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道場の横で

「タケゾーに何か用事?

呼んでこようか?」

サヤは少し気まずそうにでは

何とか口を開き

声を発した。










「い、いや用事なんてないよ。

明かりがついてたから

まだ誰かいるのかなって思って。」

ショウジロウは必死に言い訳を考えていた。

『鞄の中身を見られるのだけは

避けないと。

だけど急に逃げ出すのも不自然だ。

何とか切り抜けないと。

…。

待てよ。

最悪どうにもならなくなったら

鞄には武器もある…。

どんなに練習している人間でも

さすがに武器には…。

くくく。

どうせ俺には何もない。

最悪の場合…。』

ショウジロウは考えを捻じ曲げ

少し心に余裕が出た。








「ショウジロウくん?」

「ん?

あ、うん。

でもタケゾウくんこんなに遅くまで

やってるんだね。

大会が近いから?」

『どうせ、いつもはもっと早く帰ってるだろ。

そんなその場限りで追い込んでも…』

「ううん。

これが日課。」

「に、日課?

毎日こんなにやってるの?」

「うん。

というより

まだ終わってないよ。

家に帰ってご飯食べたら

お父さんに稽古つけてもらうもん。

本当起きてから寝るまで

毎日修練、修練って感じかな。」

「そ、そんなに努力してるんだ…。

何のために…?」

「強くなるため。

ってタケゾーは言ってたよ。」

「つ、強くなるため?」

「うん。」

「そ、そうなんだ。

こんなこと毎日やってるんだから

もう充分強いんじゃないの?」

ショウジロウは驚きを隠せなかった。

ショウジロウからすれば

タケゾウはもう充分すぎるほど

強い。

それはこの前のことでも

明らかであり

それにショウジロウが以前憧れた

馴れ合いなんかをしない

一匹狼なところも

人間として強いと

ショウジロウは

心のどこかでは思っていた。

にも関わらず

タケゾウはこれだけの努力を日々欠かすことなく

やっていると言う。

ショウジロウは理解に苦しんだ。











「…まだ強くないんだよ。」

「強くない!?」

ショウジロウはつい大きな声を出してしまった。









「うん。

まだタケゾーが勝てない人が

たくさんいるの。

もちろん勝つイコール強い

ってことじゃないんだろうけど

今のタケゾーにとっては

それが強さを測るものさし

みたいなものなんだろうね。」

「こ、こんなに努力しても

まだ勝てない人がいるんだね…。」

「うん。

タケゾーってね。

才能ってものが無いんだって。」

「さ、才能?」

「うん。

昔ね。

私の家、剣道道場やってるんだけど

その門下生の一人に少し強い子がいたんだ。

その子にタケゾー才能ないなって

ほとんど毎日…言われてたの。

正直、私から見ても才能は

あるように見えなかったんだ。

けどタケゾーね

『無いなら努力するだけだ』

って言って努力したの。

そしてその門下生にも

勝っちゃったんだ。

けどタケゾーは努力をやめなかった。

『俺より強い奴が俺より努力してる。

こんなもんじゃダメだ』

って言ってね。

多分お父さんのこと見て言ってたんだろうけどね。

仕事して、帰ってきて

剣道教えて

終わった後に自分の修練して

ってのを見てたからかも。

あ、ごめんね。

長々とこんな話…

ショウジロウくん?」

ショウジロウはいつの間にか

腰を降ろして

下を向いていた。











ショウジロウは努力とは無縁だった。

それは今までの経験で脳が覚えてしまったからなのだろう。

努力は人を裏切る。

努力をすると期待してしまう。

自分は何かになれるのではないか。

そしてある程度いくと

その努力に気づかされる。

自分は何にもなれないと。

才能なんていうものに

簡単に、それはもうごく自然のように

自分の努力を打ち消されるからだ。

そして何よりタチが悪いのは

その才能を有している者達が

誰よりも努力ということを

しているからだ。








ショウジロウは幼い頃から

少しずつ少しずつ

その現実を突きつけられては

逃げるという行為を繰り返し

いつの間にか

