失った物は多く
「うわ!!
……。
はぁはぁ…。
ここは…?
みんなは…?」
タケゾウは飛び起き
辺りを見渡したが見覚えがあるようなないような
朧げな草原が広がっていた。
タケゾウは立ち上がり急ぎ足で、皆を探す。
「ルーナ!マルース!ゼニス!ステラ!」
名前を呼ぶが返事はない。
ただただ自分の声だけが響いた。
「アレース…。」
アレースの名前を口にしたタケゾウ。
眠ってしまう前の記憶がゆっくりと蘇る。
「ぐ…うぐ…ひぐ…くそ…アレース…。」
タケゾウは歩みを止め、その場に座り込んだ。
「あの後一体どうなっでじまっだんだ…
ひぐ…俺…何もできながっだ
ごべんアレース…
ごべんびんだ…
ごめん…ごめんよ…。」
タケゾウは一人呟いた。
「ごごは一体どこなんだ…
俺はじんだのが…
もう終わっでじまったのか…
ぢきじょう…
ルーナ…
マルース…
アレース…
ゼニス…
ステラ…
どうか、どうが無事でいでぐれ…
ぐすっ…
サクヤ…
ベル爺…
ごめん…
サヤ…
みんな…
ごべん…
ごべん…
俺…なにぼ
なにぼでぎなぐでごべん…
ごべんよ…う…ひぐっ。」
タケゾウの涙は堪えきれず
まぶたからこぼれ落ち
頬を伝っていった。
それからは後悔と懺悔の繰り返し。
こうすれば
ああしておけば
ここでこうなっていたら。
後悔と懺悔の後は
決まって涙が溢れた。
そしてその後悔と懺悔は
タケゾウを責め始めた。
アレースが奪われてしまったのは
お前のせいだ。
一番近くにいたのに。
マルースがステラが
傷ついたのはお前のせいだ。
警戒を怠ったからだ。
ルーナとゼニスが自由に動けなかったのは
お前のせいだ。
お前が弱者だからだ。
タケゾウが味わってしまった
現実は
逃れることのできない
負の連鎖となって
タケゾウに
重く、深く
のしかかった。
いつの間にか涙は枯れ
自分を責め
負の感情に支配され
生を辞めた。
認めたのだ。
今。
自身の命が尽きたことを。
タケゾウはそのままうずくまり、動こうとはしなかった。
そこに一人の白髪のオールバックの男が近づいてきた。
「おや?
うずくまって何をしているのかな?」
タケゾウは声の方をゆっくりと精気のない目で見上げた。
「……?」
「あの威勢の良さはどこにいったんだい少年?」
白髪オールバックは
タケゾウが自分を見ても何もしてこない
のでやれやれといった感じで話しかけた。
そしてタケゾウは重くなったその口を
ゆっくりと開き、喋った。
「…うるさい。
もう終わったんだ。」
「終わり?
あの程度で折れてしまったのか?」
「うるさい。」
「滑稽だね。
何をそんなに悲観しているのか
私には到底理解できないよ。」
「お前に…何がわかるっていうんだ…。
生と死って…何が違うかわかるか?
大切なものを失うってどんなことか知ってるか?
神如きにわかってたまるかよ。
どっか行けよ。
………もう俺に関わるな。」
白髪オールバックは少し考える素ぶりを見せた後
タケゾウに言った。
「そうはいかないよ。
少年にはどうであれ
私にとって少年は必要な存在なのだから。」
白髪オールバックはタケゾウの横に腰掛けた。
そして淡々と話し始めた。
「少年。
惨めだったね。
見ていたが
死にたくないともがいていた。
仲間は殺され
奪われ
自分もその刃に倒れ良いところなど皆無だ。」
「…事実だからってお前に言われる筋合いはない。
消えろ。」
タケゾウは白髪オールバックに
力なく答えた。
「それに敵は力の半分も出していなかったね。
あのメルという魚人は
本当に力を一切使ってないと言ってもいい。
魔王とあの男、ニチカにしてもそうだ。
お互いが牽制しているだけのような戦いだったね。
きっと極力誰も傷つけず
なんとかしようとしていたんだろう。
切られた女の子二人は完全に油断していた。
あれは良くないね。」
「うるさい。」
タケゾウは耳を塞いだ。
「それと最後に少年。
少年はこの世界では
とても弱い存在だ。
魔法に触れてまだ数ヶ月
しかも体の作りからして制限解除に
ほとんど耐えられない。
使える魔法は
再生と加護魔法の反射を曖昧に使える程度。
最近覚えたあの力のおかげで
魔力だけは他よりもあるようだが
それを常に使っていたわけではないから
魔力が枯渇しそうになった。
見たところ
あの力は他にある魔力を自分の魔力と結合して
使っているようだが…
はっきりいって弱すぎるよ少年。
他の者がその気になれば
すぐに命など消し飛ぶだろう。
他の者は魔法を極めた者揃いな上に
体の作りも違い
全種族分の魔法が使えるんだから。
ニチカに関しては
その魔法が全て強力という
状態だ。
そして今。
少し自分が強くなったなどと
慢心し、結果がこれだ。
守りたいものをただの一つも守れていない。
そして辞めてしまった。
歩みも生きることすらも。」
「うるさい!
