プロローグ
新学期が始まって約一週間。
場所は学園内のメインアリーナ。
「身分の違いを教えてやろう」
目の間に立っているのは無駄にプライドの高そうな男子生徒。
どこのボンボンかは知らないが、余裕綽々の様子。
『いいですか。決して能力を使ってはいけませんよ』
試合前に口うるさい監視役に言われた言葉を思い出す。
その他にもこいつのことを言っていた気がするが、あんまり覚えていない。
「そいつは楽しみだ」
試合開始前のカウントダウンが始まる。
私はその様子を会場を埋め尽くギャラリーに交じり見ていた。
突如として決まった模擬戦の対戦カードは初等部から有名な高ランカー〈藤堂 陸斗〉と今年入ってきた編入生〈黛 終夜〉。
編入生の実力を知らないほとんどの者は藤堂が勝つと思っている。
本当なら止めるべき試合だが、VIP席で観戦している学園長の指示でこういう結果になった。
不満なんてなく、むしろこの目で彼の実力を見れるのはいい機会だと思っている。
試合開始のカウントダウン。
藤堂はいつも通り金色のブレスレットから愛用する槍を取り出し構える。
一方、編入生のほうは何も取りださず、構えもせず、始まるのを待っていた。
一見、やる気が感じられないように思えるが、殺意にも似た闘志を内に秘めている。
それを感じ取った極少数の者は興味津々。
中でもこの学園の生徒で最も厄介な人も興味を示しているのは今後のことを考えると頭が痛い。
「…黛さん」
隣でこの試合の発端となった〈星野 千歳〉が目を瞑り、懸命に祈りを捧げる。
そんなことをしなくても彼は負けない。
例え、この島の名立たる異能者が束になっても敵わない。
それどころか、全世界の異能者が相手にしても全く歯が立たない可能性すらある。
とは、さすがに言えず、私は静かに見ていた。