辺境貴族会議
辺境貴族会議は、月に一度だけ開かれる。
名目は「情報共有」。
実態は「力関係の確認」。
古い館の円卓には、獣人貴族たちが集まっていた。
狼、熊、豹、鷲――体格も気配も、圧が強い。
その中で、俺は明らかに異質だった。
耳も、尾もない。
体も、小さい。
「……本当に連れてきたのか」
誰かが、鼻で笑う。
「人族を」
「学院でちやほやされたって聞いたが」
「辺境は、遊び場じゃないぞ」
アルトが、即座に言い返そうとした――その前に。
「失礼します」
俺は、立ち上がった。
視線が集まる。
「レオン・アシュフォードです」
「今回の結界補修を担当しました」
ざわり、と空気が動く。
「人族が?」
「補修“だけ”だろう」
「監督は、誰だ」
俺は、深呼吸する。
「設計、構築、実行」
「すべて、ぼくです」
一瞬、静まり返った。
次の瞬間。
「ははっ」
「嘘をつくな」
「人族に、そんな持久魔力は――」
「あります」
静かに、でもはっきり言う。
「効率を変えただけです」
「魔力は、“量”じゃなく」
「“流れ”です」
俺は、簡易魔法陣を床に描いた。
最低限の線。
最低限の魔力。
でも。
光が、安定して流れた。
「……」
誰も、笑わない。
「辺境の結界は」
「大型で、非効率です」
「力の誇示には向いている」
「でも、守るには向いていない」
老獅子の貴族が、低く唸る。
「小僧」
「貴様、我らの代々の術式を――」
「否定してません」
俺は、目を逸らさない。
「更新を、提案しているだけです」
「このままでは」
「三年以内に、必ず破綻します」
ざわめきが、怒号に変わりかけた、その時。
アルトが、口を開いた。
「彼は、王都から引き抜かれかけた」
その一言で、場が凍る。
「……なに?」
「人族を?」
「王都が?」
「だからこそ」
アルトは、淡々と続ける。
「ここで、使い捨てにするなら」
「王都が、先に拾う」
「その覚悟がある者だけ」
「反論してほしい」
沈黙。
重い、沈黙。
やがて、老獅子が笑った。
「……面白い」
「人族」
「いや、レオン」
「一つ、試させろ」
「実証だ」
「我らの結界を」
「一部、任せる」
――来た。
「条件があります」
俺は、即答する。
「結果が出たら」
「発言権をください」
「貴族として、じゃない」
「技術者として」
老獅子は、目を細めた。
「……欲張りだな」
「生き残りたいだけです」
数秒。
そして。
「いいだろう」
「結果を出せ」
会議が終わったあと。
廊下で、アルトが小さく息を吐いた。
「……正直」
「胃が痛かった」
「ぼくも」
そう言って、笑う。
「でも」
「逃げなかった」
アルトが、俺を見る。
誇らしげに。
少し、危なっかしいものを見る目で。
「……強くなったね」
「アルトが、隣にいたから」
そう答えると、彼は照れたように耳を伏せた。
この日。
辺境で初めて、
人族の名が「記録」に残った。
――軽んじられていた存在が、
“無視できない存在”になった瞬間だった。




