帰る場所、迎える朝
辺境に戻った朝は、驚くほど穏やかだった。
空は高く、風はやさしい。
王都の石の匂いが、少しずつ抜けていく。
「……帰ってきた」
俺が言うと、アルトが小さく笑った。
「ああ」
「ちゃんと、な」
門をくぐった瞬間、気配が変わる。
祝福だ。
派手じゃない。
声を張り上げるわけでもない。
でも、確かに――受け入れられている。
「おかえりなさい、アルト様」
「レオン様も」
使用人たちが、自然に頭を下げる。
“番様”と呼ぶ者もいるが、
そこに壁はない。
「……変わったね」
俺が言う。
「変わったのは」
アルトは、俺を見る。
「世界じゃない」
「立つ場所だ」
その通りだった。
その日。
辺境貴族会議が、臨時で開かれた。
形式的なものだ。
でも、意味は大きい。
「番契約、王都認可をもって」
老獅子が宣言する。
「レオン・アシュフォードを」
「正式な辺境技術顧問とする」
拍手は、なかった。
代わりに。
全員が、立ち上がった。
それが、この土地の最大の敬意だった。
会議後。
屋敷の庭で、俺は息を吐いた。
「……やっと、終わった」
「いや」
アルトが、隣に来る。
「始まった」
「また?」
「今度は」
「静かな日常の方だ」
その言葉が、胸に落ちる。
夜。
久しぶりに、何も起きない夜。
「ねえ、アルト」
「ん?」
「ぼく」
「転生してよかった」
アルトは、少し驚いた顔をした。
「……今、言う?」
「今だから」
「前の世界じゃ」
「居場所が、わからなかった」
「でも」
「ここでは」
彼の手を、握る。
「ちゃんと、ここにいる」
アルトは、ぎゅっと握り返した。
「……離さない」
「うん」
「知ってる」




