異世界の理想と現実
「ううぅ………。」
意識が戻ってきたタケゾウは
うめき声とともに薄らと目を開く。
「うっ…
布団?…
誰かいるのか?」
薄らと開いた視界の先に
一人の人が座っていた。
「気が付いた?」
そこにはつぶらな赤い目
小さい背丈
光輝く頭の
爺さんが座っていた。
「うわっっっ!
誰だあんた!」
「いきなりなんじゃ。
それが助けてくれた者に
言う最初の言葉か。」
驚きを隠せないタケゾウに
爺さんは冷静に言う。
タケゾウは混乱気味に
さらに爺さんにむかって言った。
「というかここは
お約束の可愛い少女とか見知らぬ天井とか
他に色々あっただろ!
おい!
ファンタジー台無しだよ!」
タケゾウもやはり男の子。
想像では不安や恐怖の異世界ではあったが
同時に少しは期待していたようだ。
「お約束?
そんなもんお前さんとはしてないがの?
まあ、とりあえず
気が付いてよかったわい。
変な所に倒れているから
何事かと思ったぞ。
見た所人族のようだが
魔族の国ツキヨミに何か用かの?」
爺さんはほんの少しの警戒心と
多大なる興味を含ませた質問をした。
「はぁはぁはぁぁぁ……。
悪い。
取り乱した。
えーと…。
俺は違う世界から来たんだ。
召喚された影響で意識を失い
倒れていたんだと思う。
信じられない話かもしれないが本当だ。
魔族が何かも知らんし、何の用もない。
俺が行きたいのは人族のいるところだ。
そこに行って
先に召喚された仲間を助けたい。」
タケゾウは素直に答えた。
嘘をついてもバレる気がしたし
危害を加えるなら
わざわざ倒れていたタケゾウを
ベットまで運んで介抱するとは
思えなかったからだ。
そしてそもそも
助けてくれた恩人に嘘をつくのは嫌だった。
「あーっはははははははははははっは。
お前さんアホじゃろ?
しかもかなりの。」
爺さんは盛大に笑った。
「どうやら動けそうなようだし
ちょっとついてこい。」
笑いながら爺さんはそういうと
振り返りドアのある方へ向かう。
「わかった。」
タケゾウも後に続く。
ガッチャ。
爺さんがドアを開け外に出る。
タケゾウも続き外にで出る。
夜だった。
春のような心地よい夜風が
タケゾウの頬を撫でた。
月明かりに照らされる緑が
さらに春のような情景をタケゾウに見せた。
どうやら山の頂上付近のようだ。
上を見ると小高い丘のようなところに
何かが建っている。
下を見ると少し遠くに
見える木々の背が低い。
出て来た建物は少し開けた
草原のようなところに建っていた。
「こっちじゃ。」
爺さんはそういうと
丘を目指し歩き始める。
タケゾウは小さく頷き
ゆっくりと歩を進める。
『なんか体が変だな……。
体の中に…何か感じる。』
体に違和感を感じながら
少し歩くと月明かりに照らされた
何かの像のようなものが見えて来た。
丘の上に到着しタケゾウは驚愕する。
「こ、これって…」
「これか?月の神様の像じゃ。
お前さんはここに倒れておったんじゃ。
違う世界から来たと言っていたの?
もしや神様に連れてきていただいたのかの?」
「あ………ああそうだ。
というよりもこいつが神……
言っていたことは本当だったのか……
あの黒髪ロング……。
というかてっきり爺さんは
俺の話を信じていないのかと思っていたよ。
アホって言われたしな。
待てよ?
じゃ何でアホ呼ばわりされたんだ俺?」
「アホにアホっていうのは当たり前じゃて。
本当のことを見ず知らずの
他人にいうなんぞアホの塊じゃ。
他種族ともなれば尚更な。
信じた理由としては
まずこの場所に人族が来れる可能性が
ほとんどありえない。
ほとんどな。
それにその格好。
こちらの衣服に似ているが
どうも似ているだけで
見たことがない素材を使っているのう。
この世界のものではないように思えたからの。
さらにお前さんはワシの目を見ても恐れなかった。
この赤い目をな。
驚いてはいたようじゃが
恐れはしなかったからのう。
それだけでも信じれたのだが
何よりお前さんが
嘘をついているようには
見えんかった。
お前さんよりも
五百年は長生きしているだろうからな。
見る目はあるつもりじゃて。
あはははは。」
「恩人に嘘をつくのはどうかと思ってさ。
てか爺さん五百年も行きてるのか!
