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義姉の日記

我に返ったタケゾウは

急いで家に戻る。






「サヤの手掛かりを見つけたよ!

ケンヤさん、サエコさん!」

ドタバタと玄関を開け靴を脱ぐと

走って居間に行く。





「タケ!本当か!」

ケンヤが嬉しそうに振り返る。

「タケちゃん…もう全く!

こんな夜遅くに出歩くなんて!」

少し怒りながら嬉しそうに

サエコも振り返る。

その目には涙が浮かんでいた。

「ごめんサエコさん。

教室には昼間入れそうになかったからさ。

けど見つけたよ手掛かり!

けど未だに信じられないな………。」

「タケ。

俺はお前のことを信じている。

お前も俺たちのことを信じて話してくれ。」

ケンヤが言い終えるとサエコが無言で頷く。








「…わかった。

今日教室に行ったんだけど…

月の光を見ていたら

突然真っ白な変な空間にいたんだ。

そしてそこには

同い年くらいの女の子がいて

みんながどこにいるか

知っていると言っていたんだ。

今日は時間がないから

一週間後また来いって言われた。

なんかその白い空間が

違う世界の入り口って言ってたな。

そういえば覚悟と別れを済ませろよ

的なことも言われた……。」

タケゾウは説明しながら状況を整理して行く。






『違う世界?

覚悟と別れ?

ここじゃない世界があるっていうのか……

ブラックホールの向こう側的なやつか……

しかしどうやってみんなを連れ去った…

光の中に消えたように見えたな…

ワープみたいなことができるっていうのだろうか…

全く理解できない。

それに覚悟と別れなんて

もう二度とこっちに

帰ってこれないようなそんな言い方だった…な…。』

考えをまとめられず唸っていると

「また一人で悩む。

勝手に自己解決しちゃうんだから相談しなさい。

わかった?」

とサエコが怒り気味に言う。







「そうだぞ!

さて違う世界があるようだな。

とりあえず。

別れ、覚悟という単語から

戻れない可能性が

あるみたいだがそこは気にしなくてもいいか。」

とケンヤが真剣な顔で言う。





「なっっ!

よくないだろ!

そしたらサヤは二度と…。」







「バカ言ってんじゃないてのタケ。

行けるなら帰れるだろが!

勝手に一人で諦めんなっての。

そんなん俺がなんとかしてやるし

お前だって

諦めなきゃなんとでも出来んだろ!

お前は俺たちの息子だからな!」

豪快に言うケンヤに

びっくりして思わずキョトンとした顔に

なってしまったタケゾウ。

このケンヤという男の前向き思考は

一体どこからくるのか…。

けれど素直に

見習おうとそう思うタケゾウであった。







一週間後にむけて

色々と作戦を練り

またそれにむけて

鍛錬にもさらに力を入れる。

作戦としては三人で

一週間後乗り込みその少女に頼み

みんなをこっちに送り返してもらうが第一案。

それは話の流れから

ほぼ叶わない可能性があるので

少女がいう違う世界に三人で乗り込んで

全員を救出しようというのが第二案。

どんなことにも対応できるよう

一応男たちは鍛錬をすると決まった。






「うおらああぁああぁぁ」

「甘いなータケは。

角砂糖より甘い。」

さっと柳のようにかわされ

パンっと一太刀くらう。

「角砂糖って…

ちきしょう!まだまだ!」

何度やってもケンヤに

太刀ははいらない。






「はぁ…はぁ…強い…。」

「当たり前だ!

俺は強いからな!

しなやかにして速く、豪腕にして大胆。

それが俺だ。

お前は真っ直ぐ

新幹線ってとこだな。

迷いのない

いい太刀筋だが

柔軟性に欠ける。

力は俺の方が上だ。

だがお前には

俺より速いという武器がある。

だからもっとしなやかに動け。

速くしなやかにな。」






体格がケンヤより

小柄なタケゾウはケンヤより速い。

ケンヤは百八十センチの長身である。

体重もタケゾウより

あるため力は全く敵わないが

速さという点のみ

上回ることができた。

それでも一切攻撃は当たらないが。

「わかった。やってみるよ!」

ケンヤの動きをひたすら目で盗み

体に覚えさせ気づけばもう土曜日。

約束の日まであと二日と迫っていた。







「タケ。

道場に来い。」

夜、ケンヤがタケゾウの部屋に来た。

「どうしたの?

