外伝 そして、数年後
小さな足音が、廊下を走る。
「とーさ!」
「とーと!」
振り向くと、
獣人の耳と、人族の柔らかな顔立ちを併せ持つ子どもが、笑っていた。
「危ないよ」
俺が言うと、
アルトが後ろから抱き上げる。
「……似てきたな」
「どっちに?」
「両方に」
子どもは、楽しそうに尾を振った。
結界の外は、今日も平和だ。
世界は、完全じゃない。
でも。
並ぶ相手がいて。
選び続ける覚悟があって。
帰る場所がある。
それだけで、人生は――十分だった。
:子ども視点
『ぼくのとーさと、とーと』
――リオのはなし――
ぼくの名前は、リオ。
ぼくには、とーさと、とーとがいる。
とーさは、やさしい。
でも、すごい。
むずかしい紙をいっぱい読んで、
細い指で線を書くと、
光る線が空に浮かんで、こわれたものがなおる。
「それ、魔法?」
ってきいたら、とーさは笑った。
「うーん……がんばった結果、かな?」
よくわかんないけど、
とーさは、だいすき。
とーとは、つよい。
耳がぴんって立ってて、
声がひくくて、
歩くと床が少し鳴る。
でも、ぼくを抱くときは、
世界でいちばんやさしい。
夜、こわいゆめを見て泣いたら、
とーとはすぐ来てくれる。
「リオ。ここにいる」
そう言って、
背中を、とん、とんってしてくれる。
ぼくは知ってる。
とーとがこわい顔をするのは、
ぼくと、とーさを守るときだけ。
ある日、
ほかの子に言われた。
「きみ、人族なの?
それとも、獣人?」
ぼくは、ちょっと考えた。
それから、言った。
「ぼくは、リオ」
「とーさの子で、とーとの子」
その夜、とーさは泣いてた。
ぼくを抱きしめて、
小さな声で言った。
「……強い子だね、リオ」
とーとは、なにも言わなかった。
ただ、ぼくを高く抱き上げた。
空が近くなって、
ぼくはうれしくなって、
しっぽを、ぶんぶん振った。
だって。
この世界で、いちばんつよいのは、
ぼくのとーさと、とーとで。
そして、
そのふたりに守られているのが、
ぼくだから。




