第二章第二節
遅くなりました。
色々と詰まってきましたが、とりあえず話を進めてみようと思います。
僕は少女を睨んだ。
僕は羨ましいんだ。
この少女がーー。
自由気ままに生きているこの少女が。
羨ましいんだ。
「なんだ。そんなことを気にしていたの」
そんなことって何だよ!
僕が再び口を開こうとする、その前に少女は言った。
「安心してよ。惨めなのは私のほうだわ」
自らを嘲るように言った少女。
僕は少女の言葉の意味が分からない。
「私、もうすぐ死ぬの」
え?
今、なんて?
ワタシ、モウスグシヌノ。
死?
目の前にいる少女が死ぬのか?
「私、病気なの。医者にも長くないって言われてるわ」
僕の混乱をよそに少女は続けた。
「家族も、もう私のこと諦めてるの。だから見舞いにも来ないわ」
少女は僕に背を向けた。
「愛想つかされたのね。きっと」
そう言う少女の顔は僕には見えない。
死ぬ……。
それは惨めだろうか?
僕らの死は、惨めだ。
道端に捨てられたゴミのように死んでいく。
じゃあ、今目の前にいる少女の死はどうだろうか?
「私が死んでも、悲しむ人はもういないわ。みんな、笑顔の下で早く死ねばいいのにって思ってるの」
「でも、あんたは墓を作ってもらえるだろ……?葬式だってしてもらえーー」
僕らは墓なんて作っては貰えない、そう思って言った僕の言葉遮られた。
「そんなものに何の意味があるの!?」
振り返った少女の顔は歪んでいた。
「墓があってそれが何? 葬式をしてもらえるからってそれが一体何になるっていうの?」
叫ぶ少女。
「無機質な部屋に一日中閉じ込められて、私の身体、日毎に痩せ細っていってるわ。毎日血へどを吐いて、薬をいくつも飲まされて生きることも出来ないのに、死ぬことも許されなくて……。誰も、誰も私のこと覚えてないわ……」
少女は震えていた。
少女の言うことは贅沢な悩みとも言えた。
僕たちは毎日生きるのに必死で今日食べられないことは、明日の死に繋がるかもしれなかった。
病気でも治療を受けられない奴はいくらでもいる。温かいベットと満足な治療と食事を与えられるだけマシとも言えた。
それでも、僕には少女の言葉を否定することが出来なかった。
「誰も私に生きてほしいなんて、望んでいないのにみっともなく生にしがみついて、死に怯えて……」
少女はその場に座り込む。
彼女の体は目に見えるほど震えていた。
震えを押さえつけるように、自らの身体を抱き締める少女ーー。
僕には目の前で死に怯える少女にかける言葉を持っていなかった。
こんなとき、何て言葉をかければいい?
僕が戸惑っていると、少女の肩が震えた。
「くすっ」
微かに笑い声が聞こえた。
?
まさか!?
少女は顔を上げ、僕を見る。
その顔には小悪魔のような笑みが浮かんでいた。
この女。
「ふふ。うふふ。あははは」
少女は声をあげて笑い出す。
「あはは!!」
お腹を抱えて笑う少女に僕は唖然とする。
「あー、おっかしい」
少女は笑いすぎで出た目尻の涙を拭う。
「こんなに簡単に信じてくれるとは思わなかったわ」
「お前、今の……! 全部!?」
僕は驚き半分怒り半分で問う。
少女は軽やかに立ち上がる。
「そうよ。何か?」
詫びれもせずに言った。
「ふっ、ふざけるな!」
僕は怒鳴った。
しかし、少女は我関せずという様子で鼻歌を歌っている。
この女……。
僕は無言でその場を離れようとする。
「あら? 帰るの? ロケットはいいの?」
少女は可笑しくて堪らないという顔で言う。
「そんなに欲しいならやるよ!」
僕は半ばやけくそで言う。
二度とこんなとこ来るもんか。
そう固く心に誓った。
誤字脱字があればお願いします。