まさか不死なのか?
それとその赤い目には何かあるのか?」
「ふむ。
色々と説明が必要のようじゃな。
よかろう。
まずは今のこの世界についてじゃ……………。」
爺さんは今のこの世界についてタケゾウに話し始めた。
「種族は魔族、龍人族、魚人族、獣人族、天人族、小人族、人族。
元々は魔族、魚人族、人族だったようじゃが
龍人や獣人のなどの数が増え
七つに増えそれぞれ国を持つようになった。
この七種族が大まかなところじゃ。
種族間の友好度は今は良くも悪くもといったとこかの。
人族と魔人族は……まあ今はよいか。
元々昔は全種族間で戦争をしておったから
それを考えれば良いほうではあるのじゃが……。
さて次にこの世界では
魔法というものを使い生活している。
魔法というのは
体内にある魔力と呼ばれる力を使って
火や水などを生み出す力のことじゃ。
魔力は目には見えんが
火や水なんかを生み出すとそれは目に見える。
ちなみに目には見えんが感じることはできる。
一説によると
この世の全てに魔力がある
なんて言う者もおったようじゃが
その辺の草花なんかの魔力は
微量すぎて感じたことはないのう。
まあ、つまりよくわかってない
ということじゃ。
言葉よりも見た方が早いかのう。
試しに見せてやろう。」
爺さんはそういうと
手を広げ手のひらに小さな火を出した。
「これが魔法じゃ。
得意不得意などがあるが
基本的にほとんどの者が全ての魔法を使える。
昔は一種族一つしか使えなかったのだがな。
さて魔法にも種類があり
火魔法、木魔法、水魔法、土魔法、錬金魔法、太陽魔法、月魔法とある。
まあ使えるとは言ったが
先の魔法のように
手のひらほどの大きさしか出せないのが
ほとんどで生活に必要な程度にしか
基本的には使えないのが一般的じゃ。
そしてそのほかに加護というのがある。
この加護とは先の七つの魔法と同じで
火魔法には火の加護といった具合で七つある。
加護はその種族に一つしか与えられん。
龍人族は火魔法特化の火の加護といった具合じゃ。
加護はその種族全員に与えられているが
火を他種族より大きく使えるくらいが一般的じゃ。
修練を積み努力を惜しまなかった者のみが
本当の加護を得ることができる。
火の加護魔法を習得するに至るというとこじゃ。
まあ本当の高みにたどり着いた者は
過去数人しかおらん。
魔法についてはこんなとこじゃ。
あ、そうじゃ。
それ以外にも
魔法のようなものがあるにはある。
なんというかの…
体質のようなものじゃ。
先の話した種族の中にも種類があってな。
魔族なんかは分かりやすく言うと
少数種族の集合体のようなもんじゃ。
この世界なんかでは吸血鬼が有名じゃの。
そしてその体質には
吸血衝動というのがある。
相手の血を吸うと言うものじゃ。
まあ体質と言うのは人それぞれで
使えない者がほとんどじゃ。
ワシらはその体質を持つ者たちを
『体質特異』と言っておる。」
タケゾウは必死に聞いていた。
いきなりのファンタジーに
わかるけどわからないという
そんな言葉がぴったりな心境だ。
それにこの世界に早く順応し
早くみんなと合流しなくてはと思っていた。
「聞いてみたいことがあるんだが良いか?」
「なんじゃ?」
「種族間の友好度が良くも悪くもと言っていたが
魔族、人族を濁して話したということは
悪いの方が当てはまるのか?」
「ふむ。
正解じゃ。
実はの……
半年程前に和平を人族が破り
魔族に攻撃を仕掛けた。」
爺さんは話辛そうにこちらを見て話した。
「何でそんなことを?」
「原因は不明じゃ。
会談の場で起きたことでの。
正確にその物事を知る者は多くない。
人族が言うには王の乱心であり
こちらに敵意はないと言ってはおるが……。
その事件により人族の王
魔族の王が相打ちとなり死んだ。
それ以外にも被害は出ておる…。
さらに会談に出向いた我らの王が
