番契約の余波
番契約の成立は、
辺境では「祝福」、王都では「問題」だった。
翌朝。
屋敷の前が、やけに騒がしい。
「お祝いです、アルト様!」
「番契約成立、おめでとうございます!」
果物、酒、保存肉。
次々と運び込まれる贈り物。
「……多くない?」
俺が小声で言うと、アルトは苦笑した。
「辺境流だ」
「祝える時に、祝う」
使用人たちの視線が、俺に向く。
好奇心。
戸惑い。
でも――拒絶は、ない。
「レオン様」
年配の使用人が、深く頭を下げた。
「どうか、アルト様を」
「……はい」
言葉を探す。
「一緒に、支えます」
その一言で、空気が和らいだ。
一方。
王都から届く書簡は、真逆だった。
「……抗議文」
アルトが、淡々と読む。
「『人族を番とするのは、貴族の義務に反する』」
「『血統の混乱』」
「『前例なき危険』」
俺は、少し肩をすくめる。
「前例、作っちゃったね」
「作ったな」
アルトは、俺を見て、はっきり言った。
「後悔は?」
「ないよ」
即答。
「むしろ」
「誰かの都合で、なかったことにされる方が嫌だ」
その瞬間。
アルトの表情が、やわらかくなる。
「……強いな」
「アルトが、ちゃんと隣に立ってくれるから」
その言葉が、効いたらしい。
耳が、ぴくっと動く。
だが。
祝福ばかりでは、終わらない。
辺境貴族の一人――
旧来派の豹獣人、ヴァルド。
彼の視線が、明らかに冷たかった。
「……人族を、番に?」
「時代も、落ちたものだ」
会議後、すれ違いざまに囁かれる。
アルトが、即座に振り向こうとしたが。
俺は、袖を引いた。
「いい」
「今は」
アルトは、俺を見る。
「……我慢、できる?」
「うん」
「でも」
「逃げない」
それだけで、十分だった。
数日後。
結界の一部で、異変が起きた。
――改修したはずの区画。
「……おかしい」
俺は、すぐ気づく。
「これは、劣化じゃない」
「……意図的に、いじられてる」
アルトの表情が、鋭くなる。
「内部犯か」
「可能性、高い」
辺境内部に、
“番契約をよく思わない勢力”がいる。
つまり。
これは、ただの事故じゃない。
夜。
地図を広げながら、二人で確認する。
「ここ」
「ここも、微妙にズレてる」
「……巧妙だ」
「壊す気じゃない」
「失敗させる気だ」
俺は、息を吐いた。
「ぼくを」
「無能に、見せたい」
アルトの手が、俺の手を包む。
強く、でも乱暴じゃない。
「なら」
「成功させる」
「完璧に」
「逃げ場なく」
その言葉に、背筋が伸びた。
これは。
子供の喧嘩じゃない。
政治だ。
立場の争いだ。
でも。
俺は、もう“守られるだけ”じゃない。
「……一人で、やらせて」
俺が言う。
アルトが、目を細める。
「条件は?」
「必ず、報告する」
「危険なところは、共有する」
「一緒に、責任を持つ」
少しの沈黙。
それから。
「……許可する」
「でも」
「無茶したら、抱えて連れ帰る」
思わず、笑った。
「それ、脅し?」
「溺愛」
即答。
こうして。
静かなざまあの準備が、整った。
誰が、何をしたのか。
どこで、手を加えたのか。
全部、
“証拠付き”で暴くつもりだ。




