3.未来に輝く星
「だれかの話を聞けば、それを大事にして心を豊かにできるかもしれない。それにいろいろ考える。何かを心のなかでつくり上げることもできるかもしれない。そうしたら、ぼくでも宇宙を大きくしたり、何かを残したりできるからね」
「何の話がいいのか、全然思いつかないんだけど……」
とても大きなことを言われてしまうと、かえってどんなことを話したらいいか、わからなくなります。
「何でもいいんだよ。ただ好きなようにいろいろ話してくれればいい。お話をつくれるってことは、そういうことを自然にできるってことじゃないかい」
こよみは首をかしげます。
「そんなことくらい、みんなできると思うけど」
「この未来では、ぼくのような人間が多くてね。お互いに知識をもとに話せても、さまざまな話を自由につくるのは難しいんだ。なかなか宇宙に恵みをもたらすこともできない。きみたちのような小さな人間こそができる」
「……宇宙に比べたら、わたしなんてちっちゃすぎるのに」
思わずこよみはつぶやきました。
そのとき、機械の人がほほえんだような気がしたのです。
「何かを生み出すのは、いつでも小さくて、はかない者たちなんだよ。そういう人たちこそ、何ものにもしばられず、いろんなものや人に触れて感じて、大切にできる。心を無限に大きくできる。それが豊かであれば、宇宙もそうなる」
機械のおじいさんの瞳がきらりと光って、続きを語ります。
「それに、豊かな心は感じたり考えたり、思い描いたりして、たくさんのものを生み出すことができる。そうしたものたちが星のもとになるんだ。ちょっとした思いや考えは、ガスのようなもやもやとしたものになる。もっと心で描いてつくり出したものは、塵のような形あるものになる。やがてはそれがたくさん集まって星になるんだ。美しい星々には、心に描いた美しい物語や音楽や絵画などがたっぷり含まれているんだろうね」
星は、宇宙にあるガスや塵が少しずつ集まってできると、宇宙の図鑑にも書いてありました。
こよみは、先ほどからずっと思っていたことを確かめようとします。
「それだったら、一度わたしが思いついたことは、たとえ忘れてしまっても宇宙にはあるってこと?」
「もちろんだよ、心でつくったものは何でも宇宙にある」
少し考えてから、こよみは口を開きました。
「それじゃ、地球は? 人も動物もいっぱいいる星だよね」
「地球は生命がいて、その心で描いたものを実際につくっておける場所。それはすばらしいことだけど、必ずしも思ったとおりに何もかも表わすことはできないよね。だけど、宇宙に塵となって残るのもいいことじゃないかな。いつかきれいな星になるんだから」
心に思い浮かべたものが宇宙の塵になって、他の塵と一緒に集まって、いつかきれいな星になる。それはとても素敵なことに思えました。
そうでなくても、あのお話がどこにもないわけではないと思うと、何だか心がうきうきしてきました。
機械のおじいさんのために、こよみは自分のつくったお話をいくつか聞かせてあげました。
森の動物たちのお話とか、宝探しとか、地底探検とか、空飛ぶ船の冒険とか、お姫さまや王子さまのお話も、暑い国のお話も寒い国のお話も、魔法使いのお話も……。すでに書いたものも、今思いついたばかりのものも語りました。
時々うなずいて、機械の人は熱心に聞いてくれます。こよみは生き生きとお話を続けました。
「ありがとう。おかげで、ぼくの心もいろんなことを感じとって、きっと豊かになれたよ。そろそろ休憩時間も終わりだな」
機械の人は明かりを手にして、岩からゆっくりと立ちました。こよみも立ち上がります。
「休憩時間って? 何かお仕事をしているの?」
「まだ言ってなかったね。ぼくは未来の星づくりを仕事にしているんだよ」
「星づくり?」
「新しい生命が誕生しないか、いろんな星を調べている。地球のような星が未来にできるかもしれないからね。星が命を育み、命は星を育むのさ。新しい生命を育てる星が生まれれば、新しい心が生まれる。そうすれば、また宇宙は大きくなって、美しい星も生まれるよ」
未来の星づくりの仕事。
それって壮大でいいなあ、とこよみは思いました。
「話し相手になってくれて、ありがとう。帰り道はこっちだよ」
機械のおじいさんの示す先には、いつの間にかダンボール箱が置いてありました。
「きみになじみやすい箱で用意してみたよ」
のぞいてみると、青空が広がっています。
そういえば、わたし、昼間にこっちに来たんだった。
このまま帰れるんだと思ったら、箱のなかに引っ張られそうになります。あわててこよみは砂の上の足に力を込めました。
「ねぇ、どうしてわたしを呼んだの。話し相手ならだれでもよかったんじゃないの?」
機械のおじいさんは、ぴたりと動きを止めて、こよみを見つめました。
「だれでも大丈夫だったかもしれないけど、きみに会えてよかったよ。たくさんの楽しいお話をありがとう」
その言葉に、こよみはほわほわとした温かい気持ちになりました。
「わたしもおじいさんに会えてよかった。お話できて、楽しかったよ」
答えたら、機械の人がにっこり笑った気がしました。
「きみのお話がきみを呼んだのかもしれないね」
「えっ?」
声を上げたら一瞬、足が地面を離れてしまいました。こよみは箱のなかへすうっと吸い込まれてしまったのです。
青空が広がりました。その途端、くるりと反転して地面が。
どしん。
こよみはまたしても、尻もちをついてしまいました。
「あれ」
座り込んでいるところは、もといた庭でした。
もう、あの砂漠の星の上ではありません。空は明るくて、星はなく、綿菓子のような雲がただよっています。
それに、機械の体のおじいさんはどこにもいませんでした。ダンボール箱もどこにもありませんでした。
夜になって、星が瞬きはじめました。それで、ようやくこよみは昼間の出来事を静かに思い浮かべたのです。
ダンボール箱の向こうの宇宙を。
未来だったのか、遠い星だったのか。星づくりのおじいさんがいたのか、こよみがそこにいたのかさえ、本当かどうかわかりません。
夢や幻だったのかもしれません。
それに。宇宙が大きくなっていく理由も、星ができる理由も、本当にそうなのでしょうか。
でも。本当ではなくても、そうだったらいいなって、こよみは思うのです。
夜空を見上げて、ただ胸のなかで感じてみます。
心で何かを思い、豊かになることで、宇宙という大きな容れ物はさらに大きく豊かになっていくこと。
今、夜空に輝いている星は、たくさんの命が心のなかでつくり出したものが集まった光だと。
機械のおじいさんは、帰りぎわに言いました。
『きみのお話がきみを呼んだのかもしれないね』
それなら、あのダンボール箱の向こうの宇宙に、わたしの忘れたお話もあるかもしれないということ。どこかできらきらと輝いているかもしれないってこと。
たとえ、そうではなかったとしても。
こよみは考えました。
わたしの心のなかにはきっと、わたしが忘れても、わたしの思い描いたことはずっとある。なくなったりなんかしないんだ。ガスや塵のようなものになって、きっとどこかに残っているはず。
わたしの感じたこと。考えたこと。それから、つくった物語。
そういうものがたくさん集まって、いつかわたしの心にきらきらと輝く星が生まれるかもしれない。
それに、もしも心と宇宙がつながっているのなら。
きっと未来にいる星づくりのおじいさんも喜んでくれるに違いないから。
また新しい物語をつくろう。
こよみはそう思ったのでした。