棺での帰還をしたので民も王が殺されたと思っておる。
戦争は今何とか回避しておるが時間の問題じゃろう。」
爺さんは悲しそうに話してくれた。
失った悲しみや怒り
そんな物が見え隠れする表情。
タケゾウは聞いてはいけないことを
聞いてっしまったと少し後悔した。
沈黙のまま家に戻った。
タケゾウは気を取りなおし
話題を変え、魔法の話や習慣や文化について
詳しく聞いた。
意外にも元の世界に共通する点が
結構あるというか
かなりあることに驚いたタケゾウ。
爺さんから悲しい表情も徐々に消え
楽しそうに話す場面もあり
タケゾウはホッと胸を撫で下ろす。
『爺さん元気になったみたいでよかった。
それにこの世界のことも結構わかったな。
地図をざっくり描いてもらったけど
三日月みたいな大陸なんだな。
んでもってここと人族のいるところは
先っぽと逆側の先っぽか。
海を超えるにも確かにかなり大変そうだ。
昔はその先っぽと先っぽを繋ぐように
いびつな丸い大陸があったみたいだけどまさか空に
行ってしまうとは。
さすがファンタジー。
間に残ったのは孤島がいくつかか…
うーん…大陸から行くとかなり遠いが
海に出るよりはマシかな。
しかし曜日や時間が全く一緒なのには驚いたな。
しかもカレンダーに時計まであるなんて…。
うーん。
それと軍隊はわかるが
まさか民間の団体が治安維持もしているとはな。
聞くと警察のような組織みたいだが……
…名前がギルドって……
荒くれ者の集まりかと
思ってたのにな……。
衣服ももっとファンタジー世界風かと
思ってたのに結構見た目はこっちと変わらないんだな…。
ほとんど綿系の素材みたいだけど
麻とかもあるみたいだ。
ジャージは無いみたいだから
着てきたこれは大切にしよう。』
タケゾウの脳内ファンタジー世界のイメージは
徐々に崩壊していった。
少し、ほんの少し、本当に少し
残念そうなタケゾウであった。
「あ、そういえば俺の荷物は無かったか爺さん?」
「倒れていたところには何もなかったのう。」
「そうか。
じゃ色々買わなければならないのか。
そういえばお金という物はあるのか?」
「あるぞい。
仕事をするともらえるようになっておる。」
「なるほど。
じゃとりあえず仕事も探さなきゃならんな。」
「お前さんの目的を考えると
ギルドが良さそうじゃな。」
「治安維持とかすんのか?」
「そうじゃ。
対人相手の依頼もあるが
魔物関連の依頼や
薬を作るためなどの採取系の依頼もある。
そしてギルドは七大陸全てで連携をとっておる。
ただ今は人族が
ここでギルド登録はしないほうがいいじゃろうな。
街には行かんほうがええ。
なーに気にするな。
ここを出て行くまでワシが面倒見てやるぞ。」
「爺さん…何から何まですまん。
手伝えることはなんでも手伝うからこき使ってくれ。」
タケゾウは深々と頭を下げた。
「気にするでない。たくさんこき使ってやるでの。
あーははは。」
爺さんは豪快に笑った。
そんなこんなで
小一時間くらい過ぎて
爺さんは突如間の抜けた声を出す。
「あっ……………まずい。」
「ん?どうした爺さ…」
「孫が来る………………
まっずーーーーーい!」
被せ気味に答えると
いきなり大声で言いあたふたする爺さん。
びっくりしているタケゾウは
何がまずいのかと聞こうとした時…
「隠れるんじゃーーー!
もうそこまで来てるはずじゃ!」
いきなりベットの下に押し込まれるタケゾウ。
きっと人族がいるのが
まずいのではと思い息を潜める。
……………………体感で十分ほど経過したくらいに
痺れを切らしベットの下から這いずり出て言う。
「おい爺さん。
いつまでこうし…………」
ガチャっ。
「「あ」」
「えっ?」
「「「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」」
叫び声と共に部屋の時は止まった…………………………………………………。