カエル王子
ーー――これは、あなたが知っているようで知らないおとぎ話。
ひょんな理由から、ランプの精霊のジンをお供に、料理修行に旅立った木こりの娘アンは、近くに綺麗な川が流れる小さなお城を見つけました。
「可愛いお城だね」
「小さいな……」
アンは川のほとりで、腰を下ろして休憩しました。ランプの中から声がします。
「やっぱ、一人旅とか無理じゃないか?」
「一人じゃないでしょ。ジンがいるでしょ? 私の身に何かあったら、ジンも危険だからね。お願いしなくても、助けてくれるでしょう?」
「お前、それを狙ったな……?」
「ねえ、もし願い事を叶え終えたら、ジンはどうするの?」
「ランプを他の人に渡してもらう。そしたら、俺はまた次の人に願い事を叶える。だから、良い人に渡してくれよ」
「わかった」
アンは頷きました。
「ちょっと、そこの娘さん」
突然、足元から声が聞こえ、見ると一匹のカエルがいました。
「……ジン、カエルがいるよ」
「地域によっては、カエルを食べるところもあるらしい」
「カエルを? ……。今度やってみようかな」
「物騒なことを言わないでくれませんか?」
カエルは慌てて言いました。
アンは、カエルを見下ろします。
「私に、何か用?」
「カエルが喋ってもあまり驚かないんですね?」
「ランプの精がいるくらいだし……。それで、どうしたの?」
「あなたにお願いがあります。私をあの城の中に入れてもらえませんか?」
「無理です」
アンは即答すると、カエルは悲しそうに硬直します。
すると、ジンがランプから呆れた顔を出しました。
「訳くらい聞いてやれよ」
「ランプの精さん、ありがとうございます。聞いて下さい!
私は元々、この国の隣国の王子だったのです。それで、あの城の姫に一目惚れしました。そしてある日、川で足を滑らせて溺れている姫を助けました。しかし、私は恥ずかしがり屋なので、遠くから姫が目を覚ますのを見守っていたのですが……。そこに魔法使いのおばあさんが来て、姫に気づき介抱したのです。そしたら、目を覚ました姫は助けてくれたのはおばあさんだと言い、私の存在に気付かずお城に戻ってしまいました。私は、自分の恥ずかしがり屋を後悔し、川の中に住む魔女に相談しました。すると、魔女は私の恥ずかしがり屋を直す代わりにこんな姿にしたのです。魔女が言うには、本日中にその姫と両想いにならないと、私は藻屑になってしまうのです! どうか、助けて下さい!!」
アンとジンは口を開けて呆れていました。
「ジン、何か今の聞いて助けたいと思う?」
「いや。それに、何で姫が川で溺れているんだよ」
「残念だけど、自業自得ね……。両想いにするなんて、できるわけないわ」
「そう言わずに!!」
カエルは泣いてアンに飛びつきました。アンはため息をつきます。
「まあ、聞いてしまった以上、できる限りのことは協力しましょう」
アンは、カエルを鞄に入れ、王宮料理人見習いとして城に入り込みました。
ですが、アンは当初の目的を忘れて、城の厨房に感激していました。
「新入り、皿洗え!」
「はい!」
「新入り、これ混ぜてろ!」
「はい!」
アンは雑用をやりながら、料理の作り方を盗み見ます。
「あっ、それ入れるのもう少し待った方が良いと思います。先にこっちを入れて……」
アンは勝手に料理人に口出しし、調味料などを入れて味見用を渡します。怒った顔をしていた料理人もそれを食べてうなります。
「おい、新入り! こっちの掃除をしろ!」
「はい!」
アンは呼ばれた方に行く途中、あるコンロの火を止めました。そして、近くの料理人に声をかけます。
「これ以上火にかけると、柔らか過ぎになっちゃいますよ。丁度、今の硬さが良いはずです」
料理人は鍋の中を確認して驚いていました。
「おい、新入り」
アンは料理長に呼ばれます。アンは緊張して振り返ると、料理長はニヤリとします。
「一品、作ってみるか?」
「はい!!」
アンは目を輝かせて頷きました。
料理長は、アンが作った一品を食べて頷きます。
「やっぱり、お前は才能あるな。どうだ、本格的に弟子入りしないか?」
その言葉に、アンは興奮しました。
「えっ、え!? 料理長の弟子に! えっ、やりたい! ……でも、何かやらなきゃいけないことがあったような」
その頃、鞄の中でカエルとジンは待たされていました。
「娘さん、私のこと忘れてますよね?」
「あいつ、料理が本当に好きだからな。終わるまで、何もできないぞ」
アンが厨房の掃除を終わらせた頃には、もう夜の11時を回っていました。
アンはカエルとジンに頭を下げました。
「ごめんなさい! うっかりしてた」
「もう時間ないぞ。こんな少しの時間で両想いになるなんて無理だろう。諦めて、藻屑になるんだな」
「そんな薄情な!」
アンは急いで姫の部屋を探します。すると、偶然姫とすれ違いました。
「姫様!?」
「あら? ひょっとして、あなたが噂の新人料理人さん? 私と同い年なのに、とても料理が上手と聞きました」
姫に笑顔で言われ、アンは真っ赤になります。
「めっ、めっそうもありません……。あの、お時間ありますか? 良ければ、お話しなんかしませんか?」
「良いわですね。私、あまり若い女の子と一緒におしゃべりしたことないんですの」
姫は、アンを部屋に招き入れてくれました。
イスに向かい合わせで座ったものの、どう切り出せばよいのか、アンは迷いました。
沈黙の中、刻々と時間は過ぎていきます。0時まで、後15分。
「あなたは、好きな男性とかいらっしゃいますか?」
「へっ!?」
姫から話し始め、アンは驚きます。
「いいえ、今はいません。……姫様にはいるんですか?」
「……はい。」
恥ずかしそうに、姫は顔を赤らめて頷きました。
アンは、もうカエルは助からないと思いました。
(カエルスープ作って、供養しようかな……)
「彼はとても恥ずかしがり屋で、いつも5メートルくらい離れてお話しするんですの。ですが、声が小さいので、何を言っているのか聞き取れなくて……、そこが可愛らしいんですの」
姫は顔を赤らめましたが、アンは顔をひきつらせました。
「はあ……」
「この間も、遠くにいる彼に近づいてきて欲しくて、川で溺れるフリをしたら、本当に助けてくれて……。ですが、すぐ離れてしまって、横になって待っていても一向に来てくれなくて、悔しくて、嫉妬して欲しくて、たまたま近くを通りかかったおばあさんに協力してもらって、私を介抱するフリをして恩人役になってもらったんですよ」
「それって!?」
アンが言う前に、鞄からカエルがピョンと飛び出しました。
「姫! その話は本当ですか!?」
「…その声は、王子? どうしてそんな姿に?」
「あなたときちんとお話ししたくて、魔女に恥ずかしがり屋を直してもらったら、代わりにこんな姿に……。こんな姿の方がよっぽど恥ずかしいのに……」
「まあ! 王子はどんな姿をしていても、素敵ですよ」
姫はカエルを手のひらにのせ、キスをしました。
0時の鐘がなります。すると、カエルが光り出し、なんと人間の姿になりました。
「姫! 人間に戻れました!」
「私の愛が届いたのですね!」
二人は手を取り合い、涙ぐんでいました。
アンとジンは、たくさんお礼を言われましたが、上の空でした。
「何か……、疲れたね」
「めちゃめちゃ、遠回りをしていた気分だ」
「さあ、気を取り直して、次の国へ行こう!」
アンとジンは、また旅を続け始めました。




