第三章第二節
棺が運び出されるのを見届けた後、帰ろうと踵を返した、その時ーー。
「あら。帰っちゃうの?」
後ろから聞き覚えのある声がした。
ゆっくりと振り返れば、シンプルな喪服に身を包んだ少女リデアの姿があった。
「お前、何でここに……?」
僕の問いかけにリデアはくすりと笑った。
「葬式よ。あの子、私と同室だったのよ。少しは仲が良かったから、お別れくらいしようと思って」
彼女は僕の隣まで近付く。
僕は彼女から目が離せずにいた。
「ねぇ? 少し病院まで着いてきてくれないかしら? 話をしましょう?」
リデアは愛らしく微笑んだ。
僕は断ることも出来た。
それなのに、そうしなかった。
何故か、彼女から目が離せなかったんだーー。
* * * * *
リデアは話をしようと言った割には、鼻歌を歌いながら歩くだけで、何も話さなかった。
僕の前をご機嫌そうに歩く彼女にイライラが募る。
仲が良かった人間が死んだっていうのに、何故そんなに陽気なんだ?
「お前、何とも思わないのか?」
僕がそう尋ねると、
「何が?」
彼女は、こちらを振り返りもせずにそう聞き返す。
その態度にますます苛立ちが募る。
「……っ。仲が良かったやつが死んだんだろ! 何か思わないのかよ……」
何で……?
死んだらもう二度と会えないんだぞ。
寂しくないのか?
悲しくないのか?
仲良かったんだろ?
友達だったんじゃないのか?
頭の中でぐるぐると感情が回る。
「私は悲しくないわ」
リデアは急に立ち止まってそう言った。
急に立ち止まったので、危うくぶつかりそうになる。
「皆いつかは死ぬもの。それが早いか遅いかそれだけの違いよ」
淡々とそう言って、彼女は再び歩き出した。
慌ててその後を追いながらも、僕にはリデアの言うことが理解出来なかった。
いつか死ぬから悲しくないのか?
その気持ちが僕には理屈出来ない。
「……死んだらもう会えないだろ」
たとえ、いつか死んで会えなくなるのだとしても、それが早くきたら悲しい。
早くきた分だけ一緒にいれる時間は短くなる。
それはとても寂しい。
少なくとも僕はそう思う。
「ねぇ、聞いて」
彼女は突然振り返ってそう言う。
そして、そのまま後ろ向きに歩きながら話す。
「この世界は死に満ちているのよ。今こうして私達が話しているこの瞬間にも、何処かで誰かが死んでいるわ」
リデアは真っ直ぐに僕の瞳を見つめていた。
灰色の瞳が僕を捉えて離さない。
「けれどね」
リデアは立ち止まり、両手を広げる。
僕もそれと同時に立ち止まる。
「この世界はそれと同時に生も満ちているのよ」
そう言って笑うリデア。
「どういう意味……?」
彼女の言っていることは正直意味不明だ。
僕の問いかけに彼女は柔らかな微笑みを浮かべて、つまりこういうこと、と説明する。
「何処かで誰かが死んでも、また別の何処かで新しい命が生まれる。彼女は死んでしまったけれど、また別の何処かで新しく生まれ変わるのよ。そうして、世界は回っていくの」
だから、悲しくないと彼女は続けた。
「これから生まれ変わって、この世界の何処かで彼女は生きている。消えてしまったわけではないから、それでいいのよ」
彼女は踵を返しまた歩き出した。
その後を追いながら、僕は思った。
やはり、僕にはリデアの気持ちが分からない。
生まれ変わりだとか、この世界の何処かにいるとか、そういうのを僕は信じられなかった。
やはり、人が死んだら悲しい。
仮に生まれ変わりがあったとしても、その人と同じ人物なわけじゃないだろう。
その人が死んだらもう二度と会えないんだ。




