リタの眷属たちの実力
若生はコンビナートで一人で待機していた。
ロード・フィルと決闘をした建築放棄されたタンクの下部ではなく地面より掘り下げられた基礎部分である。
時間は深夜0時を過ぎた頃。
それまでは廃工場の方に待機していた。
今は、篠原健司が廃工場に待機している。
リタか眷属が現れたら、若生が空メールを発信し健司が駆けつける手配になっていた。
タンク基礎部分には屋根が無く、張の鋼材越しに見上げれば夜空を眺望出来る。
若生は赤錆の匂いのする鉄骨に体を預けて天を仰いでいた。
「来たようだな・・・」
若生は携帯を取り出して篠原健司にメールを発信をした。
これで五分以内に来てくれれば良いが・・・
50m近い円形の縁に二体の影が立ち上がった。
「グールか!?」
昨日逃げた二体だろうか?
二体とも同じ匂いなので区別はつかない。
若生は巨大な円形の底面のやや縁よりの半端な場所に待機している。
その若生に一体は下に降りて起伏をやり過ごしながら迫り、もう一体は円形の外周に沿って迫ってきた。
両方ともに体毛に覆われた獣化グールだった。
「接触に微妙なタイムラグを作っての時間差攻撃か? 敵も手慣れてきたな」
なら各個撃破すればいいと思った若生は甘かった。
二体は若生に肉迫する直前で発火したのだ。
障害物が少ない外から降りてきた北グールが全身を燃やしながら若生に襲い掛かる。
若生は右手の剛毛化で衝撃波を作って飛び降りてくる一体目を弾き飛ばしながら、すぐ間近に迫りつつある下側からの二体目を左手のブレード化と同時に発生する衝撃波で迎撃する。
あれはリタの火炎だ。
若生は前に食らったことがある。
一度着火すると消火に苦労する代物だった。
ブレードによる斬撃から衝撃波での破壊という、効率の良い若生の攻撃を封印する為だろうが・・・
「完全な捨て駒じゃねえか!?」
しかし、その捨て駒は有効に若生を追いつめるべく体毛を燃やしながら迫る。
腕を振るい、炎をまき散らしながら腕を振るうグールを若生は跳躍して回避する。
そんな状態のグールがそうそう攻撃力を維持できるはずがない。
時間稼ぎで対抗すれば良い事だった。
「しまった! こいつらは囮か!?」
若生が跳躍したところを狙って別働隊が飛び上がったのだ。
二体のグールしか気配を感じることは出来なかった。
不意に気配を発した別の二体は、おそらく若生の跳躍のタイミングを予測しながら遠方から高速で接近していたのだろう。
若生は左肩に剛毛を作って衝撃波をつくり、空中で跳躍を行う。
一度飛び上がってしまった相手は若生の軌道変更にはついてこれないはずだった。
しかし、新手の二体うち片方が空中でもう一方を蹴とばした。
その反動で加速を得て若生に迫る。
若生は左ブレードを迫ってくるグールに突き出した。
しかし、相手は首を振ってそれをかわし右手の爪で若生の足を狙って薙いだ。
若生は辛うじて膝を抱くように縮めてやり過ごした。
「対策済みってか」
若生は左のブレードを手に戻した衝撃波で地表に向かって軌道を変える。
その若生に先に地上に降りたもう一体、四体目が既に跳躍しながら迫っていた。
「でもね」
若生は下から迫る獣に縮めた左足を伸ばしながら衝撃波を作る。
空中にいる先の三体目に向かって空中跳躍した。
「分かれた個体は各個撃破するまで!」
下方からの四体目と三体目が交差する。
片方は味方を蹴とばして若生に文字通り飛びかかる。
ババンッ!
若生の姿が空中でぶれて軌道を変えた。
足で発した2連続の衝撃波でL字に移動したのだ。
狙ったのは蹴とばされて土台にされ、自由落下している奴だ。
迫られた獣は両腕を縮めて攻撃態勢を取る。
若生は右手衝撃波でさらに加速し、獣を地に叩き付けるべく左手で衝撃波を使った。
右は後方から迫る獣をついでに弾くためでもある。
まずは前方のやつだ。
しかし、獣は地に叩き付けられる直前に脇の鉄板を蹴とばして若生の直下攻撃を避けた。
その回避行動を見て若生は後で加わった二体が眷属だと確信した。
昨日のグール達は防御無しの攻撃オンリーだった。
しかし今新たに加わった二体は互いを守りながら、若生の攻撃を避けながら応戦している。
そして何よりも、その形状の違いだ。
若生は地に降り立って、やっと相手をはっきり見ることが出来た。
体毛の生え方がグールより均一的で、有体に言えば毛並みが良いのだ。
更には鼻骨や歯茎が剥き出しにはなっておらず、ヒヒと言うより猿人に近い。
最も顎や歯の形状は犬に近いかもしれない。
若生のすぐ横にいた眷属が後ずさりする。
換わりに全身を燃やして体毛と表皮が剥げかけたグール二体がが若生に近づいてきた。
逃げない若生にグールは爪と牙との同時攻撃をしかけようとした時だった。
ズバンッ!
衝撃波で二体がはじき飛ばされる。
一体は上空に、もう一体は引き下がっていた下方の眷属に。
それを避けようとした眷族にグールが方向を変えて衝突した。
横に弾いたグールに肉迫していた若生が眷属に向けて弾き飛ばしたのだ。
若生の表皮は体毛だけでなく針状にも変形できる。
その針にグールを巻き込んでおいて、眷族に向けてグールごと衝撃波をぶつけたのだ。
グールを押しのけて跳躍しようとした眷族の動きが一瞬遅くなることを見逃さず、若生はブレードを振るった。
「やっと一体――」
しかし、頭部を縦割りにする寸前、その眷属を横からかっ攫われてしまう。
大きな眷族だった。
新たに加わった眷族は猫背になっているので正確には判らなかったが、ロード・フィルと同等の質量、ゆうに2メートル級の大きさはある。
その大型個体は若生に切られる寸前の抱きかかえていた眷属を解放した。
更に眷属もう一体が同じ位置に加わる。
「三体で連携するつもりか?」
若生は先に動いた。
今度は跳躍せず、鉄柱の間をすり抜けるように横に移動する。
眷族たちは上部の横に渡した鉄骨の張をつたって上から若生に迫った。
しかし鉄柱の間をジグザグに動き回る若生の上を眷属は勢い余って通り過ぎてしまっていた。
焦れた一体が下に降りて若生を追おうとする。
若生は右手を引き寄せるように動かした。
下に降りた眷属がつまづき転倒する。
眷族の足が何ヵ所も深手を負っていた。
ヘアビュート、若生の先端1メートルをヤスリ状に変化させた若生の髪の毛が眷属の肉に滑り込み切断したのだ。
逃げていた若生が一転して眷属に迫り、牙を剥き出し大口を開けかけた顎に左ブレードを突きこみ衝撃波で頭部を吹き飛ばす。
これで死んだかどうか判らないが、少なくともしばらくは攻撃には加われないだろう。
若生を追おうとしていた上の2体が引き下がった。
巨大なサークルの縁に戻ってこちらを窺っている。