『自分はまだ本気出していない』

という言葉を常套句に

努力を放棄した。

知っていたのだ。

努力する無駄さを。

才能にはどう足掻いても

努力では勝てないことを。

そもそものスペックが違うのだと。









だからショウジロウは努力をせず

自分には何もないことを認めることだけは

何とか今まで避けてきた。

だが、自分の

その当たり前を

何としても打ち崩そうと

足掻き続けているやつが

目の前にあわられた。











ショウジロウにとって

それは衝撃だった。

どんな才能を目の当たりにした時よりも

完膚なきまでに

打ちのめされた感覚だった。

そしてその衝撃は

ショウジロウの中にあったものを

根こそぎ蹴散らした。

ショウジロウの思考は停止した。














『俺は…。

ダメだ。

何も無い。

こいつに何をしても

無駄だ。』

感覚的に悟った。

自分がこの男に何をしても

この男は折れない。

過大評価かもしれないが

ショウジロウにとってはそれほどの

衝撃だったのだ。














「…。」

ショウジロウはゆっくりと立ち上がり

その場からゆっくりと歩いて去っていた。












「どうしてんだサヤ?」

そこにタケゾーが修練を終えて出てきた。

「う、うん…それが…。」

「そうか。

よくわかんねえが…。

とりあえず何もなくてよかった。

それより早く帰って飯にしようぜ。」

「う、うん。

早く着替えてきなよ。」

「わかった。」

そしてタケゾウとサヤも

道場を後にした。












「それにしても

ショウジロウくんどうして

道場に来てたのかな?」

「さあな。

明かりがついてたからって

話は…

まあ不自然だな。

校門とは正反対だし

この時間に残ってるのは

部活やってる連中くらいだ。」

「…。

謝りに来たとか?」

「それならサヤに

会ったんだ。

言えただろ。」

「…。

緊張しちゃったとか!」

「知るかよ。

そんなの本人に聞け。」

「もう!

一緒に考えてくれてもいいじゃん。」

「って言われても

答え知ってんのは

ショウジロウだけだ。

いくら考えても

答えなんて出ないだろ。」

「そ、それはそうだけど…。」

「そんなことより

俺は大会だ。

今度こそ

優勝してやる。」

「はいはい。

それは前回準優勝した人のセリフだよ。」

「う、うっせーな。

優勝以外は全部準優勝だっての。」

「ぷぷ。

変な理屈。

じゃたくさんご飯食べて

修練しないとね。」

「おーよ!

あー腹減ったな。」

「今日は夕飯なんだろうね…。」

そんな会話をしながら

タケゾウとサヤが帰宅していた頃

ショウジロウはすでに

帰宅していた。















自分の部屋に入ると

背負っていたリュックを

ドサっと床に降ろし

そのままベットにダイブした。














「ははは。

わかってた。

薄々は気付いてたんだ。

僕は主人公にも

何もなれないってことくらい。

何の価値も無く

何の意味も無い。

それが僕だってことくらい

わかってたんだ。

ははは。」

ショウジロウは

仰向けになり

腕で目を覆うと

ブツブツと独り言を言った。

まるで自分と話すように。
















「いつもどこかの誰かが

教えてくれていた。

お前じゃないって。

わかっていた。

認めたくなかった。

俺だっていいじゃんか。

僕だっていいだろ。

良くないんだ。

ああ。

俺には本当に何もないんだ。

その上、何もしてこなかった。

向き合うことも

足掻くことも…。

こんな世界、無くなればいいのに。

こんな人生ならもういらない。

早く終わればいいのにな…。」

ショウジロウはブツブツと

一晩中、話し続けた。

溢れる涙が枯れるまで

何度も何度も話し続けたのであった。












読んでいただきありがとうございます。

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楽しんでいただけたら幸いです。


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