文化祭といえば距離感
「そ、そう!
タケゾウさんに
あだ名をつけようかと
思って!
タケゾウさん…ゾウしゃん
…タケしゃん!
みたいな!」
ハルは一つの間の後に
何とか言葉を返した。
「そ、そう!
いつまでも他人行儀で
堅苦しいなって話しててさ。
それ、いいな!
それにしよう!」
タケゾウも取って付けたように
サヤに言った。
「ふーん…。
でもハル…確かタケゾウくんって
呼んでなかった?」
「あ、い、え…っと
たまにタケゾウさんとかに
なっちゃうんだよね。
そこから話が
そういう話に
なって、今に至った的な
あははは。」
「そ、そうなんだよ。
あははは。」
タケゾウとハルは何とか話を合わせ
サヤに説明した。
「あだ名か。
いいじゃないか。
それでお互いもっと仲良くなれるだろうし。」
こんな時の真面目なキヨトの対応は
とてもありがたいと
タケゾウは内心感謝した。
「ふーん。」
「そ、そんなことより
ペンキはあったのか?」
「あ、ペンキはあったよ。
こぼしてごめんね。」
「いや、いいって。
じゃそれ塗れば完成だから
キヨト塗ってくれよ。」
「わかった。」
タケゾウは話題を
看板の話にすり替えた。
キヨトが看板を塗り始め
内心、セーフなどと思い
さりげなくサヤの方を見た。
「どうしたの?」
「「え!」」
「「あ…。」」
突如、自分以外の声に
さらに驚き
声を出したタケゾウ。
ハルも同じタイミングで
サヤを見たようだ。
『あちゃー。
完全にサヤ…怪しんでるな。
でもなんでそんな顔されなきゃいけないんだよ。』
サヤの顔はタケゾウとハルの間に
何かあったのではないかという
そんな顔だったのだが
同時に少し悲しそうな顔をしていた。
「よし!
これで完成だ!」
そんな中、キヨトが看板を塗り終えた。
「お!
いいじゃん。」
「可愛い!」
「…そうだね。
うん。
いいじゃん!」
サヤには少しの間があったが
四人は看板の完成を喜んだ。
「じゃ時間も遅いし帰ろっか。」
「そうだな。」
そして四人は帰ることにしたのだが
サヤは文化祭のことで先生に用があると
いうことで
タケゾウとハルとキヨトは先に帰ることにした。
校門を出ようとしたとき
キヨトの部活の後輩が
キヨトに声をかけてきたので
タケゾウとハルはさらに先に帰ることにした。
「…。」
「…。」
『な、なんか変に意識して
話が…。』
「あ、あの。」
「はい!」
タケゾウは思わず敬語で
甲高い声を出した。
「変な空気にしてご、ごめんね。
それであだ名のことなんだけど…。」
「あ、ああそれな。
ぜ、全然気にしてないよ。」
「え!
気にしてくれてないの?」
ハルは少し意地悪そうに
タケゾウを見て話した。
「あ、いや少しは何ていうか…。」
「少しって?」
「その…教室で目が。
ハルをあんなに近くで見つめること…」
「もう!
そっちじゃない!
恥ずかしいからやめてよね。」
「え!
あ、ああ。
ご、ごめん。」
「もう…ふふ。
じゃなくて。
あだ名のこと。
これからタケしゃんって呼ばないと
不自然かなって。」
「あ、ああ。
そうだよな。」
「うん。
…じ、じゃあ練習ね!
た、タケ…しゃん…。」
ハルはタケゾウの前に出ると
練習と言い
例のあだ名を呼んだ。
そして、恥ずかしさのあまり
身悶えしつつ
顔を反らした。
タケゾウにはそれが
たまらなく可愛く見えた。
どんな形容詞も当てははまらないほどに。
可愛い。
そう思ったのだった。
「へへ。
とりあえず呼べた。
なんか…仲良くなったみたいだね!」
ハルの笑顔は夕日に照らされ
とても輝いて見えたのであった。
「…そうだね。
はは。
嬉しいよハル。」
タケゾウは照れながら
頭をかいてそう答えた。
そして二人は途中で別れ
それぞれの家路についたのであった。
『はあ。
何だったんだ。
…疲れた。
でも…何だろう。
悪くない。
少し心地いいな…。 』
帰っていつもなら真っ先に道場に向かう
タケゾウが珍しく自分の部屋に行き
布団にそのまま倒れ込んだ。
そして今日のことを振り返りながら
その心地よさに身を任せていると
部屋の扉が開いた。
「あ!!
こんなとこにいた。
今日は修練しないの?」
学校から遅れて帰宅した
サヤだった。
「…おかえり。
少し疲れたんだ。
休んだら始めるよ。」
「ふーん。
珍しいね。
…。
ハルとなんかあった?」
「え!」
タケゾウは条件反射のように
飛び上がりサヤのいる方を向いた。
「…なんでそんなに驚くの?
なんかあったの?」
「い、いや!
何もないよ!」
「ふーん…。」
「な、なんだよ。
仮に何かあっても関係ないだろ?
そっちこそ買い物随分遅かったじゃんか。
キヨトとなんかあったんじゃねえのか?」
「な!
