修学旅行といえば鹿
「それで修学旅行で
行くところのことなんだけど…
二人とも聞いてる?」
サヤが怒り気味に
頬を膨らませながら
目の前の男子に言った。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「あ、ああ。
すまん。」
『ああ!
サヤ可愛い!』
タケゾウはまるで興味のカケラすら
ないと言わんばかりに
サヤのことを受け流し
ショウジロウは今から始まるであろう
自分の物語に
胸を躍らせていた。
そしてそんな胸踊る日常は
あっという間に過ぎていき
修学旅行当日の朝を迎えていた。
『あっという間に修学旅行だ。
俺的にはもう少し何かあると
思っていたんだけど
まぁ、いいか。
これからたくさんもっと
良い事があるだろ。
なんて言っても
俺はヒエラルキー頂点のグループ!
そして、こんなビックイベントで
サヤと一緒だなんて…。
何もないはずない!』
ショウジロウは絶好調に浮かれていた。
勘違い甚だしいとはまさに
このことを言うのだろう。
だが、その勘違いは自信を生み出した。
おかげで少しではあるが
タケゾウとサヤといるときだけは
自分から話しかけることが
増えてきた。
だがそれでも
多いわけではないし、気軽に話している
わけでもない。
そんなショウジロウをほっとけない
姉御肌のサヤは
ショウジロウによく
話を振っていた。
そしてそれは修学旅行が始まり
班でいることがさらに増えたため
サヤの姉御肌も本領を発揮。
ショウジロウの勘違いは
さらにものすごい速度で加速する。
そして気付けば
二人を呼び捨てするほどに
なっていた。
それ自体は悪いことでは
もちろんないし
そのほうが自然ではあるが
ショウジロウの態度が
修学旅行に入り
まだ半日程度しか経っていないにも関わらず
明らかに
変わってきていることに
サヤは若干の戸惑いもあった。
タケゾウはそんなこと御構い無しに
自分が見たいところを
目を輝かせ、周っていた。
「タケゾウ!
あっちも見ようぜ!」
「ん?
ああ。
あっちも気になってたんだ。」
『ショウジロウくん…。
明らかに態度というか
人格が変わってきてる…。
どうしたんだろう?
元々、こっちが素の
ショウジロウくんなのかな?
クラスではこんなイメージじゃ…。
ううん。
ショウジロウくんのこと
何も知らないのに
勝手に決めるのは良くない。
もう少し接してみれば
いいだけよね!』
「待ってよ二人ともー!」
そして修学旅行は二日目になった。
二日目は班での自由行動。
電車、バスを使って自分達が
提出した経路を周る。
『つ、ついに班での自由行動か。
サヤ達とどこ行くんだったかな?』
「はは。
どこでもいいか。
男らしいとこもたまには見せてやるか。
そしてらもう惚れてるんだから
この旅行中に…。
くくく。」
「おい。」
「あ!
おはよう…。」
『まずい聞かれた!
は、恥ずかしい!』
「なんか考えてること
口に出てたぞ。
よく聞こえなかったけど。
そういうの気を付けたほう…」
『き、聞こえてなかったのか。
よかったぁぁあ。』
「何勝手に聞いてんだよタケゾウ。」
「おっと。」
ショウジロウはタケゾウに勢いよく
飛びかかり肩を組んだ。
「聞こえてても内緒にしてくれよ。」
「は?
聞こえなかったって言ってんだろ。
つーか重い。
離せ。」
「ははは。
わかったよ。」
ショウジロウはタケゾウから
腕を離し、地面に降りた。
「なんかお前、キャラ変わったな。
そっちが素なのか?」
「ん?
ああ。
そうだよ。」
「なんで今まで…」
「二人ともお待たせー。」
「遅えよサヤ。
ほら、タケゾウ。
行こうぜ。」
「あ、ああ…。」
タケゾウもようやくショウジロウの変化に
気が付き、質問をしようとしたが
サヤに遮られてしまい
聞くことが出来なかった。
外からみれば
十年来の友人に見えるような
やりとりだったが
それはタケゾウにとって
気味の悪いものであった。
「二人とも。
次はあの鹿のいる公園に行くよ。」
「わかった。」
「ああ。」
『し、鹿か。
大丈夫かな?
