取り調べを受けるベン・マルリック
警察署のベン・マルリックは市内及び近隣の行方不明者のリストを要求した。
時間を遡って取調室に入れられる直前のことである。
マルリックを連行した刑事はやんわり断った。
「ならば、諸君らで洗い直すのだな。特に夜間消えた者、帰るべきだった者が戻らなかった事象が要チェックだ」
マルリックは簡単に指示を出してデスクに座る。
次にマルリックはボディチェックを受けることになる。
修道服内のカーボン樹脂製の鎧や銀製の義手を見た警官はどうしたものかと逡巡した。
「私を危険だと思うのなら装甲は脱がすべきだろう。銀針や拳銃弾の標的範囲が広がるからな。ただ、吸血鬼としての攻撃力はむしろ向上するから脅威が無くなる訳ではないぞ」
そう言いながらマルリックは左の義手の中から銀針を出してデスクに並べた後、右の義手の付け根付近の引き金を警官に見せた。
警官の一人が恐る恐る付け根の引き金というよりサッシのロックのツマミのようなものを指で引く。
マルリックが上腕部を反転させると固定されていた義手はするりと外れた。
その重量に思わず警官は取り落としそうになる。
左の義手も取り外しているところをマジックミラーから仲井刑事と丸尾課長は観察していた。
「あの鎧も脱がせるか?」
「300年の経歴を信じるなら、抵抗しない保証はあるのでしょうが」
「あの体がどうなっているか興味が湧くじゃないか?」
「脱がしましょう」
仲井は入り口に控えている刑事に伝令する。
マルリックの装甲の取り外しは義手と同じく簡単ではあったが、それは義手のマルリック自身では取り外しが出来ないであろうことは見て判断できた。
しかし、刑事たちはマルリックの背中を見て絶句する。
人間にはあり得ない形状をしていたからだ。
脊椎を挿んで二対の筋肉と骨格が折りたたまれているのは判る。
しかしそれがどのように動くのか、機能するのか刑事たちには皆目見当がつかなかった。
「翼の名残りだ。腕代わりにもなるが、あまり器用に使う事は出来ん。修道服を着せてもらえるか?」
そう言って、マルリックは肘までしかない腕を肩まであげ、黒いフードつきのゆったりした服を頭から被せるように促した。
その様子を見ながら仲井は丸尾に違う質問をする。
「本部からは誰が来るんですか?」
「刑事部長と国際捜査課も来るんじゃないか?」
「所長には?」
「報告している。緋波若生を拘束しろとさ」
「マルリック氏の言っていた管轄内の捜索は?」
「あの所長の様子では無理だろうな」
「しかし、それでは――」
「なに緋波若生の捜索命令は出していいんだ。奴は吸血鬼やグールを追いかけているんだろう? 捜索目的は違っても手段は同じだよ」
「装備は手配してよろしいか?」
「フルメタルジャケットなら問題ないだろう? 銀の弾丸は無理だろうが。会計に話を通しておくよ」
「では、取り調べに参ります」
仲井が取調室に向かっている間、丸尾は早々に会計課の拳銃弾の予算残を確認する。
この後はマルリックのカーボン製の鎧や金属製の義手を見分することにしようと思った。




