胸を貫く恋心
「いやだからなんでだよ!?」
異様な光景だった。
刀を構えたままのタケゾウを
胸を貫かれ、出血した女が
ありったけの笑顔で抱きしめていた。
色んな意味でこれも地獄だろう。
まさに胸を貫かれ、恋に落ちた。
そんな様子だった。
「おい!
離せ!
そもそも戦いに決着が…」
「名前は?
名前は何て言うの!?」
女は抱擁を解き、タケゾウの肩を両手で掴み
タケゾウの顔をさらに至近距離で見つめ、言った。
「は?
俺はタケゾウ。
って、いや、だから人の話を…」
「タケゾウ…ああタケゾウ。
うちはヘルっていうの。
ハニーって呼んでもいいんだよ?」
「呼ぶかー!!!」
タケゾウは少しできた隙間を利用し
刀を引き抜くと
その手を振りほどき
何とか距離を取った。
「タケゾウ。
うち、タケゾウの全てを奪ってみせるから。
だから、もう離れないで。」
「そういう意味じゃねえ!
まったく。
なんか戦う気も失せたわ。
とりあえずその傷じゃ
お前死ぬんじゃ…」
「死なないよ?
うちはタケゾウと一緒にいるから。」
満面の笑顔がタケゾウの顔に急速接近した。
「な!
いや、それはさすがに…
って…血が止まってる?」
衣服に隠れて傷はあまり見えないが
腕の傷からはすでに血が出ていなかった。
そして胸を見ると、明らかに血が出ていない。
「お前…なんで…」
「お前だなんて…うちのことは
ヘルって呼んでよタケゾウ。
ほら。
ヘール。
あ、ハニーでも可。」
駄々っ子のように
タケゾウにおねだりするその目の前の女は
先ほどとは本当に別人のようだった。
「わ、わかった。
ヘル。
とりあえず眼帯しろ。」
タケゾウはヘルの眼帯を拾い
ヘルに渡した。
「したよ!
これでいい?」
「あ、ああ。」
眼帯をし、目が隠れたのを好機と思ったのか
子供がものすごい速度で
ヘルに拳を放った。
「おらぁあぁぁああ!!」
「もう。」
ヘルはそれをサっとかわすと
子供を抱きしめた。
「リル!
うちついに見つけたの!
だからオイタしちゃめ!」
「ぐがぁああぁぁ!」
その細い腕のどこにそんな力があるのか
子供はヘルに抱きしめられ
悲鳴をあげた。
骨が軋んでいるのが
見ているだけでわかる抱擁だった。
「ヘル!
離せ!」
「…はーい。」
タケゾウがヘルにそう言うと
ヘルは素直に子供を離した。
「おい。
少し落ち着け。
今のお前じゃこいつには…」
タケゾウがそう言って子供のそばに行くと
頬を鋭い爪がかすめた。
「邪魔するな!」
子供はそのギラギラとした目つきで
タケゾウを威嚇した。
「こいつさえ…こいつさえいなくなれば!!」
子供はタケゾウの手を振りほどき
再度、ヘルに攻撃を仕掛けたが
力の差は歴然。
ヘルは相手にもしない程度に
子供の頭部を鷲掴みにすると
地面にめり込ませた。
「くすくす。
オイタはめって言ったでしょ?」
タケゾウは少し疑問を感じた。
絵図面だけ見たらとてもひどい光景だったが
ヘルの表情にはほんの少しだけ
愛情というものが見えた気がしたからだ。
「ありゃ?
なんか騒がしいと思ったら
派手にやってんな。」
そこに一人の男が
二人の女の手を後ろで縛り
歩いてきた。
「タケゾウ!」
聞き覚えのある声が
タケゾウの耳に届く。
「お前らな…。」
「ねぇタケゾウ?
彼女?」
振り返ったタケゾウの背中に
殺気が刺さった。
「…違う。
あいつらの家に今は泊めてもらってて
飯も食わせてもらってる。」
「なーんだ。
うちはてっきりそうなのかと思った。
くすくす。
ガルド。
その二人はうちのお客さんみたいだから
自由にしてあげて。」
「そりゃすまねぇことしたな。
ほらよ。」
ガルドと呼ばれたその男は
あっさりと二人を解放した。
タケゾウがやれやれと
頭を掻きながら二人の元にやってきた。
そして小声で話し始めた。
「どうして来たんだよ。」
「どうしてもこうしてもないですわ!
カリストにここのことは聞きました!
早く逃げないと…。」
タケゾウはそばに来て
ようやく気付いた。
二人も腕に覚えのある者だろうに
小刻みに震えている。
おそらくガルドの醸し出す雰囲気に
当てられたのだろう。
ガルドと呼ばれたその男は
金髪の長い髪を一本に三つ編みで結っていた。
切れ長な目に長い耳。
丈の長いTシャツにボロボロのパンツ。
そして上にはシングルの革ジャンを羽織っていた。
タケゾウもガルドと目が合ったが
その目に睨まれると
まるで蛇に睨まれた蛙のように
背筋が凍る。
「くすくす。
せっかくガルドも帰ってきたし
タケゾウ。
その二人も疲れているようだし
よかったら少し休んでいって。」
「あ、ああ。
じゃそうするよ。」
タケゾウは逆らわないほうがいいと判断し
屋敷に入ることにした。
ジュジュとカリストは
未だに震えていたものの
タケゾウの後につき屋敷に入った。
ガルドは気絶したリルを抱え
屋敷の別の部屋にいったようだ。
「くすくす。
とりあえず座って座って。
タケゾウはどんなのが飲みたい?」
「なんでもいいよ。
この二人にも頼むよ。」
「はーい。
グレト!」
客間の一つに通され
ヘルが名を呼ぶとその者が入って来た。
どうやらメイドのようだ。
「美味しいやつお願い。
ところでラティは?」
「はい。
ラティは治療を終え、自室で眠っております。」
「そう。
じゃあとで来るように伝えて。」
「かしこまりました。」
そういうとメイドのグレトは部屋を後にした。
そして少しの緊張の中、なぜかお茶会が始まった。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価お願いします。
楽しんでいただければ幸いです。




