第三章第一節
重々しく鈍い、けれどよく響く音がした。
辺りに響き渡る荘厳な音。
鐘の音だーー。
ゆっくりと僕は瞼を開いた。
僕はスラム街の空き家を寝床にしている。
ドアなんて立派なものはなく、窓も割れている。
冬場は寒くて、とても寝ていられないが夏場は涼しくて、雨を凌げる分外よりは快適だ。
スラム街じゃ、不法侵入だ、なんて訴えられることもない。
家具なんてものは、当然のようにないから寝るのは床だ。その為朝はあちこち痛むが、それも慣れればどうってことない。
普段は起きてると腹が減るから、昼過ぎまで寝ているのだが、今日は目が覚めてしまった。
それもこれもあの忌々しい教会の鐘のせいだ。
滅多に鳴ることはないが、たまに鳴ったときはその音のせいでとても寝ていられない。
仕方なく起き上がり、身支度をする。
といっても、寝癖を手櫛で直す程度だが。
教会は僕が寝床としている空き家の裏側にある。
そこがスラムと街の境界線にもなっている。
僕は家を出て、街に行く為に歩き出した。
まっすぐに教会を目指す。
教会の鐘が鳴るのは、結婚式か葬式のどちらかだけだ。
どちらも見てて楽しいものでもない。
それでも僕は教会に向けて歩き出した。
* * * * *
行われていたの葬式だった。
皆黒い衣装に身を包み、静かに死者を送り出す。
僕が教会に着いた時にはもう棺が運び出されるところだった。
黒い服を来た男達の手によって小さな黒い棺が運び出される。
その棺の大きさと簡素な様を見てどんな人間が死んだのか察した。
小さな棺なのは子供が死んだから。
簡素なのは、裕福な家庭ではないから。
これが貴族の棺となれば、もっと立派で、いかにも高級そうなものになる。
そんなことを考えていてふと、思い出したのは先日会った少女のこと。
もうすぐ死ぬと言っていた少女。
皆に忘れ去られて死んでいく自分は惨めだと言った。
彼女よりもきっと自分達のほうが惨めだ。
寒さと飢えに地面での垂れ死ぬ。
誰も葬儀なんてしてくれない。
運が良ければ、土に埋めてもらえる。
悪ければ、野良犬に食われて終わりだ。
彼女のほうがずっと恵まれている。
それなのに、なんで僕は彼女の言葉を否定出来なかったのだろう。
お前は恵まれているって言うことが出来なかったのだろう。
そんな疑問が頭の中に渦巻いていた。




