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吸血塾2ブラッドサッカー  作者: クオン
55/62

警察の追求が厳しくなる十海七緒

EP55とEP56を統合します。

周囲を良く見ると長く黒い繊維が散らばっている。

七緒は何本かを手にとって見る。

若生のヘアビュート、長いだけでなく太く重たい。

常人の髪の毛より若干太い程度だろうが、重さが違っていた。

針金を持っているような違和感がある。

七緒はそれを両手で獣の腕部に投げつけた。

獣の腕が如実に反応しようとする前に七緒は跳躍し、針を首のあった位置に突き刺した。

上体を手で支えていた獣は倒れこむ。

「もう一個パーツがある筈だけれど?」

七緒は周囲を注意深く探すと焼けた獣の近くにその目的の物を発見する。

焼け爛れた獣の頭部。

「趣味の悪い・・・」

七緒は4本目の銀針を転がった頭部の耳に突き刺した。

かすかに顎を開いて反応した後、針を摘んで向きを変えてみても首は自力では動かなくなった。

「さて、どうしたものかしら?」

周囲に散らばったヘアビュートのことである。

七緒はサークルの縁に飛び上がって仲井に相談してみることにした。

「『遺体』の回収はこれで普通に出来ると思うわ。ただ、少し問題なのは若生君の髪の毛が周囲に散らばっているの」

七緒は数本ではあるが数メートルはある髪と言うより糸のようなものを見せながら説明する。

「部分的にヤスリ状になっていて触れる程度では大丈夫だけれど、引っ掛けて力が加わるとかなりの深手を負うようなしろものなの。今は遺体回収だけ急いで、現場検証は明るくなってからが良いと思うのだけれど」

「髪の毛だと? 何だってそんなものが?」

「若生君の武器、というより技なのよ。固有のスキル。これでグールの体を切断して戦ったのでしょう」

「そんな化物を野放しにしてしまうとは・・・」

「彼は、まだ民間人を巻き込んではいないわ。そういう言い方は本人がいない今ならいいけれど」

七緒は若生が化物と呼ばれることについては抵抗があったので、やや声が大きくなってしまった。

「遺体回収にはクレーン車が必要だ。今手配している。遺体の周囲に鑑識員を入れることはできそうか?」

声のトーンが下がった仲井は一応、反省しているようだった。

「そうね。なぜかあの周囲には髪の毛が少ないから、注意を怠らなければ大丈夫でしょう」

「県警本部から担当が来る。時間は構わんね?」

仲井が話題を変えてきた。

現場検証や遺体回収には人員が揃うまでにはまだ時間がかかるという事なのだろう。



「ええ、勾留ということでなければ。しかし尋問が少ないと思っていたらそういうことなのね?」

これが吸血鬼事件でなければ7人犠牲になった殺人事件だ。

隠遁工作が必要でなければ大事件としてマスコミに報道されている筈なのだ。

地域警察署だけで処理できるものではない。

「我々だって、協力的な態度を取ってくれるなら紳士的さ」

「新しい担当さんは強面なのかしら?」

苅田かんだ笙子、キャリア崩れのようだな」

「マルリックも彼女が担当するの?」

「そのようだな」

「彼も大変ね。あれでフェミニストだから」

「言っておくが、君の方が大変なことになるだろう。緋波若生のこと、弥生のことそして緋波家、調べ上げているぞ」

「そういつまでも隠していられるとは思っていなかったわ」

「マルリック氏のように吸血鬼情報で時間つぶしは通用せんぞ」

「マルリックの啓発や忠告を時間つぶしなどと思っていると後悔するわよ。彼の忠告をちゃんと聞いていれば弥生さんも若生君も吸血鬼などに成させることはなかったのだから」

七緒が噛み締めた口元から牙がのぞいた。

そう言う七緒を見て仲井は後悔しているのは彼女の方であると察したのだった。

そんな時に若生からメールの着信が七緒に入る。

「……これは問題だわ。『グール・2マイナス2、眷属・3マイナス1、リタ1イコール1』」

「なんだって?」

「若生君からのメールなのだけれど、リタも含んで残り3体の眷属が残っていることになる」

「今朝までの話だと残り2体ということだったが、グールと言うより被害者は増えているのか?」

「と言うより減ったはずなのだけれど。戦闘後の眷属は血を欲しがるから・・・恐らくこの眷族はスレイブなど作らずにいきなり人の頸動脈から血を吸うのね。食事のたびにグールが増えることになる」

「それは緋波若生も同じではないのかね?」

「彼は・・・恐らくスレイブと合流して吸血するのでしょう」

「スレイブ、血の提供者か? それはいったい誰なんだ?」

「眷属の私が仲間の眷属の生命線を言う訳がないでしょう」

「ふん、しかし、こちらが見込み該当者を押さえておけば、いずれ網に掛かる訳だ」

「今は全力でリタと眷属を封じ込めるべきだわ! 県警本部に応援を要請してでもパトロールを強化して夜間の警備を強化しないと事態の収束は出来ないわよ」

「全くだ。本来なら今夜、いやもう夕べか。検問するなり巡回を総員でシフトするなり手を打つべきだった」

「聞き分けのない上司でもいるわけ?」

「一刑事の私が署の愚痴を部外者に言う訳がないだろう」


「所長様ですよね? あの俗物にも困ったものですねえ」

携行ライトでこちらを照らしながら近づくのは初めて聞く女の声だった。

初見、印象的なのは石のような体とでも言うべきか、がっちりした体格の女だった。

柔道五段、そんな感じの体にこれまた四角い顔が乗っている。

「苅田笙子! 今日付けで県警本部生活安全特別捜査隊隊長に任命される予定です」

と言いつつ苅田は形ばかりの敬礼をした。

「生活安全特別捜査隊隊長ぉ~?」

仲井が上ずった声を出した。

「課長と同格なら何でも良かったんですよ。あなたが十海七緒ですか? 意外と血色いいですね?」

苅田は七緒をちらりとライトで照らしておいて確認を取る。

「十海です。あなたの血色こそ素晴らしい」

「この明るさで私の血色が判るのですか?」

「ええ、暗い方がよく判ります。血色だけでなく、血行もね」

「あら、こんなところで夜食は控えてもらいたいもんですねえ」

「食欲は失せますよ。下の現場を見た後ではね」

と言って七緒は後ろのサークルに振り向く。

苅田も前に進んで下をざっと見てみた。

ライトに照らされた3体はもう動いてはいない。

「あの2体は焼かれて死んだ・・・いや、機能停止したのですか?」

「いえ、機能停止させたのは若生君が首を切断したせいでしょう。彼に火炎を使うスキルはないはずなの」

「首を切り落とすのは、それが有効な処置だからですか?」

「ええ、最大の攻撃本能である吸血衝動を断ち切ることが出来るから、応急処置としては銀に次いで有効なのだけれど、人間では例え日本刀を持って臨んでも難しい」

「ざっと見る限り、ボディーと首との数が合いませんねえ。佐紀波若生は吸血鬼の頭部を食べたりするんですか?」

「クロスブラッドになるからそんなことは絶対にないわ。パーツは4と言っていたから、銀針が必要ない状態に粉砕されて散らばっているんじゃないのかしら?」

「鑑識も着いたようですし、その辺り調べてもいらいましょうかね」

クレーン車をはじめ照明車や救急車も到着したが、極力静かに吸血鬼の回収は進められた。

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