昔動物園で見た時大きかったよな…。』
「鹿か…。
くくく。
動物でのハプニングは付き物だよな。
サヤがビビったとこで
いいとこ見せるチャンスだ。
…しかし…。
タケゾウとサヤはほんと仲良いよな。
当たり前ではあるけど。
…邪魔だな。」
三人は鹿のいる公園に向かった。
その道中もタケゾウとサヤは
いつものように並んで歩き
ショウジロウは後ろに一歩下がって
歩いていた。
三人組で歩いていると
よく見る光景だった。
ショウジロウがこの班に加わり
三人で歩く時は
いつもこんな感じだったのだが
ついにショウジロウは思ってしまった。
タケゾウの存在が邪魔だと。
そんなショウジロウの感情を
知るはずもなく
三人は鹿のいる公園に到着した。
「あ、これこれ!
タケゾー!
買っていこーよ!」
「ん?
ああ。
せんべいか。
買っていこ…」
「俺が買ってやるよ。」
ショウジロウがタケゾウとサヤに割り込むように
タケゾウに肩をぶつけて入ってきた。
「あ、い、いいよ。
ショウジロウくんも自分の分
買うでしょ?」
「俺はいいよ。
みんながあげたのの余りで。」
「そ、そう。
じゃお願いしちゃおうかな。」
「おう。」
「…。」
タケゾウは明らかに変わったと
この瞬間認識した。
ショウジロウから
自分が試合の時に
向ける敵意のような
ものに悪意が混ざったようなものを
感じたからだ。
「わぁ!
鹿可愛いね!
あはは。
もう、順番にあげるからっ。
くすぐったいよ。」
そんな不穏な空気も
鹿達が群がり
なんとか緩和された。
タケゾウも動物好きが発動し
ものすごく楽しそうに
せんべいを渡していた。
「タケゾー!
こっち来てよー!
多すぎて手がまわらないよー。」
「ああ。
今行くよ。
ってあれ?ショウジロウは?」
「あれ?
どこ行ったんだろ…?
あ、あそこに座ってるよ。」
タケゾウはサヤに声をかけられて
本能的にショウジロウの存在を警戒した。
意外にもショウジロウは
木の下にあるベンチに座り
寄ってくる鹿を
手で追い払っていた。
「あいつ…もしかして
怖いのか?」
タケゾウはショウジロウを少し観察したが
どうやらタケゾウの思った通り
鹿が怖いようだ。
『ひ!
く、くるな!
僕は持ってない!
こいつら大きすぎるんだ!』
「ショウジロウくん
怖いの?」
それを気にしたサヤと
仕方なくタケゾウは後ろについて
ショウジロウの元にやってきた。
「お、俺が怖がるわけないだろ!
馬鹿にすんな!
汚くて触りたくないだけだ!」
「それはひどいよショウジロウくん!
この子達は仲良くしようとして…」
「うるさい!!」
ショウジロウは立ち上がり
思い切りサヤを怒鳴った。
「おい。
図星突かれたからって
サヤに怒鳴るなよ。」
「あ、いや…そんなつもりは…」
「サヤ。
気にすんな。
俺らはあっちに行こう。」
「う、うん…。」
タケゾウは落ち込むサヤを
連れてショウジロウの前から去って行った。
『ぼ、僕は…そんなつもりじゃ…。』
「タケゾウ…良いかっこしやがって…。
邪魔なんだよ…。
あいつ…邪魔だ。
サヤは俺の…物だ。」
不気味に笑ったショウジロウからは
鹿達が自然と離れて行った。
太陽は陰り、薄く雲が出始めた
修学旅行二日目の午後の出来事だった。
読んでいただきありがとうございます。
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そろそろ休みが欲しいと思う今日この頃です。
皆さんもお体ご自愛ください。




