛べるなら結構すぐじゃが……
ルーナは飛ぶのがすこぶる速いからの。
誰かさんの為にさらに速く………アイタッッッッッッッッックテ!!」
爺さんの頭に木製のおたまがぶつかる。
ルーナの笑顔は余計なこと言うなよ。と無言の圧力をかける。
夕飯を作り終えテーブルに並べ三人は
「「「いただきます」」」
と言い食事を始めた。
実はこの世界にも米がある。
サクヤたちと木の魔法を使うエルフ、土の魔法を使うドワーフの合作によって精米までこぎつけ形にしたのだとか。
『サクヤ。まぢありがとう』
心の中で言うタケゾウだった。
今日の夕飯は一角シシと辛蜜の葉の煮物にご飯だ。
元の世界で言うところの角煮の甘辛版とでもいったところである。
辛蜜の葉は香辛料としてよく使われており肉を柔らかくする作用があるのだとか。
ルーナは料理がうまい。
その料理を食べたタケゾウの顔を見れば一目瞭然だ。
角煮のようにとろけている。
「ほんとにルーナさんは料理がうまいな。
いつもありがとう。」
「その通りじゃ。
いつ嫁に出しても恥ずかしくないわい。」
「…………。」
ルーナは真っ赤になっていた。
爺さんを星にする余裕すらないようだ。
『タケゾウが褒めてくれた…
お嫁さんか…
考えたことなかったけど…
タケゾウのお嫁さん…
ち、違う!なんでどこでタケゾウが出てくるの!
けど幸せそうだなぁ…。』
ボンっとルーナから煙が上がった。
ルーナが顔を上げるとニヤニヤ爺さんがいたのでとりあえず星にして
タケゾウの方を見ると目が合う。
すぐに目をそらしたルーナ。
もじもじしながらまたタケゾウのほうをチラっと向き聞く。
「タ、タケゾウは料理がうまい人をお嫁さんにしたい?」
「ん?
ああ。結婚するならそうかな?
でもそれを基準に考えることはないと思うけど。」
さすが残念系。最後の一言は余計だ。
だがルーナは小さく、心の中では大きくガッツポーズをした。
純真な乙女には最後の一言は届いていないようだ。
三人は夕食を終えタケゾウはまた修行を再開する。
岩に木刀を打ち込む。
木刀は何本も折れてしまい無くなってしまった。
そこにルーナが来る。
「あちゃー。
これで最後だったんだよな。
ちょっと森に探しに行って来るわ!」
「この時間じゃ危ないよ!
あ、あたしも行く!」
「本当に?
わりー助かるわ!
じゃ一緒に行こう!」
振り返り森に向かって走り始めるタケゾウ。
「ま、待ってよタケゾウ!」
翼を広げ宙に浮き飛びながら追いかけるルーナ。
森に着くと二人は一緒に木を探し拾っていく。
「ふぅー。
こんなもんかな?
しかし中々割れないもんだな岩ってのは。
ルーナさんそろそろ行こう。
ん?ルーナさん……?」
振り返るとそこにルーナはいなかった。
「おかしいな。さっきまですぐ近くにいたはずなのに。
おーい。ルーナさーん。おーい。
…………………………………。」
ルーナからの返事はなかった。
この森は山の頂上から少し下ったところに位置し
魔物も生息している。
ルーナが魔物に負けるなんてことはないが厄介な魔物も存在している場所だ。
魔物は種族とは別で世界各地に生息している。
魔物は特有の魔法のような物を使うのだが物によっては厄介極まりない。
知能は高いものもいるが基本的には低い。
魔族を含む他の種族も魔物から進化したと考えられている。
タケゾウは初めて魔物と対峙した時敗北している。
ベル爺がいなかったら死んでいたことだろう。
今現在のタケゾウならば逃げることくらいは容易に出来る。
戦闘になった場合魔物にもよるがそう簡単には負けないだろう。