…関係ないって…何よ…。」
サヤは下を向き、小声で呟いた。
「ん?
何だよ。
聞こえ…」
「関係ないでしょ!!!」
サヤはそう言うと
部屋の扉を勢いよく閉めた。
「な、なんだよあいつ…。
あんなに怒らなくても…。
それに…泣いてた?」
それからその日はサヤと会話することはなかった。
翌日。
「なんかあった?」
「うん…。
ちょっと変だなって
思ってた。」
時間はすでに昼休み。
すでにそこまで迫った文化祭のために
皆、昼休みを削って準備をしている。
そんな中で
サヤは忙しそうにあっちこっち
手伝っているが
いつもならタケゾウに
何か指示を出しているにも関わらず
今日は一切出していない。
それに会話すらしていないのだ。
おそらく、クラスの大半は
この異変に気付いているだろう。
そのくらいタケゾウと
サヤが話さないのは不自然なことだった。
「…何があったかわかんねえけど
昨日家で怒鳴られてさ。」
「そうなんだ。」
「…。」
「なんで怒鳴られたか
それがわからないとどうしようもないね。」
「そうだよな。
全くわからん…。」
タケゾウとキヨトは
腕を組んで考えるも
答えが見つからず
首を傾げていた。
ハルは何かに気付いた様子だった。
「キヨト!
こっちの手伝い頼む!」
そこにクラスの一人が
キヨトに声をかけてきた。
「わかった!
ごめん。
手伝ってくるよ。
とにかく仲直りはしなきゃね!」
キヨトはそう言うと
手伝いに行った。
「…確かに仲直りしないとな。
でもなんでこうなったんだか…。」
「…。
ハルが聞いてくるよ。
少し待っててタケ…しゃん。」
ハルはタケゾウにそう言うと
教室を見渡したが
サヤの姿は無く
探すために教室から出て行った。
『ハルに気を…使わせたな。』
タケゾウは言われた通り
少し教室で待った。
だが、昼休みが半分過ぎたところで
心配になり
二人を探しに教室から出ることにした。
『どこ行ったんだ?』
タケゾウは廊下をキョロキョロと
見渡したが
二人の姿は無かった。
『いねえな。』
タケゾウは職員室方面を目指し
歩き始めた。
そして職員室を覗いたが
サヤとハルの姿は無く
そのまま歩き回った。
『早くしないと
昼休み終わるな。』
廊下を曲がり
保険室のある廊下に出た頃に
ようやくサヤとハルの姿を見つけた。
『っても…なんて声をかけたら…。』
タケゾウはここまで来て
見つけたにも関わらず
隠れてしまった。
『いや。
うじうじ隠れて何がしたいんだ。
こんなの当たって砕けろだろ。』
タケゾウはなんとか決心すると
サヤとハルの方に歩き出した。
遠巻きに見るに
少し何か言い合いをしているように
見えもしたが
タケゾウが近づくにつれて
お互いが頷き
和解したようにも見えた。
「お、お二人さん。
もう昼休み終わるぞ。」
タケゾウは緊張からか
少し噛みそうになりながら
二人に声をかけた。
すると二人は
タケゾウの方を向くと
軽い殺気を宿した眼光で
タケゾウを睨みつけた。
「お、おい。
どうしたってんよ。」
「はぁ。
なんと言うか…。」
「タケしゃん…。
少し空気読んで。」
サヤとハルはそう言うと
お互いの顔を見てクスっと笑った。
「ま、仕方ないか。
この男じゃね。」
「そうだね。
仕方ないよ。」
「な、なんだよ。」
「「なんでもなーい。
…ぷぷ。
あははははははは」」
「サヤ。
負けないよ。」
「こっちこそ。
この鈍感は私の義理の
弟だからね!
義理の!」
そう言うと
サヤはタケゾウの腕を取り
ハルにニヤっと不敵な笑みを返した。
「あ!
ま、負けないもん!」
ハルもそう言ったものの
タケゾウの袖を掴むのが精一杯の様子だった。
それを見たサヤは
ハルにさらに不敵に笑いかけた。
「そ、そんなので
勝敗は決まらないもん!
ハルには特別なあだ名もあるもん!
ね!
タケしゃん!」
「あ、ああ。
ってどうしたんだよ二人とも。
結局なんで怒ってたんだ?」
「はぁ。
ま、仕方ない。
長期戦なんて覚悟の上だもんね!」
「こ、この状況で
そんな…。
タケしゃん。
少し空気を感じて。」
そしてため息の後に
サヤとハルはニコっと笑った。
「じゃ教室戻ろ!」
「うん!」
「ったく何がなんだが。」
二人は走り教室に向かった。
それを見ながらタケゾウは
頭をかいて呟いた。
「はぁ。
今度は転校生にも手をつけたのか。
タケゾウくん。」
突如、ゾっとするほど
静かな声が後ろから聞こえ
タケゾウは素早く振り返った。
「…ショウジロウ。
来てたのか。」
タケゾウの視線の先には
保険室のドアを開け
タケゾウを見ている
ショウジロウが立っていたのであった。
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