2.銀色の機械の人
「やあ、こんにちは」
突然、機械の声がしました。
こよみはあわただしく服の砂を払い、立ち上がります。
目の前に、全身が銀色の人がたたずんでいました。
腕や足の関節は人間のように曲げたりできそうですが、ほとんどが金属みたいです。顔の目の部分は明るく光っていました。
その人は、ガラスケースに入った、ボールのようにまるい明かりを手に持っています。はちみつ色のやわらかい光が不思議なほど遠くまで行き届いていました。
そのせいで、夜の暗さなのに砂漠の様子までがはっきりと目に見えていたのです。
「ここはどこ?」
こよみは銀色の人に尋ねました。
「地球からは遠いところだね。それにきみの時代からすれば、ずっと未来だよ」
「ええっ」
さっきまで、庭のダンボール箱をのぞいていたのに。
見回してみましたが、箱はもうどこにもありませんでした。はるか彼方まで、砂地が続いているだけです。
「どうしてわたし、こんなところに……」
「ぼくが呼んだんだよ。ここはぼくが調べている惑星なんだ」
「遠い星? それに、未来って言ったよね?」
こよみは驚いたまま、問いかけました。
銀色の金属でできた人は、おだやかな調子で答えます。
「そうだよ。ちょっと空間のつなぎ方が下手で、悪かったね。すぐにもとのところに帰れるから、少しだけ話し相手になってもらえるかい?」
話し相手に、と言われても、こよみはここがどんなところか気になっています。
「この星、空気あるの?」
「地球の大気みたいなものはないけど、きみに合わせてこの辺だけちゃんと空気を保っているからね。心配しなくて大丈夫だよ」
どういう仕組みか知りませんが、深呼吸してみても平気だったので、安心しました。
けれど、今度は銀色の人のことが気になります。
「ロボット?」
思わず聞くと、銀色の頭が横にゆらゆら揺れました。
「いや、違うよ。ぼくも地球生まれの人間なんだよ。長い年月あちこちの星を調査していて、体も取りかえてもらっているだけなんだ」
機械の体を持った人間、ということみたいです。それにしても、銀色のロボットのような外見なので、肌色の人の姿をうまくイメージできません。
「ここは砂ばかりで、何も考える気になれなくて。ちょっとの間、話をしてくれるかい? そこに座って」
「えっ」
こよみのすぐ後ろに、いつの間にか四角い大きな岩がありました。
「この星に合わせたつもりなんだけど、不自然じゃない椅子になってるよね」
この砂漠の惑星になら、ありえそうな岩です。確かに椅子として使える気がしました。
こよみが座ってみると、意外といい座り心地です。いつの間にか銀色の人のところにも同じような岩があって、同じように腰かけました。はちみつのような明かりもそばに置きました。
不思議だなと思いながら、こよみは尋ねます。
「話って……何の話をすればいいの?」
機械の人に何を話すと楽しいのか、さっぱりわかりません。
「何でもいいよ。つくったお話でも」
「……」
つくったお話という言葉に、こよみの胸は何かがつかえたような感じがしました。
金曜日にお話をつくる宿題を持って帰ったことから、月曜日にありふれたお話を提出するまでのことを全部思い出してしまいました。
気づくと、こよみはぽつりぽつりとその話を機械の人に伝えていたのです。
「お話を思いついたのに忘れて、つまらないお話を書いて出しちゃったの」
そうまとめて、長く深いため息をつきました。
ところが、銀色の人は言いました。
「すばらしい」
「えっ?」
「実にすばらしいことだね」
表情は変わらないけれど、機械の声には喜びが含まれているようでした。
「すばらしいって、何が?」
「何が、ってわからないのかい。何か考えたりつくったりすることは、宇宙にとって偉大なことなんだよ」
こよみはその返事に呆然としてしまいます。
宇宙にとって偉大、って変じゃないの。
「ロボットさん、もしかして壊れているの?」
思わず口に出してしまいました。
「ぼくはロボットじゃない。アンドロイドでもない。機械の体だけど、人間だよ。もちろん壊れたりなんかしていないよ」
「でも、何だか変なこと言っているみたい」
「そうかなあ」
やや不機嫌そうな声を出しましたが、銀色の人は説明しました。
機械の体は真新しい金属でぴかぴか光っています。何度も体を交換しているそうです。こよみからすれば、ものすごく長い歳月を生きているおじいさん、とのことでした。
「人間ではあるけれど、もう宇宙を大きくするようなものはなかなか生み出せなくてね。長い間生きてきて、何事にもあまり心が動かなくなったし、疑問を感じてじっくり考えたりすることもない。すぐに必要な情報が得られるから、それで満足してしまうんだなあ」
またまた変な言葉を聞いちゃった。
こよみはそう思っていました。
「宇宙を大きくするって、何? 人間にできることなの?」
「当然だよ。命あるものならだれにでもできるよ」
「わたしでもできるの?」
まさかと思って、こよみはさらに問いました。
「もちろんだよ」
銀色の人は質問を返します。
「そもそもどうして宇宙はこんなに大きくて、今でも拡大しているのか知っているかい?」
「えっ?」
宇宙が広がり続けている、という話は聞いたことがありました。こよみは、宇宙の図鑑を数冊持っているくらい、宇宙や星に興味があったのです。
図鑑のなかの宇宙は、広大でとてもきれいでした。
熱く輝く太陽もあれば、夜を静かに照らす月もあります。青い地球があります。大きな輪のある土星も、しま模様や渦のある木星もあります。長い尾を引く彗星も現われます。
さらには、数えきれないほどの星々が、赤にオレンジに黄色に白に青に、美しく宇宙を彩っています。ときには星座を形づくり、天の川を浮かび上がらせ、果てしなく遠くまで光り輝いているのです。
それに、宇宙は謎がいっぱいで、魅力的でした。
宇宙はどうやってできたのか。宇宙人はいるのか。他の星にも人間は住めるのか。考え始めると、もうそれだけでどきどきしてくるのです。
銀色の人はどうやら未来の人間のようなので、宇宙の謎も何か知っているかもしれません。
「どうしてなのか、知っているの?」
問いかけると、金属のはずの顔がほほえんだように見えました。
「宇宙はね、命ある者が創造したものを収める器なんだ。だから、とても大きいし、豊かになるし、もっともっと大きくなる」
「どういうこと?」
「たくさんの生き物の豊かな心が、宇宙を大きくするんだよ」
「心が……?」
こよみには、ますます訳がわかりません。
機械の人は、銀色の両腕を組みました。どう伝えるといいのか、考え込んでいるみたいです。何だか急に人間らしく感じました。
「そうだね……、さっき少し話したように、人間とか生き物が心のなかで考えたことやつくったものは、全部宇宙にあるんだよ」
「考えたことも宇宙にあるの?」
「そうだよ。心で思い描いたことはすべて宇宙でガスや塵になって残っているんだ。心と宇宙はつながっている。生き物の心が豊かになれば、宇宙も豊かになる」
「そんな話、聞いたことないよ」
こよみはびっくりして大きな声を出しました。
「きみの時代ではあまり知られていないことだね。それよりせっかくだから、もっとお話を聞かせてほしいな。知識ならいくらでも得られるけど、それだけじゃ足りないんだよ」
やっぱり機械の人は、話をしてほしいようです。