「ルーナさん……。」
なんとなく嫌な予感がした。
タケゾウは森の奥に走る。
少し走ったところで轟音が響く。
木々が倒れた音だ。
タケゾウは音のしたほうへ加速する。
「ルーナさん!!!」
音の元となる場所に到着するとタケゾウは叫ぶ。
「タケゾウ…
あの魔物…
おかしいわ……
強い魔物には違いないけどまさか攻撃をもらうなんて…。」
ルーナの片腕がダランとしている。
おそらく折れているのだろう。
だがさすがは魔王。
三秒もしないうちに完璧に完治。
だがその表情は固い。
「ぐおぉぉおぉおおおぉおおおおおおぉおおぉぉおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
馬鹿でかい雄叫びをあげるゴリラのような魔物。
腕は四本あり体長やく四メートルほどある。
目は一つでツノが一本生えており真っ黒な毛が胸以外を覆っている。
「あれはモーティア。
普段も強い魔物なんだけど…
素早さや力が普段とは全然違う。
タケゾウ。
少し下がっていて。」
そういうとルーナはタケゾウの前に出ようとした。
その瞬間モーティアが間合いを一瞬にして詰める。
「あ、危ない!!!」
ドゴっと轟音が響く。
ルーナが咄嗟にタケゾウをかばい攻撃を受け吹っ飛ぶ。
「おらーぁああ!」
タケゾウがすかさず反撃に移る。
持っていた木を投げ目隠しに使い、本命は足を狙った木の棒での一撃。
バキっ!
木の棒が折れたが攻撃は足に命中。
がモーティアはビクともしない。
ルーナに視線をずっと向けている。
どうやら狙いはルーナのようだ。
「おらーーー!!!」
タケゾウがまた足に目掛け蹴りを放つがビクともしない。
だが攻撃は止めない。
タケゾウは少し焦っていた。
このままではルーナが危ないかもしれないと。
タケゾウは一旦距離を取りすぐに決断した。
『制限解除!』
すぐさま懐に飛び込んだが
次の瞬間!
バキっとモーティアの振り下ろした拳がタケゾウの咄嗟に出した左腕に直撃。
左腕と引き換えに攻撃に耐え、すぐ反撃に出た。
飛び上がりモーティアの顔面に一撃。
命を刈り取ろうとしたその一撃で右肩が外れ拳が割れるが、手応えを感じた。
すぐさま距離を取る。
だが…
「そ、そんな…」
モーティアは平然としていた。
手応えは確かにあったのにモーティアにダメージは見受けられない。
腕二本と引き換えの代償がノーダメージでは割に合わない。
モーティアがゆっくりと一歩一歩踏み出す。
タケゾウは諦めず迎撃の体制を取るがもう腕は使えない。
「くっ…
ルーナさんはやらせない!!」
急ぎルーナが吹き飛ばされたほうに向かう。
「タ、タケゾウ!」
ルーナは無事のようだ。
傷は完全に治っている。
「ルーナさんよかった。
あいつは強よ…?!」
またもモーティアが間合いを即詰める。
タケゾウはさらに解除をし、一瞬でルーナを突き飛ばしモーティアと対峙する。
モーティアの一撃がタケゾウの額に直撃する。
「タケゾウ!!!」
悲鳴のような声でルーナは叫んだ。
「ル、ルーナさんは…やらせねーって言ったよなゴリラ野郎!」
額からは血が大量に出ている。
立っていられるはずのないダメージと手応えにモーティアは薄っすら笑みを浮かべたが…。
「何笑ってやがる…ゴリラ野郎!!」
タケゾウの殺意が一瞬で湧き上がり場を支配する。
優勢のはずのモーティアは後ろに飛び退く。
モーティアは自身が目の前のボロボロの小さい人間に恐怖したと感じた。
そこにタケゾウの蹴りの一撃。
足に直撃。
たまらずモーティアはさらに後ろに下がる。
「どーしたゴリラ野郎!
