王都からの介入
辺境に、王都の紋章をつけた馬車が来たのは、補修から三日後だった。
真新しい塗装。
無駄に豪奢な装飾。
――浮いている。
「……早いね」
俺が言うと、アルトは眉を寄せた。
「想定より、早すぎる」
「学院経由だろうね」
馬車から降りてきたのは、三人。
文官。
魔術監査官。
そして、王命を示す使者。
全員が、俺を見る目を一瞬だけ変えた。
「人族、ですね」
確認するような声。
「はい」
否定しない。
使者は、巻物を開いた。
「王都より通達」
「辺境結界補修に関し、特例として――」
言葉を選びながら、続ける。
「レオン・アシュフォードを、王都直轄管理下に置く案を検討する」
空気が、凍った。
「……は?」
思わず、声が出た。
「管理?」
「保護、と言い換えてもいい」
文官が、笑顔で言う。
「希少な人族の魔術適性」
「辺境に置くには、惜しい」
アルトが、一歩前に出た。
「拒否する」
即答だった。
「アルト・グランフェルト」
使者が名を呼ぶ。
「貴族として、王命に逆らうのか」
「これは、正式命令ではない」
「“検討”だ」
アルトの声は、低く、はっきりしている。
「検討段階なら、拒否も選択肢だ」
「レオンは、物ではない」
監査官が口を挟む。
「だが、彼の力は――」
「辺境を救った」
「その事実は、感謝している」
「だからこそ、王都で――」
「だからこそ、だ」
アルトは、視線を逸らさない。
「彼は、ここで必要とされている」
「王都の“安全な檻”より」
「現場で、生きている」
俺は、アルトの横顔を見ていた。
――ああ。
これは、学院での“優等生”の顔じゃない。
辺境の、
責任を背負う者の顔だ。
使者は、ため息をついた。
「……本人の意思確認を」
全員の視線が、俺に集まる。
逃げ場は、ない。
俺は、一歩前に出た。
「確かに、王都は安全だと思います」
「知識も、資源も、多い」
「でも」
言葉を選ぶ。
「ぼくは、ここで」
「必要とされている実感を、初めて持てた」
「力を、“使われる”んじゃなく」
「“一緒に使う”場所を、選びたい」
文官の笑顔が、少しだけ歪んだ。
「……感情論ですね」
「生き方です」
静かに返す。
沈黙。
やがて、使者が巻物を閉じた。
「王都へは、保留として報告する」
「だが――」
アルトを見る。
「いずれ、再検討されるだろう」
馬車が去った後。
風が、強く吹いた。
「……ごめん」
アルトが言う。
「巻き込んだ」
俺は、首を振る。
「選んだ」
「自分で」
少し間を置いて、続ける。
「アルトが、拒否してくれたから」
「ぼくも、言えた」
アルトの耳が、ぴくりと動く。
「……怖くなかった?」
「怖かったよ」
「でも」
「アルトの隣に立つ方が」
「一人で王都に行くより、ずっといい」
その瞬間。
アルトが、俺の手を取った。
ぎゅっと、強く。
人目も、立場も、忘れたみたいに。
「……絶対、守る」
「力も、選択も」
「奪わせない」
その言葉は、誓いだった。
辺境の空は、相変わらず広い。
でもこの日、
俺たちは知った。
――この世界は、
優しさだけじゃ、守れない。




