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カエルス






『ぢきじょう!ぢぎじょう!!』

タケゾウはもがくように走っていたが突如脇腹に激痛が走り

横に転がって倒れた。

「ぐ…」

「タケゾウくん。

忘れ物だよ。」

そう言うと腕が無くなった兵士の上半身をタケゾウに投げつけた。





「あ…ああ…うわぁぁあぁぁああ!!!」

タケゾウの上には上半身のみとなった兵士がいた。

臓物は流れ出て大量の血とともにタケゾウに覆いかぶさる。

タケゾウは必死にもがき、兵士を横に投げる。





「うわ!…ぐおぇえぇええぇえぇええええ!」

そしてタケゾウは嘔吐してしまった。

兵士を見て、自分の死を見てしまったのだろう。

「ひどいじゃないかタケゾウくん。

きみを逃がすために戦った兵士を投げ捨てるなんて。

どれどれ。」

メルは横たわった兵士の兜を取ると

その首を斬り落とし髪を掴んで

タケゾウの元に持って来た。





「これがきみのせいで死んだ人の顔だよ。

『見捨てて逃げるなんてひどいじゃないかー』

ぷっあははははは。」

メルはその顔で話す真似をして笑った。

タケゾウの目の前に

ぶら下げられたその顔は

目が見開き

絶望と恐怖や苦痛に歪んだものだった。

タケゾウはその死者の目を見てさらに嘔吐した。





「武闘会を見ていて思っていたんだけど

きみ…

死ぬと思ってないでしょ?

こんなに簡単に死ぬんだよ?」

「あ…ああ…うわぁあぁああ!!」

タケゾウは情けなく這いつくばってその場から離れようとする。






「ダメだなぁ。

それ。」

「ぐぁあぁぁぁぁぁあ!!」

タケゾウの左太ももをその剣で突き刺した。

「痛そう。

はい、次ね。」

「ぐぁああぁあぁぁぁああ!!」

次は右太ももを剣で突き刺した。

「うんうん。

きみはどんどん死に向かっているんだ。

少しは自覚したかな?」

「ぐ…嫌だ…じにだくない…嫌だ…。」

タケゾウは剣が足に突き刺さり

その場から動くことができない。

顔は涙と唾液と鼻水でグチャグチャになっている。





この凄惨な死は

家族を事故で失ったトラウマを呼び起こし

パニックにするには充分すぎるものだった。

そして今違うことは死が確実に自分にも

訪れるということを自覚させられたこと。

大切な者を奪われ、自分も死ぬという事実。

今までも死にそうになったことはたくさんあったが

心のどこかでは死ぬということは無いだろうと思っていた。

いつも近くには強者がいて

ベル爺やルーナなど

再生をいとも簡単に行う者たちがいた。

だが今はいない。

自分一人なのだ。

全てがメルの言うとおりだった。

激痛がこれを事実だとタケゾウに訴えかけている。






「ぐぁああああ!」

「いいね。

背中から腹を刺すのはやっぱり刺し心地がいいよ。

実はここだけの話

君は変な力を使うし

強くなりそうな気はしたから

うまくいけばきみも連れ去ろうと

思っていたんだけど

こんなに弱くて逃げてしまうような者では

連れていっても意味がないから

やっぱりここで死んでしまおう。

ね?

きみは弱い。

仲間にとって害悪でしかない。

きみの仲間は可哀想だ。

きみが弱いばかりに…

死んでしまい

攫われてしまい

助けてももらえず

苦しんで

苦しんで

みんな、死んでしまう。

…。

はぁ。

泣いてばかりいないでなんとか言いなよ。」

メルはそう言うとタケゾウの手を取り

中指を曲げてはいけない方向に曲げた。

「ぐぎゃぁあぁああ!!」

「ほら。

死ぬんだよ?いいの?

ねぇ?」

また一本指を折った。

タケゾウは悲鳴をあげる。

「ねぇってば。

なんか再生もできてないしさ。

せっかく守ってもらえたのに。

せっかく助けに来てくれた

人を見捨てて

逃げるチャンスまでもらったのに。」

そしてまた一本

また一本と折り

最後は親指をへし折られた。






「うぐ…じにたくない…じにたくない…。」

タケゾウは泣きながら必死に逃げようとするが

背中から腹部を貫かれ身動きができない。

「嫌だ…じにだくないよ…だれが…だずけで…。」

「そうだね。

これで私達の気持ちも少しはわかってもらえたかな?」

「うぅ…え?」

「私達も死にたくないんだよ。

だから世界を変えなければならない。

そのためには犠牲が必要というだけのことなんだ。

きみも食事をするだろう?