かかってこ…!?」
体の動きが悪くなり膝をつくタケゾウ。
大ダメージの上、制限解除を使いすぎ限界に達したのだ。
好機と見るや否やモーティアがタケゾウに襲いかかる。
だが痛烈な一撃でモーティアは木々を何本も倒しながら吹っ飛んで行く。
「ごめんねタケゾウ。
少し油断してた。」
ルーナがタケゾウに言う。
「ル、ルーナさん。
あいつは…強す…ぎる…
ルーナさんだけでも逃げ…てくれ。」
「ううん。
タケゾウを置いてなんてありえないよ。
それにあんなのに負けるほどあたし弱く無いもん。
それに少し怒ってるの。
タケゾウ。
守ってくれてありがとう。
すごく嬉しかったよ。」
その間にモーティアが立ち上がりこちらに向かってきている。
「じゃタケゾウ。
少し休んでて。
軽くお仕置きしてくるから。」
そう言うとモーティアを睨みつけた。
刹那。
モーティアが地面にひれ伏し頭が地面にめり込んでいる。
その速さはタケゾウの目には止まってくれなかった。
「ねぇ。
モーティアちゃん?
タケゾウに何してくれてるの?」
その声にモーティアとタケゾウは自身の血が凍るのを感じた。
死を現物で突きつけられた、そんな感覚だ。
めり込んだモーティアの顔を地面から引っこ抜く。
モーティアは動かない。
本能で理解してしまったのだ。
突きつけられた死から逃げることは不可能なのだと。
「ねぇ。
なんでこんなに強くなったのかな?」
ルーナはモーティアに話始めた。
「がああう。うがああんががあがぐああ。」
モーティアが必死に話す。
死にものぐるいとはこのことだと思うタケゾウ。
「うんうん。
わかった。
もう行っていいよ。
けど次、あたしから何か奪おうとしたらあなたの命を奪うからね。」
「がああ。」
モーティアは去って行った。
ルーナはすぐさまタケゾウの元に向かう。
「タケゾウ!今治すから!」
優しい光に包まれ体が治って行く。
さっきの死を現物で突きつけてきた少女とは別人のような表情でタケゾウを治療し始めた。
あたふたした女神のようだ。
「あっはは。
ルーナさんすげーや。
変わりようもすごい…っぷ。
さっきまでとは別人だ。」
「だ、だって!
タケゾウにひどいことするから少し頭にきたんだもん。
…嫌いになった?」
色んな意味が込められた言葉だった。
「ぷぷっ。
ありがとうルーナさん。
嫌いになんてなるわけないよ。
怒ってくれたのは素直に嬉しい。
けど俺はやっぱり
いつものルーナさんのほうが好きだな。」
ボンっと爆発音とともにかなりの煙がルーナから上がっている。
『好き…好きって言われた。
心臓、爆発しそう。
この音聞こえるんじゃないもしかして?! 』
ゆっくりとタケゾウの顔を見る。
またもルーナ爆発。
また下を向いてしまう。
『あー!
顔が見れない!
…
けど一つだけわかったわ。
このドキドキはきっと…。』
また顔を上げる。
タケゾウと目を合わせる。
爆発はしなかったルーナ。
がすぐ目を逸らし下を向く。
『今、わかった。
わかったらこのドキドキもなんか心地よくなった気がする。
あたし…恋…してるんだ。』
自分の気持ちを自覚したルーナ。
この一ヶ月。
タケゾウが努力しているのを間近で見て来た。
手伝いをしたり、一緒に修練したりしながら。
タケゾウに好意を持った頃から
山に行くのはルーナにとって楽しい時間となっていた。
褒められると、近寄ると、不意に体が触れると、物凄く動揺し、胸が高鳴った。
だがルーナにとってそれは嫌なことではなかった。
いつしかタケゾウに会いたくなって山にくる自分に疑問を持ったルーナ。
何でこんなに会いたくなるのだろうと。
少し心当たりがなくも無いがそんなはずないと自問自答していた。
だが今、その心はモヤが晴れたようなそんな感じだった。
幸せが心を満たしていく。
タケゾウはそんなルーナの百面相を見ながら疑問を口にした。
「てかルーナさんもしかして魔物と話せるの?」
「ひゃぇい!?」
ルーナは自分の世界に浸っていたようだ。
タケゾウの空気を読めない質問に驚き慌てながら答える。
「ま、魔物とはは、話せるよ!
ち、ちち知能がある魔物とならわ、割と普通に!
魔族なら結構普通にいるんだよよねそ、ういう人!」
「へぇ。そうなんだ。」
「う、うん!
