やっぱりあいつは…
「…お前、それ何?」
ビルとビルの、小さな小道。裕也が1人通れる位の道に、今度は大きなホラ貝が落ちていた。
「ゆ、裕也ぁぁぁぁぁぁっっ!助けて下さいぃぃぃぃぃっ」
いつもの日課である、海哉の餌…飯やりをしようと来たら、こたつは無かった。その代わりに、見たことのない大きなホラ貝が一つ、ビルの小道に挟まっていたのである。
「助けてくれって…またそっから出たいのか?」
「ち、違うんですぅっ!じ、実は、大切な私のお家が誰かに奪われてしまったんですっ」
涙目で訴えてくる、大ホラ貝の海哉。そして何故か見えない、貝の中。裕也の興味は、今やこたつのことではなくその中の構造に移っていた。
「…なぁ、お前の体って、どうなってんだ?」
「そうです、私の体は…って、今はそんな話してません!聞いてましたか!?私の話!!」
一生懸命話していた海哉を遮った裕也。それに怒った海哉は両手で地面をバンバン叩き、アホ毛は力強く揺れた。
海哉の話をまとめると、こたつの中で寝ていて、朝起きて顔を出したらホラ貝だった、ということだ。
「待てよ。なんでこたつの中で寝てんのに、取られてんの?そして何故それに気づかない!?」
「私のこたつは特殊なんですぅっ!…もし取り返してくれたら、中を見せてあげてもいいですよ~?」
何かを思いついた顔をした海哉は、裕也に交渉を持ちかける。髪をクルクルと指に巻き付け、ニヤニヤしながら海哉は話す。
「言ったな?見つけてやるよ、その犯人。」
「ゆ、裕也!い、痛いです…」
いつもより強く揺れるアホ毛を鷲掴み、にやりと笑って裕也は言い放った。やはり立場は海哉より裕也の方が強いらしい。
そして裕也は、大きなホラ貝を残し、人混みに消えていった。
「今日も暑いな…」
見上げる空には、雲1つない。あぁ、こんな日はエアコンの効いた自室で読書とゲームに耽りたい…
「とりあえず、探さないとな…」
ため息1つこぼし、頭の中の理想を首を振って追い出す。そして裕也は、目的の扉を開いた。
「もぉーいーくつねーるーとぉー…」
「何が来るっていうんだ?あ゛?」
「嫌ぁぁぁぁ!…って裕也?」
不機嫌そうな裕也が、目の前にいる。大きな段ボールを持って。
「そ、それはっ!」
「お目当てのものだ」
目をキラキラとした海哉は裕也から段ボールを受け取ると、ホラ貝の中に引っ込んでいった。
「…はぁ!?ホラ貝の中に入った、だと!?」
海哉がいなくなったホラ貝の入り口は、異様な雰囲気を放っている。入るはずのないこたつの段ボールが吸い込まれるように入ってしまった事実。さらに海哉まで中に入っているということは、それなりの広さのはずだ。
裕也は、生唾を飲み込むとホラ貝に手を伸ばす。そのときだった。突然ホラ貝が揺れ始めた。思わず伸ばしかけていた手をひっこめ、様子をうかがう。
「…は?う、うそだろ…」
裕也は目の前で起きている事実についていけなかった。いや、誰もが驚くだろう。ホラ貝が吹っ飛び、見慣れたこたつが顔を出したのだから。
「やっぱり、おこたが一番ですぅ~♪ありがとです!裕也」
「あ、あぁ…」
驚かされるのは毎度のことながら、やはりびっくりしてしまう。いつだってそうだった。海哉に常識は通用しない。改めて思い知らされた裕也であった。