幻惑の森
「この森は
『幻惑の森』と言って
ジュジュの父親のユーピテルと私が
完成させた森です。」
タケゾウとタマキは
並びながら走り
二人の後を追っていた。
「この森では
誤認、幻覚、錯覚、眩惑、惑乱など
様々なことが起こります。
この森にこの丸薬を飲まず入ることは
自殺行為…いえ。
死と同義です。
森を彷徨い、精神が崩壊し
そして力尽きます。
この森の狡猾なところは
全てが幻覚の類ではなく
事実や現実も織り込んで
その精神を喰らいにきます。
どれが本当でどれが嘘なのか
作った私ですら
わかりません。」
タケゾウは風切り音の中で
その言葉を聞き
頭にはたくさんのことが巡っていた。
「つまりこの森で起こったことが
全て現実かわからないってことなんだな?」
「はいはい。
その通りです。
この丸薬についても
知っているのは我々神と
一部の者のみ。
あの我々を召喚した神すら
この森には干渉することができません。
だからあれほど驚いたのです。
タケゾウさん。
あなたは一体どうやって…?」
「…俺は森を抜けてきた。
タマキ。
もっと早く言え。」
タケゾウは見えてしまった。
不確かで、不鮮明な
希望という光。
手の届くことなど永遠にないと
思われたそれは
タケゾウの心をどれほど震わせたのか。
その時、前方で大きな音がした。
「タケゾウさん!!
きっと二人です!!」
「ああ!」
タケゾウは刀を抜き
戦闘態勢を整え
その物音がした方角へ走り抜けた。
「二人とも!!!」
タマキがそう叫んだその先には
二人が背中合わせに
立っていた。
タケゾウは別の者を視界に捉えていた。
そしてその者は
タケゾウ目掛け手にしている剣で
目にも止まらぬ速さで
斬りかかってきた。
タケゾウはその剣を受け止め
顔をマジマジと見た。
風貌は変わり果て
目は血走り、髭が伸び
身につけている全てがボロボロになっていたが
タケゾウにはその者に見覚えがあった。
「くははは。
まさかこんなとこで再開できるとはな。
剣神、アドアリスぅぅうぅぅうう!!!!」
タケゾウは刀で止めたその剣を
弾き返した。
「まさかまさか!!
剣神のアドアリスがなぜこんなとこに!」
タマキは二人と合流し
カリストの傷を再生していた。
先に来たカリストは
腕と足に浅い切り傷を追っていた。
「殺してやるわ!!!
私が!!」
「いけない…姫!!」
ジュジュはアドアリスに襲いかかろうと
魔法を使おうとした。
その時であった。
ジュジュの視界を
刀の綺麗な刃が遮った。
「な…何を…
ひい!!」
ジュジュはタケゾウの顔を見て
たまらず尻餅をついた。
タケゾウがその刃の先で
手のひらで顔を隠し笑っていた。
その指の間から見えたタケゾウの瞳は
しっかりとアドアリスを捉えていた。
「くふふふ。
今日はなんて良い日なんだ。
あははは。
そういえばどの程度強くなれたか
知りたいと思ってたんだ。
もちろん付き合ってくれるよな?
アドアリス?」
伝染していた。
すでにその場にいる者は声を出すこと
すらできなくなっていた。
息をすることすら
ままならない程に。
タケゾウの周りにはたくさんの
魔力が具現化していた。
激流の川のように
タケゾウに流れ込んでいく
その魔力はどんどんと
周りに溢れかえっていった。
「うぅううぅぅがああぁああぁあああああ!!!!」
「おいおい。
どうしたんだよ?
もう人じゃなくなったのか?
