転校生と文化祭
ショウジロウはあれから
数日間登校することはなかった。
ショウジロウがようやく登校してきた頃
にはタケゾウの夏の大会は終わっていた。
タケゾウにとっては残念な結果で
その大会の結果がショウジロウの耳に
遠巻きに聞こえてきたが
特に反応することはなかった。
ショウジロウの目からは
生気は消え
日々を死んだように過ごした。
そして月日は過ぎ、季節は秋を迎えた。
「おら、お前ら。
今日は転校生が来た。
少ない時間ではあるが
仲良くしてやってくれ。
じゃ入ってくれ。」
「あ、あの!…。
そ、その…。
ハルって言います!
卒業までの
短い期間ではありますが
よろしくね!」
そんな中、秋だというのに
転校生がやってきた。
「こんな時期に転校生って…。」
「大変だね…。」
女子が少しざわついたのに
対して
男子は皆が沈黙していた。
斜めに結い上げられた長く黒い髪。
狐のような少しつり上がった目に
綺麗な茶色の瞳。
細く整った鼻に薄い唇。
そしてそれを包む輪郭はもちろん
シャープで
その輪郭に真ん中で分けられた前髪がそって伸びていて
さらにそれを印象付ける。
そしてその見た目から
気の強さが伺えるにも関わらず
恥ずかしそうに手を後ろ手に組み、カバンを持ち
少し前傾姿勢で
斜め下を見ながらもじもじと
自己紹介をしたハル。
そして軽いざわつきと
男子の沈黙に耐えかねて
ハルがもう一度
挨拶をする。
「あ、あの…。
よろしく…ね。」
そのままの姿勢から
目線だけを上に上げ
ハルは恥ずかしそうに言った。
爆発音。
窓が振動するかのような音が
教室に…
いや、学校中に響き渡った。
歓喜の咆哮とでも言うのだろうか。
「あー!
なんだこのギャップは!
反則すぎる!」
「女神だ!
女神が降臨された!」
「ハルちゃん付き合って!!」
「秋なのに俺にもハルが来たー!」
うまい。
文字通り。
それは男子だけにとどまらず
女子にも電波していった。
そしてハルが驚くほどの
ハルフィーバーが起こった。
「ったく!
お前らうるさいぞ!
じゃ席だけど…。
そこの席に座ってくれ。
サヤ。
色々と面倒見てやってくれ。」
「はーい。」
そしていつの間にか
サヤの後ろに用意されていた
空席にハルが座った。
「あ、私はサヤ。
よろしくね。
あとついでにこれは
タケゾーね…。
ってタケゾー。
起きて!」
「いてっ!
何すんだよ!
ん?
誰だあんた?」
「は、初めまして。
ハルっていいます。
今日、転校してきました。」
「へえ。
変な時期に。
大変だな。
親の都合か?」
「は、はい。
お父さんの仕事の都合で。
人事っていうのが
四月と十月にあるんです。」
「ふーん。
そりゃ大変だな。
わかんないことあったら
聞いてくれ。
じゃおやすみ。」
「こら寝るなー!
これから授業だよ!」
「はいはい…。
…。」
「まったく…。
教科書とかはある?」
「あ、うん。
大丈夫です。」
「そんなかしこまらないでよ。
って言っても初日じゃそうなるよね。
でも気を使わなくていいよ。
そんなんじゃ疲れちゃうでしょ。」
「あり…がとう。
じゃお言葉に甘えて…。
少しずつ
崩していくね。」
「うん。
じゃとりあえずお昼に
校舎案内するよ。」
「あ、ありがと!」
そんな会話を遠巻きに
ショウジロウは見ていたが
すぐに興味を無くし
目を逸らした。
「ということで
間も無く文化祭だ。
文化祭ではわかってると思うが
社会に出てからの
お前達に役立つよう
お前達が企画、運営を…
要するに商売をする。
何を売ってどのくらいの利益を出したいのか。
しっかりと話し合いするんだぞ。
じゃサヤとキヨト。
お前達がリーダーな。
先生は職員室に戻るから
お前達だけで自由に話し合え。」
先生はそう言うと
教室を後にした。
「まったく…。
先生も少しは参加してくれればいいのに。」
サヤはキヨトと共に
教卓と黒板の間に立って
ため息をついた。
「そうだね…。
生徒の自主性ってやつかな?