それは命を奪い、自分を維持するための行為だ。

私達がしているのはそれと意味は変わらない。」

メルはそういうと剣を引き抜き

タケゾウを蹴り、仰向けにした。





「嫌だ…やめてぐれ…じにだくない…嫌だ。」

「わからないねきみも。

私達が生きるために死んでくれ。

タケゾウくん。」

メルは剣をタケゾウの腹部にゆっくりと差し込んだ。

「ぎゃぁあぁあああぁああ!!!」

タケゾウからは溢れるように血が流れ出た。

それを見たメルは満面の笑みを浮かべ

タケゾウを見下ろした。






「良い悲鳴だったよ。

この兵士達の分まで苦しんで死んで行くといい。

あ。

君が何者か聞いておけば良かったな…。

まあいいか。

さて、ジョゼも定位置に行ったようだしそろそろいいかな。

ではタケゾウくん、さようなら。」


「マルース…ステラ…ぢきじょう…アレース…

ルーナ…ゼニス…ごめん…みんな…

ぜめで…マルースと…ズデラだけでぼ…。」

タケゾウはキルクルスを使って見たが

微量な魔力しか湧いてこなかった。

その魔力を体内に取り込み再生を行い

剣を引き抜き

マルースとステラのほうへ

フラフラと歩き始めたタケゾウ。

途中、転んでしまい這いつくばりながらも

ようやく二人の元にたどり着いた。





「ぜぇ…ぜぇ…

再生!」

タケゾウはマルースに手をかざし背中の傷を塞いだ。

『魔力が…だりない?か…キルクルス

ダメだ…魔力を感じない…

それでも…』

タケゾウはステラに手を伸ばし背中の傷を塞いだ。





「はぁはぁ…これで…なんとか…。」

『ぢぎじょう…魔力が…枯渇じだのか?

…再生を使いすぎたのか…

嫌だ…じにだくない…嫌だ…キルクルス…』

タケゾウの周りには魔力が霧のように具現化し始めたが

そのまま意識を失ってしまった。






「ぐ!ゼニス!

その化け物なんとかして!!」

「無理言うなよ!!

この兵士達が邪魔すぎる!!」

ルーナとゼニスは

ニチカ、兵士の大群、木の化け物を相手に奮闘していた。





「神一人でも厄介なのになんでこんなに次から次へと!!」

そこに魔族の者達が集結する。

「ルーナ様。

遅くなりました。」

「ほんとよ!!

兵士達をなんとかして!」

「御意!!」

ようやく魔族の者達が集まった頃には

タケゾウ、マルース、ステラは倒れ

アレースは再び敵側に捕まっていた。





「んー。

そろそろ頃合いかも。

じゃニチカ行くねー。」

「んな!?

そうはいかない!!」

「タケちんほっといたら死んじゃうよ?」

「ぐ…ゼニス!!」

「おーよ!!」

ゼニスが勢いよくニチカに殴りかかるが

ニチカは一気に距離を取りその場を離脱した。





「ちっ!!

やっぱ避けやがるか。

時間稼ぎしやがって!」

「そんなこと最初に気付いたでしょ!!

全員撤退して!!

あたしはタケゾウ達の元に向かう!

ゼニスは援護して!」

「わーってるよ!

俺もステラのとこ行きてーしな!!」

ルーナの撤退命令とともに

魔族達は陣形を組み、ルーナ達の退路を切り開く。

追ってきた木の化け物をゼニスが退けた。

見事、全員その場から撤退した。





「タケゾウ!!マルース!!」

「おい!ステラ!!」

二人はタケゾウ達の元にたどり着いた頃には

マルースとステラはしっかりと息があったが

タケゾウは虫の息でいつ死んでもおかしくない状況だった。

「よくも、よくもタケゾウにこんなひどいことを!!!!」

「ルーナ!!そんなこと言ってる場合じゃねーっての!!

早く再生を!!

それにこの場に長居はできねーぞ!!」

「わかってるわよ!!!」

ルーナはタケゾウを担ぎ上げ

再生を行いながらその場を離脱

ゼニスはマルース、ステラを担ぎ上げその後を追った。






「ここまでくれば…

すぐにタケゾウを治療してアレースを連れ戻さないと!!」

「ああ。

わかってる。

あの神をなんとかしないとな…。

ちっ!

全部の魔法をあんなに使いこなすなんて

反則もいいところだろまったく!