こんな遅くに…?」

「お前に教えておきたいことがあってな…

まあいいから来い」

ケンヤの後をついていき道場にきた。

「タケ。お前に奥義を授ける。」

「えっ………

奥義ってまさかそんな…」

「嘘だ。」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

シリアス感を返せと

言いたくなったタケゾウ。

ものすごく肩の力が抜けた。

キョトンとした顔のタケゾウに

ケンヤが笑いながら言う。






「あーっははははははは。

お前はずっと

肩に力入りすぎなんだよ。

そんなことじゃ大切なもんを

また守れないぞ。」

タケゾウの表情が曇る。

また体に力を入る。







「あーまたか。

そうやって体に力を入れる。

あのなタケ。

悔しいのはわかる。

けどなそんな時こそ力を抜け。

入れる力は打つ時のみに集中しろ。」

そう言って立ち上がるとケンヤは竹刀を持つ。


二人は立ち上がり竹刀を構える。


タケゾウは硬直していた。

少し頭にきたとかそんなことではない。

目の前の男から滲み出る殺意にだ。

死を予感した。

そんな殺意を放つ男の体は

立つということ以外での力みのような物を

一切感じさせない。

まるで樹齢百年以上の大木のようである。

殺意を放つ男が動いたと思ったら

視界から消え、頭に何かの違和感と

あとに風が吹いたのを感じた。







「まー奥義てのはこんな感じよ。

ははははははっはは。

すげーだろ。」

「全く反応できなかった……

すげーやケンヤさん。」

「覚えておけタケ。

怒りも憎しみも悲しみも喜びも

全部お前には強さをくれるがその逆もある。

どんなときも自然体を忘れるな。

基本を昇華した今の一太刀が俺からお前に

渡せるたった一つのうちの奥義だ。

今見て聞いて感じたこと決して忘れるなよ。」

「わかった!ありがとうケンヤさん!」

「おーよ。

じゃ俺は先寝るわ。

また明日なタケ。

おやすみ。」

「おやすみ。ケンヤさん。」

そういうとケンヤは道場をあとにした。






月明かりの中、基本を繰り返すタケゾウ。

忘れぬよう、噛み締めて。






『あと二日か…もっと強くならなきゃな。』

そう自分に言い聞かせると

さらに基本を繰り返した。







日曜日。

朝の修練を終え家族会議をし

ケンヤ、サエコは買い物へ出かけた。

タケゾウは道場へ行き瞑想に時間を費やした。

体に力みが出ないよう自然を意識し集中する。






二人が買い物のから帰宅し

昼食を取り各自思い思い

身支度を開始した。

『仮に違う世界に行くなら

サヤの着替えとかも必要か。』

とサヤのことを思い

サヤの部屋に行く。

ドアを開け意外にも?

女の子らしい部屋に入り

サヤを思いながら荷造りをし始める。

「あいつ姉御肌なくせに

こういうぬいぐるみとか

本当好きだよなー。」

と独り言を言いながら

パーカーやジャージなど

防寒と動きやすさを重視しながら

リュックに詰める。

『下着はさすがにサエコさんに頼むか』と思い

今度は机に目を向けると

一冊のノート?がある。







「ふむ…。」

なんとなく気になり

手に取るとそれは日記帳と書いてあった。

ページをめくる。






「日曜日

今日はタケゾーの試合の日。

気合いをいれて

家族で応援に行ったのだけれど

タケゾー負けちゃった。

あんなに頑張ったのになと

少し残念だけど

相手は歳上。

タケゾーなら次は

ボッコボコなんだからね!






夕方にはタケゾーと

夕飯の買い出しに二人で行った。

タケゾーはハンバーグか

すき焼きがいいっていうから

仕方なく今日は

ハンバーグにすることにした。

ほんと子供なんだから…

帰り道歩いていると

今日の試合負けて悔しいだとか

あーしておけばこうきたらこうとか

すでに次の試合を見据えていた。

夕日に照らされたタケゾーが

子供っぽく男らしく笑った顔が………

あーー…これ以上は恥ずかしい。

明日もタケゾーのおねーさんしなきゃな。

けどこんな気持ちになるなら

タケゾーのおねーさんになんて

なりたくなかったな……。」







「…………………………………………。」









見なかったことにしようと

すぐ閉じたタケゾウ。

頬は赤くなっており

変な汗をかいている。

心臓がうるさいのがわかる。

「明確に書いていたわけではない。

もしかしたらウザくて

嫌いだからおねーさんしたくない

ということもあり得る。

うん。

あり得る。」






文脈的にありえないことくらい

タケゾウもわかってはいる。

が現実的には義理の姉である。

…義理の…義理。






異様な動悸息切れのため

部屋から離脱した

タケゾウにサエコが声をかける。

「あら?

サヤの分も荷造りしてくれたの?

優しい弟ねタケちゃんは」

「んん!そうそう…

俺は優しい弟だからね!

そう弟なんです俺!

あははははは」

タケゾウは顔にすぐ出てしまう。

そんな性格から

すぐに何かあったと察したサエコ。

「もしかして下着も詰めたから

少し興奮してるのタケちゃん?

全くもう。

青春してるわねタケちゃん。」

「いや何も見てない触ってない。

あとはサエコさんに任せたよ。

じゃ道場行ってきます。」

タケゾウは逃げるように道場に向かった。

部屋に入るとサエコは

「あーこういうことね…

あの子まだ気づいてなかったのね…

ふふふ。」

と一人笑みを浮かべた。

サエコは色々気づいている上で

それについてサヤに

何か言ったことはない。

それはサヤが決めることなのだと

思っているからである。

寛容な親である。







「集中…集中…」

タケゾウは道場で瞑想を始めた。








「しゅーちゅーっしゅーちゅーっしゅーちゅー…。」








全く集中できていないタケゾウであった。







夕食後部屋に戻り

タケゾウは違う世界というものを考えてみた。

「違う世界か…

漫画みたいな話だな…

確かにそういう話は好きだけど

実際今から行きますよとなってもな…

やっぱり魔物とかいるのかな…

サヤ、ハル、みんな…無事でいてくれ…。」






そんな考えを巡らせながら

気づけば眠ってしまったタケゾウ。

連日の辛い修練

気の抜けない状況でかなり疲弊していたようだ。






そんな日曜日が静かに過ぎ去っていった。

今夜も月は綺麗に輝いていた。

その月明かりがタケゾウに柔らかに降り注ぐ。









見ているよというかのように。



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