未来の王妃は元男装兵、今度は隣国で留学生として――周りが過保護で平穏とは無縁です
「なんだ、リン。緊張してる?」
「……ジニア、僕たち、留学生なんだよね。作意を感じるのは気のせいかな!?」
昨日、グラシオラスに入国し、アカデミーの入寮手続きを終えた――と、言ってもリンが書いたのはサインくらいだ。
そして今日、通された教室では昨日別れたはずのジニアと再会をした。
「護衛なんだから、同じクラスは当然ね。オーヒサマったら、顔が真っ赤で可愛い~!」
「ベラ! それ、禁句って言ったよ!」
リンの頬をツンツンとつついて、ピンクのツインテールを揺らしたベラが笑う。
肩につかないグレーの髪が大きく翻るほどに振り向き、リンはベラの肩を掴んで凄む。
「ライラ陛下から、特に口止めはされてないよ?」
「まだ入籍してないから! 婚約もしてないから! いい!? 僕、ここでは普通の女の子するんだから!」
卒業するまで待って欲しい――そう言って、リンはアスフォデルの国から送り出してもらったのだ。
仮だとして、それを笠に着る気は微塵もない。
「ハハ。お前、今度は性別じゃなくて身分偽んのかよ」
「だから、僕はただの留学生なの、まだ!!」
「僕呼びが直ってねぇ時点で、無理だって」
アスフォデルの国で一兵士に志願するために、少年に偽ったことを持ち出される。ジニアは、その時の寮の同室だった。
今回はキチンと、女子生徒として留学している。二人一部屋の同室は、ベラだ。
「全員席に着け――? 今年は色々あって、入学者が多くてな。臨時講師を呼んでいる。紹介するぞ」
「紹介された臨時講師を務めるライラだ。よろしく」
「――――――っ!?!?!?」
教室に現れたのは、スラリとした長身の淡紫の髪に金の瞳の青年。一週間前に別れたアスフォデル国、ライラック・アスフォデル陛下その人だった。
リンは驚愕して、口をパクパクと開閉させる。パチリと目が合うと、金の瞳が優しく細められた。
「まぁ! 今こっちを向いて笑ったんじゃない?」
「くっ、笑顔が眩しいっ!」
「先生! 彼女居ますかぁ!?」
女子生徒が、きゃあきゃあと色めき立っていた。その反応を見るに、隣国の王だとは誰も気づいていないようだ。
更には男子生徒が、からかうようにライラックへ質問を投げる。
「居るな、そ――」
「――っ!!」
ブワッ!
――何を、言おうとしてるんだよ!!
顔を真っ赤にしたリンが、ライラックを睨みつけ、魔法で風を起こした。
対して爽やかな笑顔で風を凪ぐと、彼は言葉を続けた。
「彼女は居る。が、これ以上はアカデミーらしく、私に勝てた者にだけ裁決権をあげよう。
今年は隣国アスフォデルから、魔法使いが留学生として入学しているな。国として言葉は違うが、加護使いの加護と扱える力は同じだ。皆、切磋琢磨するように」
「ライラ先生?」
「いや、自己紹介を兼ねて、それぞれの能力の披露だ。室内で教鞭を振るうだけではな。何、悪くない催しだろう、先生?」
クラスの担任が、ライラックへ進言するが押し切られていた。なんとも不憫なことだ。
――知見を広げるための、僕の留学が。
がくりと項垂れるリンの横で、なぜかベラが嬉しそうにニコニコと笑っていた。ジニアがそれに、訝しげに思って問う。
「え? だって、ライラ陛下と手合わせだよ。ルールなんだろう? 勝てたら、何をお願いしようかなぁ?」
「げぇ……、マジか。え、勝つ気でいるの、ベラ先輩」
ジニアが、苦虫を噛み潰したように嫌そうな顔をする。リンの昔馴染みという理由だけで護衛に抜擢された彼は、能力など持ち合わせて居ないからだ。
対してベラは、ライラックが集めた魔法使いの組織、ナイツの所属である。
「そりゃ、本気なら負けるよ。でも、ルール上なら分かんないよねぇ」
「……お願、い?」
「そだよぉ、リンチャンもお願いあるなら、頑張って見たら?」
無邪気に笑うベラは、ふわりと揺れるピンクの髪も相まって嘘をついているようには見えない。
「……それは、どんなお願いでも?」
「ん――。今まで、ナイツであったのはぁ」
非番の夕食に、デザートをつけて欲しい。
高難度モンスターと戦いたい。
ライラックとチェスがしたい。
人助けで褒められたい。
休みが欲しい。
ボーナスが欲しい。
報告書を書きたくない。
「たくさんあって、分かんないなぁ……」
指折り数えていたベラが、ぷくぅと頬を膨らませていた。なんとも混沌とした内容の数々だ。
「なら、私も――」
隣国とはいえ、国王と親交があるなどとバレれば面倒なことになる。さらに、臨時講師と留学生の関係ではなおさらだろう。
――ライラの帰国ないし、関係の秘匿を認めさせる。
リンは、そう決意した。その横で、ジニアがチラリ、チラリと、リンを見つめるライラックと、考え込むリンを交互に見ていた。
「……普通にお願いすれば、聞きそうじゃねって思うの、俺だけなの?」
「ジニア、余計なこと言わな~い。面白そうだから、ね。それに私、嘘言ってないもん。ふふふ~ん」
にまにまと笑うベラは、とても楽しそうだ。ジニアは、さらにドン引きしている。
「……はぁ、ベラ先輩でしょ。デザート」
「あ、分かる~?」
「だいたい人の心理って、そういうモノだから……」
教室内で、各々が話している中、担任と話をつけたライラックが指をパチンと鳴らす。
高い音が響き、あっという間に静かになった。
「――さて、すまないが、全員を相手にする時間はないから、希望者を先着で募ろうか」
「はいっ!」
「わぁお。さすがリン」
ライラックの言葉に、兵士時代の名残でリンが一番に挙手する。口をへの字に引き結び、俄然ヤル気満々だ。
「リア、勝ったら何を? そんなに私の愛する人を聞きたいか?」
「結構です!! 勝ってから言いますから!」
ライラックからのまさかの返しに、リンは顔を真っ赤にして答えた。
――愛称、呼ぶなぁぁあ!!
亡国の伯爵令嬢カメリア・ジェンティアンとして、留学したのでは断じてない。
アスフォデル国出身の孤児――ただのリンとして、国の比護の元に留学をしに来たのだ。
――全員が全員、出国前にした約束を反故にするんじゃない!!
処刑回避のため家出した令嬢は、男装騎士として運命をやり直す
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の、後日談に該当する短編です。本編はシリアスです
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