タイトル未定2025/12/25 18:15
「追わないのか?」
篠原健司が若生に訊く。
「追うと、あんたが襲われる」
若生が健司の左に回って、癒着し易いように左腕を支えながら言う。
「こちらの手の内を知られて、次が厄介なことになるんじゃないのか?」
「あいつらの動きは見切った。次はもっと簡単に撃退できるよ」
さらりと言ってのける若生に健司は内心戦慄していた。
「結局何人相手にしたんだ?」
「グール2体は倒したと言うより最初から捨て駒だった。眷族3体のうち1体はそこで首なしになってるよ」
「あの眷属達、どういう経過であんな変異になったと思う?」
「リタの眷属なんだろうけど、クレナイという吸血熊の血でクロスブラッドした影響が眷属に顕著に表れているんだと思う。詳しくは見てみないと判らないけど」
と言いながら若生は円形の基礎部分に戻って下を見下ろした。
足にも深手を負っている首のない眷属はそれでも両手を使って緩慢に動いていた。
その眷属に二体の焼けただれたグールが近寄っていた。
「いけないな・・・」
若生は飛び降りざま一体のグールの首を切り落とす。
続けざまにもう一体もブレードを突き刺しておいてからの衝撃波で頭部を吹き飛ばした。
「クロスブラッドさせたら厄介だ」
若生にはこの特殊なグールがバーサーカー状態になった時の攻撃力の強さが容易に想像できた。
若生は膝をついて腕で上体を支えている眷属に視線を移す。
グールに比べて毛並みが良いように見えたのは筋肉が発達していたからだった。
筋肉の隆起が体毛に覆われていても良く判る。
首筋をよく確認したくて近寄ろうとしたが、眷属は如実に反応して若生につかみかかろうとした。
「まあ、目視で確認する必要もないか」
そう呟きながら若生は距離をとる。
明らかに、行動パターンに違いがあったし、決定的だったのはリタによるグールの扱いだった。
燃やしておいて若生に当て馬にするとは、グールは使い捨てとしか考えていないのだろう。
「あんたは降りてくるなよ」
若生は上で見ている篠原健司に声を掛けた。
「まだトラップに使ったヘアビュートが残ってるんだ」
眷属の足を狙って仕掛けた若生の髪の毛である。
ヤスリ状にした髪の毛は触れた程度では害はないが、滑らせて動かせば肉に食い込み切断できる若生の武器なのだ。
「下がっていてくれ衝撃波を使う」
健司がサ-クルから見えなくなるのを確認して若生は膝から下を針毛に変形させる衝撃波で飛び上がった。
周囲に広がる衝撃がサークル内で跳ね返ってたまっていた水やゴミ、そして若生の髪の毛を引きちぎり巻き上げる。
グールや眷属の動く骸も若生のいた場所から弾き飛ばされていた。
「グールも眷属も上って来れそうにないから、このままでいいか」
と、健司の横に戻った若生。
「回収は警察でも手間取るんじゃないのか?」
「とは言っても銀針はもう手持ちがないからなあ。心苦しいけど後始末は先生に頼むか」
若生は携帯を取り出して十海七緒に送るメールの文章を打つ。
健司の方は船田幹乃に携帯電話を掛けていた。
二人はコンビナートのサークルから離れていった。
船田幹乃の運転するデミオは既に塀の外の道路で待機していた。
後席に乗り込んで若生は気になっていた健司の肩の接合部分を見てみた。
「体を切断されたのは初めてなのか?」
「ああ」
「なんですって?」
船田が思わず車を急停車させてしまう。
「大丈夫だ。構わず運転してろ」
健司が後ろを向こうとする船田を制して言う。
「まだ痛いだろう?」
「なんだろう? 時々痛みがぶり返してくるんだ」
「血管からくっつき始めて、筋肉、神経、骨の順で癒着していくんだ。あんたの場合骨自体は肩から外れただけで損傷してなかったから回復は早いだろうけど、その分痛み方はひどいと思う」
「ふ、何にしても腕を取られて直ぐに取り戻してくれたのには感謝するよ」
「まったく運が良かった。腕力で引きちぎられたんじゃなくて噛み千切られて骨が砕かれてたらどんな後遺症が出てたか分かったもんじゃない」
深手に別のVアメーバに侵入されるという事はクロスブラッドと同義なのだ。
「しかしあいつがあえて噛みつかないで腕力で俺の腕を奪っていったのは眷属としてリタが統制できているということか?」
「攻撃の連携を見る限りでもそんな感じだね」
「ところで、この肩、動かしていた方がいいのもんなのか?」
「肩って抜けやくなったりするんじゃなかったっけ? 俺の場合は骨がついたら痛みを我慢して無理やり動かした方が良かったんだけど、抜け癖がついたりしたら厄介だから多少痛みが残っても安静にした方が良いと思う」
「何で痛みが残るんだ?」
「動かさないと神経がその長さで固定されちゃうんだよ。癒着したらすぐにでも伸び縮みさせないと短絡した神経が後で引っ張られるんだ」
「じゃあ、安静にリハビリをはじめるよ」
健司は肩をゆっくり動かしたが、時にはかなり痛みを感じているようだった。