黙れよ!」
タケゾウは聞いていられなくなり
力なく立ち上がり
フラフラと違うところに進んだ。
「おやおや。
どこに行くんだい?」
「お前には関係ない。」
「ははは。
関係ない…ね。
ではこういうのはどうだろう?
少年の大切なものを奪った主犯。
それが私だとしても関係ないかな?」
タケゾウは歩みを止め
ゆっくりと振り返り白髪オールバックを見る。
その目には憎悪や嫌悪
そして怒りなどの感情が
すり潰され混ざったような
そんな鈍い目でただジっとその顔を見た。
「あはは。
それだよ少年。
その感情を忘れてはいけないよ。
とはいえ…少年なら飛びかかってくると
思ったんだが…。
まあ、少しずつということなのだろうね。
仕方ない。
では一つ希望を与えよう。
あの切られた女の子二人と攫われた姫は無事だ。」
「…。」
「もちろん魔王とその一緒にいた男も無事だ。」
「…。」
「そして少年。
少年もまだ死んではいない。」
「…死んでない?
俺が?」
「ああ。
その通りだ。
魔王には感謝するんだね。」
「みんなも無事…だと?」
「ああ。
今は少年の看病ができる程には回復してるよ。」
タケゾウはその場に腰が抜けたように座り込んだ。
その表情からは
先ほどの感情が消えて
驚きと安堵が見て取れる。
「おやおや。
安心して腰でも抜けたようだね。」
「ひぐっ…ひぐ…うぐ…。」
「やれやれ。
拍子抜けだ。
情けないにも程がある。
まあ…まだ何も失っていないのだから
こんなものなのだろう。
さて、これでようやく進めるね。
止めるのはいい。
だが辞めてはいけない。
いつでもそれを決めるのは少年
君自身なのだということを
忘れてはいけないよ。
狂っても
恨んでも
それが力となって動けるのならそれでいいのだよ。」
「うぐ…ひぐ…
みんな生きていて良かった…。
俺も死んでなぐで…よがっだ…ひぐ…。」
「恨みや憎しみより
安堵が先にきているようだね。
それではあまり面白くないが…まあいい。
さて、少し生気を取り戻したところで本題だ。」
「んえ?」
「少年。
私は主犯ではないが
うっかりこの世界を面白くするために
彼らカエルスに言ってしまったのだよ。」
「あの姫は未来が見えるとね。」
「そ、そんな…
アレースにそんな力があるなんて聞いてない…。」
「内緒にしていたようだからね。
理由は私には理解できないがね。
それと各種族の神についても
少し有益なことを話してしまってね。
土地を離れてもその加護を失うことはないと。」
「んな!?」
「私が与えているんだよ。
すべての者達に魔法の力を。
これは少年とあのカエルス達しか知らないことだが
少しすれば世界がそのことに気付くだろう。
神、ニチカの裏切りによって。」
「…ニチカ…。
お前はこの世界を
平和にしたいって願っていたんじゃないのか?」
「それは大昔のことだよ。
時間が経つと変わるものさ。」
「…お前は何がしたんだ。」
「私は面白くさえなればいいのだよ。
少年はこれから姫を助けるのかな?」
「…助けたい…。」
「奪われたままでは気分が良くないよね。
では強くならないといけないね。
力で奪い返すしか方法はないだろうからね。」
「…力で…。」
「少年は奪われたのだ。
それにあの者達を放置すればまたたくさんの
関係のない人達の命が奪われる。
殺してでも止めなければいけない。」
「…それは確かに…そうかもしれない。」
「少年。
その心に信念が宿って
その信念の元、ふるわれる力を人は正義というんだ。
少年には守らなくてはいけない者達がいるだろう。
その者が死んでもいいのか?」
「…それは嫌だ。」
「そうだろう。
ではどうするか。
答えは簡単だ。
敵を殺すんだ。
人も動物も一緒なんだ。
生きるためには犠牲が必要だろう?」
「それは…その通りだ …と思う。」
「ならば戦い、守るしかないのだよ。
その条件は相手にも共通する。
なんて平等な世界なのだろうね。」
「…平等…。」
「その恨む気持ちや
憎む気持ちもそのまま受け入れるといい。
楽になるよ。
自分の都合というものがあるだろう?
それを押し通してもいいのだよ。
女の子を斬りつけ
大切な者を少年から奪い去り
たくさんの人を殺した。
そして少年の命すら弄んだのだ。
少年の心に少しあるだろう
その感情はごく自然なことなのだよ。」
「あいつらは…悪…
殺さなくては…また失う…のか…。
失うのは嫌だ。」
「そうだろう。
次は少年が取り返す番だ。
その気持ちのまま動くといい。
そうすればきっと心から笑えるだろう。
そして少年は正義の…英雄になれる。」
「正義の…英雄に…。」
「ああ。
その通りだ。
なりたいだろう?