今のモーティアみたいな強くてちち、知能もあ、ある魔物だと結構普通につ、つ通じるかな?
会話っていうか雰囲気でわ、わかるっていうかそ、そんな感じ。」
と言っている間にタケゾウの腕は完治した。
焦っていてもタケゾウに治療をしっかりとやり終えたルーナ。
「すごいね魔族って。
他には何かあったりするの?」
「えぇ!??
あ、ああああのそれは…
一応あるよよ。
私たちの一族は吸血によって力が増すとか。
ただ条件があったりなかったりとかとか。」
「それ聞いたな。
けど条件の話は初耳だ。
条件って何なの?」
「そ、それは…あの…
そんなことより!
さっきの魔物が言っていたんだけど…
とりあえずここはまずいかも。
ベル爺ちゃんのところに戻りましょう。」
「あ、ああ。
わかった。」
ベル爺は森のすぐそばで待っていた。
「二人とも遅かったの!
タケゾウどうしたんじゃその服!
ボロボロじゃないか!
何があったんじゃ?」
「いやモーティアって奴に負けちゃってさ。
ルーナさんに守ってもらったんだ。
情けない限りだわ。」
少し肩を落とすタケゾウ。
「そのことなんだけど
どうやら人族が侵入したみたいなのベル爺ちゃん。
モーティアが『活性』を使っていたの。
狙いはあたしのようね。」
どうやらルーナは落ち着きを取り戻したようだ。
深刻な顔でベル爺に話す。
「そうか……。
いつかは狙って来るだろうと思っていたがついに来おったか。」
「え?人族?
なんでここに人族が?
地理的にかなり遠いだろ?」
以前ベル爺は人族がここにくることないと言っていたから疑問に思ったのだ。
「前に話したが『ほとんど』と言ったのは覚えておるじゃろ。
前例がないわけではないのじゃ。
『ゲート』の話は知っておるな?」
「サクヤが言っていたやつだろ?」
「そうじゃ。
これは推測ではあるが今の神たちを召喚した
もう一人の神の能力とワシは思っておる。
それがおそらくその『ゲート』を作れる能力ではないかと思っておる。
以前月の神様が言っておったのじゃが太陽の神と月の神のみ、その真似事が出来るような話も
聞いておる。」
「なっ!?
そんなのあったら簡単にどこでもいけちゃうじゃんか!」
「これもおそらくじゃが今までの出来事を考えると制御が容易くないか代償が必要なのじゃと思う。
またこれを通って移動できる者にも特定の条件が必要なんじゃないかと思うのじゃ。
これで誰でもどこでも行けるのならわざわざ会談の場での殺害や今現時点で戦争が起きていないこと
それに今、暗殺に差し向けたのがモーティア一匹と『活性』を施した者が恐らく少人数。
魔王暗殺に来たのじゃから手練れであることは間違いないが、その後出てこなかったことを考えると
単独というのも考えられる。
このことから正確に場所を指定し、不特定な者を大人数送ることは出来ないのではとワシは思っておる。
ということを踏まえるとおそらく太陽の神の仕業と考えるのが妥当かのう。」
「確かにね。
けれど魔族の国に侵入が成功したのは事実。
この場所にいるのがバレていたのも気になる……
少し国に戻るね。」
「一人じゃ危ないよルーナさん!」
タケゾウが心配そうに言う。
「大丈夫。
今は少数で来ているようだし警戒をしていれば問題ないよ。」
そういうとルーナは飛び上がりすごい速さで飛んで行った。
強く引き止めることができなかったタケゾウ。
先の戦いで自分はルーナより弱いことを痛感していたからである。
あからさまに悔しそうな顔をしている。
「タケゾウ。
お前さんも守りたいものがあるのなら強くなることじゃ。
モーティアは確かに強いがあれくらいには勝てんと太陽の神には到底及ばんぞ。」
「…………。
爺さん。
俺は……強くなりたい。」
タケゾウはさらに強く決意するのであった。
今日も月夜の晩、タケゾウが岩に向け一撃、一撃打ち込む。
コツコツと投稿できたらなと思っています。読んで頂ければ幸いです。