思い出しても腹立つわ!」

そう言ってルーナはタケゾウを降ろし

さらに再生を施すが

どうしても傷の治りが遅い。

ゼニスは苛立ちを

石ころにぶつけるように蹴り飛ばした。




そんな蹴り飛ばした石ころの

先を見たゼニス。

「お、おい…嘘だろ…。」

「どうしたのよゼニスこんなときに…!?」

それは空中に雲を割って出現した。





「あ、あれは…天空人…か?」

「わ、わからない。」

その雲を割って現れたのは一つの空飛ぶ島だった。

「な!奴ら飛んでいったぞ!」

会場で生き残った敵の一団が空を飛び、その島の上へと消えていった。





そしておおよそ人の声の音量ではない声が地上に向けて流れ始めた。






「我々は反乱同盟軍『カエルス』

世界を変える者なり。

この理不尽な世界を変える。

今日のこの時をもって我々は世界に宣戦布告する。」





「な!こいつら正気か!」

「そんな…なんだって言うのよ!!

アレースを返しなさい!!」





「これから我々は世界を変える。

この理不尽な世界を変えてみせる。

虐げられている者よ。

ここに集うがいい。

我々はどんな者でも受け入れる。

我々は『カエルス』

世界を変える者なり。』






その演説を終え、島は空に消えていった。






「アレース!!!」

「ぐ…ルーナ!今はこっちの治療を最優先しろ!!」

「うぐ…ひぐ…わがってる!!!

指図じないで!!」

ルーナは涙をこぼさないように

歯をくいしばりながら

タケゾウに再生を施し続けた。

『魔力が…足りない…ひぐ…

タケゾウも…アレースもマルースも…ステラも

誰一人大切な人を守れなかった…

せめて治療だけでも…。』

「王。

変わります。」

そこに魔族の者達が合流した。

「あたじのことはいいがら…ひぐ…二人をお願い!」

「王。

魔力が弱まっています。

今は我々のほうが円滑に魔法を使えます。

休息を。

ここで王に倒れられてはそれこそどうにもならなくなります。」

「ひぐ…ひぐ…もうわかった!!

けど絶対治して!!」

「御意。

命に代えても治します。」

魔族の者達は一斉に再生を始めた。






「これで二人は大丈夫だな。

問題はタケゾウ…か。

アレースのことも…

ルーナ…泣いてないですぐ次の行動に移らないと…」

「うるさい!泣いでない!!

今…考えてる!!」

「お、おお。

悪かった。」






完全な大敗をしてしまったタケゾウ達。

何者かもわからない敵に

なす術が無かった。

そして同胞や神の裏切りによりたくさんの命が失われてしまった。






再生が終わり、城に撤退。

城でも戦いがあった様子が見て取れるほど

人が倒れていた。

そこをサリースが

血にその毛を染め現れた。




「サリース!」

ルーナはサリースに駆け寄った。

「よかった…。

これはお前の血じゃないんだね。

城で戦ったの?」

「ぐお。

ぐおぐおん。」

「そう。

えらいわサリース。

ほんとありがと。」

ルーナは優しくサリースを抱きしめた。

「その犬っころはなんて言ってんだ?」

「男が一人守られて運び込まれて

それを攻撃してきた奴らがいたから

狩った。

その後にまた何人か戻ってきた。

それを攻撃してきた奴らも

狩った。

守っといたぞ。

だってさ。」

「やるなこいつ。」

ゼニスはサリースの頭を撫でた。




城の中では

シレーヌスは一命を取り止めてはいたが

娘が傷つき攫われたショックは大きく

未だ動けずにいた。

また同様に

オウルも失った物が多すぎて

無気力な状態だった。

また避難してきた民達も

皆、言葉無くうなだれ、城には悲壮感が漂っていた。




「ゼニス!」

そこにヘイズがやってきた。

「皆さん…。

早く皆を寝かせましょう!

一刻も早く治療を!」

「わーってるよ!」

ルーナ達はタケゾウ、マルース、ステラをベットに寝かせ

タケゾウには魔族が交代で再生を施した。

だが怪我人はタケゾウの他にもたくさん出ており

ルーナと魔族の者達が代わる代わる再生を施していった。





マルース、ステラが夜に目を覚まし

マルースはアレースが奪われた

という事実を受け止めきれず暴れ出し

ルーナに抑えられその胸で泣き尽くし

ようやく落ち着きを取り戻した。

ステラはまだ体調が優れず

起き上がりはしたがすぐにまた眠ってしまった。






そしてタケゾウは依然として目を覚まさなかった。






読んでいただきありがとうございます。

遅くなり申し訳ありませんでした。

明日から出張があるので2日程投稿が遅れます。

よろしければブックマーク、評価お願いします。

楽しんでいただければ幸いです。

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