人に認められる強い自分に。
それは少年が
その気持ちのままに殺すことによって
成すことのできることなのだ。
正義の名の下にね。
…さて、このくらいでいいかな。
少年は私のお気に入りなのだ。
しっかりと面白い物語にしてくれよ。
弱い者がどう足掻き
どう狂い
英雄として世界をどう変えてくれるのか。
そんな物語を期待しているよ。」
「…。
俺は…。」
「たくさん迷うといい。
けれど忘れてはいけないよ。
その憎しみも恨みも。
ではいつかまた…会おう…。」
そう言うと白髪オールバックは消えていった。
「俺は…。」
タケゾウはまたその場に座った。
またさらに安堵し、また涙が溢れでてくる。
『ひぐ…情けねぇ…けど…みんな生きててよかった。
みっともねぇ。
かっこつけて…息巻いて…
でも…それでも…
ああ、みんなに…会いてーな…。』
タケゾウは膝を抱え、考え始めた。
『俺…弱いな…
泣いて…醜く生にしがみついて…
誰も救えなくて…
あの白髪オールバックの言ってた通りだ。
全然何も…出来てない。
はは。
何が最強だ。
そもそも化け物みてーなやつらと戦うんだ。
死はいつだって隣にあったんだ。
強いってなんなんだ。
弱いってなんだ。
そもそも生にしがみついたことは
もしかしたら強いってことかもしれない。
かっこよく死んだらそれで終わりじゃんか。
だからなんだ。
言い訳だ。
生きようとしたのと逃げたのは違う。
俺は逃げようとした。
俺は誰かに助けを…
いやそんな良いものじゃない。
俺は誰かに変わってもらおうとしたんだ。
自分が死ぬのが嫌で。
誰かにそれを押し付けようとしたんだ…。
なんでこんなことになっちまった…。
それはあいつらが…あいつらが奪ったから…。
殺してでも…取り返してやる…
いや…それじゃ俺も…
けど神が言ったんだ…
いや…そうじゃない…。』
タケゾウは自分の情けなさ
弱さについて考えた。
その弱すぎる自分に腹が立ち
自分の代わりに兵士の命を犠牲にした自分の
愚かさに憎しみすら湧いてきた。
そしてその感情は敵に集中し始めた。
その感情はタケゾウにとって受け入れがたいものだったが
確かにタケゾウの心に根付いた。
奪われ、傷つけられ、殺されかけたのだから
この感情は正当なものなのだと
無意識に肯定し始めてしまった。
『俺の思う強いって…一体なんだ…
あの化け物みてーなやつらに勝つには…
アレース…
ちきしょう…
取り返す…どうやって…
マルースもステラも守りたい…どうやって…
ルーナとゼニスと並び立ちたい…どうやって…
ニチカ…説得して戻って来て欲しい…どうやって…
クラスのみんなを助けたい…どうやって…
サクヤの願いを叶えたい…どうやって…
殺す……。
殺さなければ…また…。」
タケゾウは考え続けた。
膝を抱え、どうすればいいのか
必死に考えた。
「 いや違う!
答えなんて決まってる。
強くなるしかねーだろ!
全部の魔法使える
あの強い奴らに勝つしかねーだろ。
ニチカは加護魔法すら全て使いこなしてくるんだ。
それに人族の神は
その魔法も加護も全て使えて
更にニチカより強いんだろ…。
そんな化け物に勝つ…?
どうやって…?
殺す…?
違う!
…
ああ、そうか。
まだ足りてないのか。
五体満足でいようなんて
普通に生きていようなんて
甘すぎた。
死はわかった。
今度は俺も命をかけよう。
覚悟が足りない。
そもそも弱すぎるんだ。
もう何があっても守ってみせる。
もう失いたくない。
自己中心でいい。
俺が嫌だから強くなりたい。
もう何も失ってなるものか。
そのために力が必要だ。
俺は……………………。
今度こそ最強になってやる。』
タケゾウの行き着いた答えは
やはり強くなるということだった。
覚悟ということを
ようやくしたのであった。
タケゾウは立ち上がった。
草原にふわっとした風が吹いた。
タケゾウの意識は薄れていった。
「ふふふ。
あはは。
ようやく行ったようだね。
だがこれはまだ序章なのだよ少年。
今は希望がまだあるから
前向きに立ち上がったようだが…くくく。
その心には確かに根付いたね。
くくく…あはははははは。
やっと面白くなってきたようだ。
ここで立ち上がり
力をつけ、そしてその先で
全てを失ったなら…。
あははははははは。
先が楽しみだよ少年。
期待しているよ。」
白髪オールバックは
笑いながら消えていった。
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