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灯りの下で起きたこと

学院祭当日。


朝から学院は、いつもより少し早く目を覚ましたみたいだった。

中庭の石畳には色布が敷かれ、塔のバルコニーには魔法灯が吊るされている。

獣人の子どもたちが走り回り、耳や尾が楽しげに揺れていた。


「……落ち着かない」


アルトが、そう呟く。

「人が多いから?」


「それもあるけど」


視線が、無意識に俺の周囲をなぞる。


「今日は、見られすぎる」


俺たちの展示は、中央棟の一角。

目立つ場所だ。


「大丈夫」


そう言って笑ったけど、胸の奥には小さな緊張があった。


準備した展示は三つ。


・魔力を可視化する簡易陣

・触れると反応する防御魔法

・子ども向けの安全な補助構築


どれも派手じゃない。

でも、壊れない。


「では、始めます」


開始の合図とともに、人が流れ込んできた。


最初は子ども。

次に保護者。

そして――貴族。


「これが、人族式?」


「随分、細かい制御だな」


評価の声が増える。

俺は、一つひとつ説明した。

言葉を選び、例を挙げ、質問には逃げずに答える。


――大丈夫。

ちゃんと、立てている。


そのときだった。


「……あれ?」


補助魔法の一部が、わずかに揺れた。


気づいたのは、俺だけじゃない。

アルトの耳が、ぴんと立つ。


「れおん」

小声。


「構築、変」


次の瞬間。


魔力が、逆流した。


派手な爆発じゃない。

でも、展示の一角が、白く歪む。


「下がって!」


反射的に声を張る。


人の波が引く中、俺は構築に手を伸ばした。


――混入。


誰かが、意図的に“噛ませた”魔力。

「……っ」


制御が、効かない。


そのとき、背後から、しっかりとした気配が重なった。


「れおん」


アルトだ。


「繋ぐよ」


返事をする暇もなく、アルトの魔力が流れ込む。


強い。

でも、乱暴じゃない。


俺の構築を、理解した上で、支えてくる。

「……いける」


二人で、組み直す。


俺が骨組みを整え、

アルトが安定を担う。


数秒――

いや、永遠みたいな時間のあと。


魔力は、静かに収まった。


会場が、しん、とする。


次に聞こえたのは、拍手だった。


一人、二人。

やがて、大きな音になる。


「今の、即興で?」

「二人で、あれを?」


視線が集まる。


逃げ場はない。


俺は、一歩前に出た。


「展示への妨害がありました」


ざわめき。


「ですが、危険はありません」


「理由は――」


一瞬、アルトを見る。


頷き。


「壊れない構築だったからです」

嘘じゃない。


混入されても、崩れなかった。

二人なら、立て直せた。


そこへ、学院長が現れる。


「よく対応した」


短く、でもはっきり。


「妨害については、こちらで調査する」


視線が、ある方向に向く。


顔色を失った、貴族生徒。


もう、隠れない。


祭りは続いた。

でも、空気は変わった。


俺を見る目は、

「珍しい」から

「危険」でもなく

「利用価値」でもなく。


――対等。


片付けのあと、裏庭。


夕暮れの灯りが、石壁を染める。


「……こわかった?」


アルトが聞く。


「うん」


正直に答える。

「でも」


「一人じゃなかった」


アルトは、少しだけ照れたように笑った。


「ぼくも」


「れおんと、並べた」


胸が、静かに満たされる。


学院祭の灯りは、夜まで消えなかった。


この日を境に、

俺はもう「守られるだけの人族」じゃなくなった。


選び、支え、並ぶ存在へ。


物語は、ここから――

次の段階へ進む。

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