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祭りの準備と、静かな違和感

学院祭の準備が始まると、学院全体の空気が一気に変わった。


廊下には装飾用の布。

中庭には仮設の舞台。

どこからともなく甘い焼き菓子の匂いが漂ってくる。


「……にぎやか」


アルトが、少しそわそわしながら言う。


「好きそうなのに」


「嫌いじゃない」

そう言いながらも、視線は常に周囲を警戒している。


獣人は、こういうときも本能が出るらしい。


俺たちのクラスは、「魔法体験展示」を担当することになった。


子ども向けに、危険のない簡易魔法を見せる企画だ。


「レオン、構築は任せた」


クラス代表が、当然のように言う。


「……いいけど」


「難しくしすぎるなよ?」


周囲から、くすっと笑いが起きる。

以前なら、皮肉だった。

今は――期待だ。


準備期間中、俺は魔法を“見せるため”に組み直した。


効率より、分かりやすさ。

威力より、安全性。


人族の魔法は、どうしても地味だ。

でも、その分、制御が細かい。


「……これ、人族式?」


講師が、構築図を覗き込んで言う。


「はい」


「獣人には、あまりない発想だな」

評価は、悪くない。


ただ――

視線が、増えた。


好意的なものだけじゃない。


「最近、調子に乗ってない?」


「後ろ盾があるからだろ」


「結局、拾われただけの――」


小声。

でも、聞こえる。


アルトの耳が、ぴくっと動いた。


「……言い返す?」

「いい」


首を振る。


「今は、準備に集中したい」


本音でもあり、逃げでもあった。


夜、寮の自室。


魔法陣を描き直していると、ふと違和感を覚えた。


「……これ」


誰かが、触った痕跡。


ほんのわずか。

でも、構築の癖が、俺のじゃない。

「アルト」


声を落として呼ぶ。


「なに?」


「準備室、誰か出入りしてた?」


「……噂はある」


表情が、少し硬い。


「展示の主導権、奪いたい貴族がいるって」


やっぱり、来たか。


「でも」


アルトが、はっきり言う。


「れおんの魔法、壊させない」


「ぼく、見張る」


その言葉が、頼もしい。


「一人で抱えなくていい」


「……うん」


翌日。


準備室の前には、さりげなく人が増えた。


アルトだけじゃない。

公爵家と縁のある生徒。

中立派の上級生。

俺は、気づく。


――もう、俺は一人じゃない。


学院祭は、ただの行事じゃない。


評価が動く。

立場が揺れる。

そして――選別が行われる。


それでも。


飾り付けの下で、アルトが言った。


「祭り、終わったら」


「なに?」


「甘いの、食べに行こう」


緊張が、ふっと緩む。

「約束」


「約束」


この時間があるから、耐えられる。


嵐は、近い。

でも、今はまだ――

灯りの下で、笑っていられる。


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