言葉も話せなくなったのか?」
叫び声を上げたアドアリスは
一歩ようやく踏み出した。
そんなアドアリスをバカにするように
タケゾウは刀を下ろした。
その瞬間。
二人は刃を合わせ、火花が散った。
お互い距離を詰め
攻撃を始めたのだ。
アドアリスがタケゾウを押し返すように
合わせていた剣を押し
後ろに飛び退くと
土の分身を二体作った。
そしてその分身とともに
タケゾウに剣撃の雨を浴びせた。
タケゾウはその剣を避け、受け、さばきと
目まぐるしい速さで剣と刀が
入り乱れた。
そしてタケゾウの刀が
二体の土分身の首を飛ばし
腕を斬り落とし、足を斬り落とした。
土分身はボロボロと崩れ落ちていった。
「う…うぅううぅぅがぁぁぁあああ!!!」
アドアリスは叫び、さらに十体の土分身を作り出した。
そして空中に光の剣を何本も作り出した。
「月炎・炎月花。」
タケゾウがそう言うとタケゾウの前方には
大きな炎の円が出来上がった。
「うがらっぁぁああぁあ!!!」
アドアリスがその光の剣を
タケゾウに放つと分身達が
タケゾウに一斉に斬りかかった。
光の剣は月炎・炎月花に衝突し
弾き返されるとともに
盛大な火花を散らした。
そして弾き返された
光の剣は土分身達にことごとく命中。
何とか体を保った土分身も
月炎・炎月花に弾き返され
炎に包まれたところで
タケゾウが一刀両断した。
「アドアリスぅぅ。
剣で来いよ。
剣の神なんだろ?」
「うぅううぅうがああああ!!!」
アドアリスが勢いよく斬りかかった。
あまりにわかりやすい剣筋は
タケゾウに簡単に刀で止められる。
「はぁ。
おい。
言葉も話せなくなって
修練の果てに極めただろう
その剣すら忘れたのか。
ガッカリだ。」
タケゾウはアドアリスを後方に蹴り返した。
アドアリスはそのまま後ろに転がった。
そして素早く立ち上がる。
「せめて俺に殺されろ。
アドアリス。」
「ぐぅうう…がああああああ!!!」
そしてアドアリスが大きく振りかぶった
その横を通り過ぎた。
ボトっという音とともに
アドアリスの腕と首が地に落ちた。
そして血飛沫が遅れてアドアリスから吹き出した。
「剣の神。
まあ…ゆっくり寝ろよ。
俺の怨みとともにな。
くふふふ…ははははははっははは!!!」
「タケゾウさん…。」
この場にいた者にはしっかりと刻まれた。
剣の神が一人の少年に殺される様が。
その少年の狂気はまさに悪魔と呼ぶに
相応しく、その殺意は死を
まるで具現化したようなものだった。
「タケゾウさん!タケゾウさん!!」
タマキがようやくタケゾウに声をかけた。
「あ?
なんだよ?」
「二人の怪我を治してもらえませんか?」
「ん…ああ。
わかった。」
タケゾウは二人のところに行くと
再生であっという間に怪我を治した。
「その…助かりましたわ。」
「ありがとう。」
二人はタケゾウにお礼を言った。
ジュジュは少し怯えながら。
カリストはどのような表情をしているか
顔が見えないのでわからなかった。
「ありがとうございますタケゾウさん!
剣の神様に勝ってしまうなんてすごいですね!」
タマキが場の空気を何とかしようと
タケゾウに話しかけた。
「はは。
そうだろ?
こいつに勝ったってことは
これから俺が剣の神だな。
俺は強くなった!
このクソ野郎のせいで
散々な目にもあったしな!
ははは…。
…。
くそ!
くそ!くそ!くそ!
なんでだ?!
なんなんだ!!
ああ”あぁああああぁああ”ぁ!!!!」
タケゾウが意味のわからない
叫び声をあげると、振り返り
アドアリスの遺体に目をやった。
「…。」
タケゾウはアドアリスの元に歩を進めた。
「タケゾウさん?」
「何を…するつもりですの?」
「…。」
「月炎・三日月。」
タケゾウは地に向かい
月炎・三日月を放った。
大地はえぐれ、火の粉が舞った。
「…。」
タケゾウはアドアリスの首元に
ネックレスが付いているのが
見えたのでそれを引きちぎった。
何かの紋章のようなものが刻まれているものだった。
そしてその遺体の全てを
そこに放り投げると
火を放った。
「な!何をしてるんですの!?」
「姫!
違います。
よく見てください。」
飛び出して行こうとしたジュジュを
カリストが静止させた。
タケゾウはその燃える遺体に手を合わせていた。
それを見た三人も
タケゾウの元に行き
手を合わせた。
そして遺体が燃え尽き
その周りの土を
月炎・三日月で崩し、埋めた。
そしてその上に
アドアリスの剣を突き刺した。
「じゃ、帰るか。」
タケゾウはそう言うと歩き始めた。
「…そうですね。」
タマキがそれに続き
他の二人もそれに続いた。
皆はつい先ほどまで
悪魔のような怨みや憎しみを
むき出しにして笑って戦っていた
タケゾウがこんなことをしたのか
不思議でたまらないといった
表情だった。
強者がいなくなった戦場は
昨夜のうっすら積もった雪が
踏み荒らされ
真っ赤に染まっていた。
そしてそこには一本の剣が立っていた。
まるで悪夢でもあったかのように。
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