祝福と噂と王都の影
王都に、噂が届くのは早かった。
それも、少し歪んだ形で。
――辺境の人族が、獣人貴族を誑かした
――番契約を利用した権力掌握
――王命を拒んだ、危険思想
「……ひどいね」
書簡を読みながら、俺は小さく言った。
「予想通りだ」
アルトは、淡々としている。
「祝福が広がるほど」
「反発も、最後に強く出る」
辺境では、真逆だった。
「番様、おめでとうございます!」
「レオン様のおかげで、結界が楽になりました!」
子どもたちが、駆け寄ってくる。
「これ、焼き菓子!」
「ありがとう」
自然に笑える。
ここでは、
“役に立った人”として見られている。
それが、何よりだった。
だが。
王都から、最後の一手が来た。
「……勅使?」
アルトが、封書を見て眉をひそめる。
「正式な裁定使だ」
内容は、簡潔だった。
辺境結界技術および番契約の正当性について
王都にて、最終審問を行う
当事者双方、出頭を命ずる
「……裁判、みたいなもの?」
「そうだな」
アルトは、俺を見る。
「怖いか?」
正直に答える。
「少し」
「でも」
「逃げたいとは、思わない」
アルトの表情が、柔らいだ。
「それでいい」
「今回は」
「俺が、前に立つ」
「レオンは」
「自分の言葉だけ、用意してくれ」
王都・審問の間。
そこは、学院の講堂よりも、ずっと冷たかった。
貴族。
文官。
魔術師。
そして、王。
「番契約は」
文官が言う。
「獣人社会の慣習だ」
「だが」
「人族が、それを利用して地位を――」
「利用していません」
俺は、静かに口を開いた。
遮られる前に。
「番契約は」
「地位を得るための手段じゃない」
「結果として」
「責任が、増えただけです」
「責任?」
「はい」
まっすぐ、王を見る。
「結界の安定」
「辺境の安全」
「人族であるぼくが」
「そこに関わる覚悟です」
ざわめき。
「感情論だ」
誰かが言う。
「いいえ」
俺は、はっきり言った。
「結果は、すでに出ています」
「結界は安定し」
「王都への魔力供給も、改善された」
「それが」
「評価されない理由が、ありますか?」
沈黙。
アルトが、一歩前に出た。
「番契約は」
「弱みではない」
「互いの判断を、鈍らせるものでもない」
「むしろ」
「抑止力だ」
「俺が、感情で動けば」
「レオンが止める」
「彼が、無理をすれば」
「俺が止める」
王が、静かに息を吐いた。
「……なるほど」
「二人で、一つの判断装置か」
「はい」
アルトは、迷わず答えた。
長い沈黙のあと。
王は、告げた。
「番契約を、正式に認可する」
「辺境技術顧問の立場も、維持だ」
その瞬間。
胸の奥の、緊張がほどけた。
審問後。
王都の回廊で、俺は立ち止まった。
「……終わったね」
「いや」
アルトは、微笑む。
「始まった」
「ここからは」
「未来を、作る番だ」
外に出ると、空は高かった。
王都でも、辺境でも。
俺たちは、もう隠れない。




