主任がゆく(千文字お題小説)PART2
お借りしたお題は「営業」「はっぴ」「乳酸菌」です。
松子は唐揚げ専門店に勤務する三十路目前の女である。
顎割れ芸人とノリが一緒の店長に言われて、大阪に長期出張になった。
滞在先はホテルではなく、ウイークリーマンションだと聞き、
(自炊?)
早くも先が思いやられてしまう松子である。
「最近のウイークリーマンションは一式全部揃っているから、便利なのよ」
何故かそんな事にも詳しい親友の光子。
(光子は何でも知っている)
思わず某有名私立探偵の口癖を真似てしまう松子である。
新大阪に新幹線が着いた。喉の渇きを乳酸菌飲料(ヤ○ルト)で潤して階段を駆け上がった。
改札を通り抜けると、
「足立松子さんですね? 私、新規開拓部の住之江博己と言います」
絵に描いたような男前が声をかけて来た。
「あ、足立松子です。よろよろ……」
完全に油断していたため、人生で一番動揺してしまった。
住之江は最初に松子をマンションに連れて行った。
新築らしく、塗装の臭いが残っている。
(苦手だわ、この臭い)
松子は思わず顔をしかめた。すると、
「先月完成したばかりの建物なんです。いい匂いがするでしょう?」
住之江が爽やかな笑顔で言ったので、
「そうですね」
臆面もなく嘘を吐く松子である。
部屋に案内された松子は調度品の充実振りに、
(このままここに住むのも悪くない)
そんな妄想をしてしまった。
そして、荷物を置き、ルームキーを受け取ると、今度は大阪一号店となる店舗に連れて行かれた。
そこは繁華街で、たこ焼き屋やお好み焼き屋など大阪を代表する店が軒を連ねていた。
(こんなところでうまくいくのかしら?)
不安になる松子である。すると住之江が、
「足立さんは今までどおり、唐揚げを揚げてくださるだけで結構です。集客と接客等の営業活動は全て私達がしますので」
店の奥からどっきりかと思うようなイケメン三人が「唐揚げ」と襟に書かれたハッピを着て現れた。松子は唖然としてしまった。
「よろしくお願いします、主任」
三人は声を揃えてお辞儀をした。
「あ、あ、こちらこそよろしくお願いします」
松子は顔が火照るのを感じて焦った。
「三人共、接客に関してはプロですが、唐揚げに関しては足立さんに遠く及びませんので、ビシビシしごいてください」
住之江の言葉に顔を引きつらせる松子である。
(イケメンパラダイス……)
光子なら襲いかかっていると思った。
「主任のようにうまい唐揚げを上げられるようになりたいです」
三人の真剣な眼差しに松子は感動した。
これは一体?(ムフフ)