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灰色の瞳  作者: 柊 響華
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第二章 第一節

大変遅くなりまして申し訳ありません(汗)

楽しんで頂ければ幸いです!

 結局、僕はまたあの木の下に翌日も行くことになった。


 何故って?


 そんなの決まってる。


 凄く分かりやすいこと。






 僕はあそこに忘れ物をした。






 * * * * *





 僕がそこに行くとリデアと名乗った少女はいなかった。

 僕はいなかったことにホッとしつつも、心の奥底どこかでガッカリしている自分がいることに驚いた。

 僕は一体何を期待してたんだ。

 あの女が他の金持ちどもとは違うとでも思ったのか。

 馬鹿馬鹿しい。

 そんなわけないだろ。

 僕は余計な考えを振り払って、探し物を始めた。

 やけにうるさく蝉が鳴いていたーー。

















 見つからないーー。




 徐々に蝉の声が遠くなっていく気がした。

 僕は、体が外は燃えるように暑いのに芯のほうは氷のように冷えていく気がしていた。




 見つからないーー。





 探しても探しても、それは見つからなかった。

 なんで?

 確かにここに来るまでは持ってたはず。

 ここ以外に落とした場所なんて思い当たらない。

 そう思って僕は探すが、全く見つからない。

 ただただ時間ばかりが過ぎていく──。



「くそっ!」


 僕は思わず毒づく。

 額からは汗が流れた。

 本当は昨日のうちに、落としたことに気付いてた。

 他の場所はもうすでに昨日探していた。

 他の場所では見つからなかった。

 昨日すぐ、ここに来なかったのはあいつと会ってしまったら──と思ったからだ。

 今日来るならどっちにしろ一緒だったかもしれない。


 だったら、昨日のうちに来て探せば良かった。

 きっと、もう誰かに拾われてしまったのだろう──。



「何を溜め息ついているのかしら」


 僕が落ち込んでいると背後からあの少女の声がした。

 振り返ると、少女は今日は白い襟のついた薄い黄色のワンピースを来ていた。

 襟元には昨日と同じ青のリボンをしている。

「お前。いつの間に──」

 来たんだ──。

 僕がそう言う前に少女は言った。

「ついさっきよ。何か探し物?」

 少女のその言葉に僕はそっぽを向く。


「別にお前に関係ないだろ」


 すると、少女は少しムッとした顔をした。

「関係ない。嫌な言葉ね。私、その言葉嫌いって昨日も言ったわ」

 僕はその言葉に少しイラッとした。

 だから、何だって言うんだ。

 お前の言うことを聞いてやる必要はないだろう。


 僕が黙っていると、少女はポケットから何かを取り出した。

「あら、そうやって無視してていいのかしら。これ、てっきり私はあなたの物かと思ったのに」

 その言葉にチラリと少女の方を見る。

 すると──。



「! ?」


 少女がそう言って自分の顔の前に掲げていたのは、僕が探していたものだった。

 首飾りの形をした銀色のロケット。

 僕の、

 母の形見──。



「それ、どこで……」

 僕がそう言うと、少女は軽く首を傾げて言う。

「昨日、あなたが帰ったあとで見つけたのよ。ちょうど、今あなたが座ってる場所に落ちてたわ」


 やっぱりここに落としてたのか。

 僕は少女に向かって手を差し出す。

 少女はますます首を傾げる。



「返せ」


 僕は端的に言う。


「嫌よ」


 すると、少女もまた端的に答えた。

 僕は眉間に皺が自然と寄るのを感じた。

「返せよ。それは僕のだ」

 少女はロケットを自分の背後に隠す。

 蝉がやかましいくらいに鳴いていた──。


「嫌よ。返したらあなた、もうここには来ないでしょ」


 無表情に少女は言った。

 はぁ?

 この女は一体何を言ってるんだ。

「当たり前だろ。いいから、返せって」

 僕はロケットを奪おうと少女に手を伸ばす。

 すると──。



「嫌よ!!」



 突然少女は叫んだ。

「 だったら返さない」

 そしてキッと僕のことを睨む。

 その瞳には強い意志があった。

 人を圧倒する何か──。


 僕は少女に気圧されて、彼女に伸ばした手をおろす。

 少女は僕を睨んでいる。

 僕はその視線に耐えられなくなって目をそらす。

「……」

 一瞬にしてその場は沈黙につつまれた。

 やけにうるさく蝉が鳴く。




「何で……」


 僕は少女に向かって言う。

「何で、僕なんだ。別に来なくたってあんたは困らないだろ」

 僕は呟くように言った。


 少女は睨むのをやめて、首を傾げる。

「どうして、そう思うの?」

 少女は本当に不思議そうな顔をした。



「どうしてって、僕とあんたは昨日知り合ったばっかりの他人だろ。あんたは金持ちで僕は貧乏人。立場も違うんだ」

 僕は弱冠イラつきながら言った。


「私は何もあなたに結婚してくれって言っているわけじゃないのよ。私は話し相手になってほしいの。それに、立場も何もないと思うわ。大事なのは自分が相手をどう思うかよ」

 遠くのほうで蝉が鳴く声がした。

 なんでそんなふうに言えるんだ?


「あんたは、立場なんか気にしなくても僕が気にする。世の中はそんな人間ばかりじゃない。お前が何も思わなくたって! 僕は……。僕たちは……。いつだってあんたらより劣ってるんだ」

 必死に声を抑えた。


 僕らは虐げられて生きている。

 虐げるものたちはそんなことに気付きもしないで、のうのうと人生を謳歌する。


「そんな言葉はあんたが金持ちの令嬢だから言えるんだ。僕らはくそみたいな場所でくそみたいな暮らしをしてる。そんな僕らの気持ちがお前に分かるか?」

 僕は吐き捨てるように、半分泣きそうになりながら言った。

 こんなことで泣きそうになるなんて、自分でも情けないし、何で泣きそうになってるのかよく分からない。

「何を言ってるのか、よく分からないわ。どう意味なの? あなたと話すことと何の関係があるの?」

 少女は本当に分からないという様子で困惑していた。

 僕はその様子にもどかしさを感じる。


「僕が言ってるのは、お前は僕に惨めな思いをしろって言ってるのか! 」

 なんで、僕はこんなにももどかしさを感じているんだろう。

「お前と僕の暮らしは天と地ほども違う。お前の恵まれた生活と自分の暮らしを比べて惨めな思いをしてろって言うのかっていってるんだ!」

 どうして、僕はこんなにも叫んでいるんだろう。

 頭の中が真っ白だ。

 少女はポカンとして固まっている。


誤字脱字があればお願いいたします!

次も投稿は遅いとは思いますが……

気長にお待ち下さい。

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