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文化祭といえば本番2

「ハル!

待てったら!」

ハルは早歩きでどんどん廊下を進んで行った。

そんなハルとすれ違った男達は

皆、ハルの後ろ姿を振り返り目で追っていた。










「おい!

ハルってば!」

タケゾウがハルをようやく捕まえ

手を握り、ハルは振り返った。









逆の手で顔を少し隠しながら

振り返ったハルの顔はさらに赤くなっていた。

だが、そんなハルの顔を見たタケゾウも

少し顔が赤くなる。

学校の廊下、たくさんの人が

いるはずのその空間に

二人だけの世界の空気が流れた。










「は、離してよ。」

ハルは恥ずかしそうにそう言った。

「あ、ご、ごめん。」

タケゾウはとっさに手を離す。

「もう。

あんな面と向かって言われたら

照れるじゃん。」

「あ…なんかごめん。」

タケゾウはよくわからず謝った。

「…焼きそば!」

「はい?」

「焼きそば…奢ってくれたら

許す。」

「な!

そもそも事実を言っただけで…」

タケゾウが言おうとした瞬間

真っ赤な頬を膨らませて

ハルがタケゾウにグっと近付き

睨みあげる。











「…わ、わかった。」

「へへ。

やったぁ。」

ハルはタケゾウがそう言うとニコっと

笑い、タケゾウに背を向けた。

『な、なんだこれ…。

あ、あつい…。

鼓動が…速い。』

そしてハルは数歩歩くと

タケゾウが付いて来ないことに気づき

後ろを振り返った。

嬉しそうなその感情を隠すように

少し不機嫌そうにハルは言った。










「何してるのタケしゃん!

いこっ!」

「あ、ああ。」

たくさんの人がいて

とても賑わっているその空間で

タケゾウの目には

ハル以外の人は写らず

ハル以外の声は耳に届くことはなかった。










タケゾウとハルはそのまま校舎から出ると

他のクラスがやっている出店で

焼きそばを買った。

そんな焼きそばを片手に

上機嫌なハルと

少し緊張しているタケゾウは

自分達のクラスの宣伝をしながら回った。













「…焼きそば美味しい!

へへ。

タケしゃんありがとね。」

「…別にいいよ。

てか、座って食べろよな。」

「そうはいかないよ。

みんなが頑張ってるんだし

ハルも頑張らなきゃ。」

「焼きそば食べながら?」

「それはいいの!」

「ったく…。

とにかくそんな格好で

食べながら歩いてたら違和感だろうが。

あ、口に青のりが…」

タケゾウはそう言うと

ハルの唇の横の頬についた

青のりを指でとった。










「…あ、ありが…

タケしゃん???」

ハルの顔が赤くなるその前に

タケゾウの顔が紅生姜よりも

真っ赤になった。

「な、何でもない!

調子のった!

すまん!」

タケゾウは即座に背を向け

そう言った。

『お、おかしい!

なんだこれ…。

それに俺…ハルに触れたいって…』

そんなタケゾウを見てハルは照れながら

笑った。

そこへサヤとキヨトが走って来た。










「二人とも手伝っ…

タケゾー?

どうしたの?

顔、真っ…」

「な、なんでもねえよ!」

「どうしたんだい?

…ははーん。

さては二人は…」

キヨトが珍しくタケゾウを茶化した。

「ち、ちげーからな!

てか、珍しすぎることすんな!」

「ははは。

冗談だよ。

たまには冗談くらいいいだろ?」

「よくねえよ!」

タケゾウはキヨトに飛びかかり

そのまま腕で首を絞めようとした。










サヤはそんなタケゾウとキヨトを見て

そのままハルに目をやった。

ハルはサヤと目が合うと

少し照れながら

ニっと笑って見せた。

『…やっぱり何かあったのね。

走って来て正解だった。

負けない!』

ニっと笑ったハルを

サヤはグっと睨みつけたのであった。

キヨトの冗談だったり

ハルの意外な積極性だったりと

文化祭マジックとでもいう現象が

まだまだ起こりそうな

そんな雰囲気を

保健室の窓から一人見つめる者がいたことを

皆が気付くことはなかった。










『…はしゃぎやがって。

…。』

『強がっていても仕方ないよ。

あれは君と僕が行きたかった…

生きたかった世界だ。

でもどんなに羨んでも

あそこに僕達の居場所はないよ。』

ショウジロウはそう考えると

少し昔の薄れた記憶が

鼻先をかすめていったような気がして

指で鼻をこすった。










『いいのかよ?

諦めんのか?

ムカつかないのか?』

『ムカつく…ね。

けどわかっただろ?

この消せない思いの先には何もないんだ。

空っぽだ。

この現実から目を背けても

耳を反らしても

何も変わらない。

僕は何をしても

醜いままなんだ。

それは産まれた頃…

いや。

産まれる前から決まっていたんだ。

この顔で、この身長で

この性格で。

変わりたい、こうじゃないと

否定しても努力しても

世界は僕が変わろうとすることすら否定する。』

『…。

そうだな。

俺はそんなお前に作られた

お前の欲求の塊だからな。』

『そうだね。

ごめんね。

君ばかりに頼ってしまって。

もういいんだ。

僕の存在に意味なんてなかった。

意味なんて自分で決めるとか

そんな話をする奴もいるけど

その意味は僕には持てない意味だった。

僕が欲しい意味は僕には持てないんだ。

なりたい僕には

僕は一生なれない。』

『…。』

『早めにわかってよかったよ。

君はもう好きにしていいよ。

消えてもいいし、このまま居てもいい。

僕のわがままに付き合わせて悪かったね。』

『いいさ。

俺はお前だ。

あぁ…。

違う世界にでも行きてーな。』

『はは。

そうだね。

違う世界があるなら

そこでなら僕のなりたい何かに

なれるかもね。』

『そうなれたらいいな。

俺はこれからもお前と居るよ。

ずっとな。

だが、もうお前が飲み込んだんだ。

俺も飲み込む。』

『…ありがとう。

これからもよろしくね。』

『ああ。

じゃ、元気でな。』

『うん。

君も元気で。』

ショウジロウは胸に手を当てると

その声は聞こえなくなった。

そしてショウジロウは窓から外を見た。

楽しそうに笑う人々が目に映る。












「ははは…あはははは。

はーはははっはははははははははは!」

突如、どこからか笑い声がした。

頬を何かが伝う。

その声が自分だと

ショウジロウは口に手を当て

気付いた。

全てを投げ出し、諦めた

中学三年の秋のことだった。


読んでいただきありがとうございます。

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