何にしても頑張ろう。
じゃみんな。
何をやりたい?」
たこ焼き、お好み焼き、チョコバナナ
喫茶店、クレープ。
演劇、映画上映
お化け屋敷。
定番のものではあるが
皆がたくさんの意見を出した。
「じゃこの中から決めようか。」
「そうね。
…喫茶店を飲食店として
考えたらこのメニュー全部出しても
いいんじゃない?」
「確かに。
じゃ喫茶店、演劇
映画上映、お化け屋敷の
四つで多数決にしよう。」
「それが良さそうね。
じゃみんなそれぞれに挙手お願いね。」
そしてクラスでの多数決の結果
僅差ではあったが喫茶店を
運営することになった。
「決まりだね。
じゃこの喫茶店のコンセプトや
目玉になる商品を考えよう。」
キヨトがそう言うと
僅差で多数決を負けた者達から
瞬時に意見が出た。
ちなみに僅差だったもう一つは
演劇である。
「コスプレ喫茶!」
「コスプレ喫茶か…。
お客さんがするってこと?」
「違う!
クラスの選ばれたものがするのだ!
それしかない!」
「そうよ!
他の誰かなんてどうでもいいわ!
キヨ…こほん!
コスプレして
お客さんを楽しませるの!」
「な、なるほど。
となると衣装だけど…」
「「それは任せて(ろ)!!」」
「わ、わかった。」
キヨトはあまりの勢いに
押し切られてしまった。
「はは。
じ、じゃ料理関係に
ついても決めておこう。」
「そ、そうね。」
こうして役割を分担した。
キヨト、サヤ、タケゾウ、ハル
は接客と裏方全般をすることになった。
タケゾウが
こんな役割になったのは
サヤが勝手に決めたのは
言うまでもない。
そこについでにハルもねじ込んだ。
ショウジロウは飾り付け班になった。
そして放課後。
飾り付け班、衣装班は
それぞれ買い出しに出掛けて行った。
料理班に接客班も混ざり
メニューについて
話し合いをし
ある程度のメニューは
決まった。
あとはどの程度
文化祭では集客が見込めるのか
過去のデータを参照し
そこからどのメニューの
食材をどの程度仕入れるかまで
とてもスムーズに決めることができた。
あとは仕入れ値の調査と
集客を伸ばす目玉のメニューの考案
というところで
終了した。
「すげーサクサク決まったな。」
「…。」
「ふふ。
そうでしょそうでしょ。」
「サヤが調べていてくれたんだね。
よくこんな短時間に
ここまでの情報を。」
「もっと褒めて良いんだよみんな。」
「あーすげーすげー。」
「すごい!」
「ありがとうサヤ。
おかげで
明日からの準備がすごく楽だよ。」
「んータケゾー。
心を込めようね。」
「あいでっ!」
「はははは。」
「ふふ。」
「ハル?
なんか随分硬いけど
どうしての?」
「じ、実は…。
男の人と話すの苦手…なんだ。」
「そうなの?」
「う、うん。」
「だから片言みたいなんだね。
これから少しずつ
慣れていけばいいさ。」
「そうだな。
それでいいんじゃね?
それに苦手も何も
今日初対面だしな。」
「確かに。」
「が、がんばる!」
ハルは恥ずかしそうに
頑張るぞポーズをとった。
「あーもうハルちゃん可愛い!」
そんなハルを見て
サヤがハルをぎゅっと抱きしめた。
「まったくどうして
女はこう
女どうしでベタベタするんだろうな。
ってあれ?
キヨト?」
「ん?
あ、ああ。
そうだな。
そう思うよ。」
キヨトの顔が
タケゾウには少し赤く見えたような
気がしたが
それは夕日のせいだろうと
タケゾウは勝手に解釈した。
「じゃ、ということで
頑張ろうねみんな!」
「お、おー!」
サヤがそう言うと
ハルだけが目をぎゅっとつむりながら
手を挙げた。
「あ、あれ?
は、恥ずかしい…。」
ハルが真っ赤になった顔を
すぐに両手で隠し
タケゾウとキヨトはクスクスと笑った。
『まったくもう』と言わんばかりに
ハルの頭を撫でるサヤを
見て、タケゾウが
『お母さんみてー』というと
タケゾウとキヨトはサヤに
げんこつをお見舞いされて
それを見たハルがクスクスと
笑った。
そして顔を見合わせ
四人で大きく
「「「「あははははは」」」」
とそれはもう楽しそうに笑った。
そんな笑い声とともに
文化祭の準備が始まった。
遅くなり申し訳ありませんでした。
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楽しんでいただければ幸いです。




