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吸血塾2ブラッドサッカー  作者: クオン
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篠原健司の遍歴

篠原健司には簡単に、『自宅に居たところを襲われた』とだけ話し、合流したいという若生の意思を伝える。

若生は目立つ長い髪を肩の辺りでカットして、国道を海岸方面に向かって歩いた。

健司を乗せ、船田幹乃の運転するデミオから若生が呼び止められたのは携帯で連絡してから20分後だった。

健司に後席に乗れと合図されて座り込む。

「また、リタと闘ったのか?」

早急に助手席に座った健司が後ろの若生に質問する。

「いや、あれはリタの造ったグールだと思う。6体以上いたよ」

「な、何?」

「俺は実際のグールは、あの元プロレスラーしか見たことなかったんだが、動きが全然違った。眷族のリタ並みだった」

ロード・フィルと戦う前に演習用にとフィルが若生にグールを用意したことがあった。

そのグールは力はスレイブ以上のパワーを出していたが、スピードは人間とさして差が無かった。

「でもって、悪い事に警察沙汰になった。悪いなとは思ったけどリタの名は出しちゃったよ」

「確かに警察を介入させるなとは言わなかったが・・・」

「俺の身代わりにマルリックが出頭している。例え約束で口止めされていたとしても警察官に被害者を出したくないマルリックは情報提供を拒まないだろう」

「リタ様を拘束して警察に突き出すか?」

「この地を離れて穏便に暮らしてくれる保証があるのなら、そんなことはしない」

「だが指名手配はされてしまうか?」

「リタは獣化タイプの眷属を作っている可能性が高い。『真犯人はそいつだ』と証言してみるつもりだけど、俺は警察の制止を振り切って逃亡してる最中なんだ。信用してくれるかどうか怪しいね」

「ふうむ、今から工場地帯を回ってみるつもりだが」

「船田さんだっけ? スレイブには外れてもらった方が良いと思うんだけど?」

「私が無理やりついてきたのです。イザとなれば車で逃げますから」

若生は押し黙った。

健司は、船田幹乃を人質に取られたり、襲われたりしたらリタとスレイブ、どちらを選ぶつもりなのか?

いや、選ぶことが出来るのか?

若生が蓮夏を連れて自宅にいた時、もし襲われたら躊躇なくリタや眷属・グールを抹殺するつもりだった。

船田を守りながらリタも保護する、そんなことが出来るものか? とも若生は思ったが今はリタの出方を待つしかないのだろう。

「前に元プロレスラーと闘った所へ行ってくれ」

若生は二人に指示を出した。

「あそこは俺も行ってみたが誰かが居た気配はなかった」

「いいんだ。多分、数を当たって探す意味はない」



なにしろリタはこちらの位置を把握しているのだ。

誘い込みやすい所に若生自身が飛び込まなければ、相手の動きは無いと考えられる。

内湾を埋め立てられた海岸線を南に移動し吸血鬼たちを乗せたデミオは閉門された工場跡に到着する。

篠原健司は3mほどの高さのフェンス型の門扉を開けて戻った。

「この廃工場はあんた達の所有なのか?」

前回、若生はは連れてこられるまま従っていたので聞きそびれた質問をしてみた。

「いや、この廃工場は一時的に賃貸契約して、その後放置したのだが、いまだに次の借り手や買い手は決まっていないようだな」

廃工場は三つの棟に分かれていた。

若生とロード・フィルが対峙し、グールと決闘した、させられた資材置き場に入った。

リラックスしていると足音が良く響く。

「どう思う? このまま、この場所にいてリタ様が現れるというのか?」

健司が訝しげな顔で若生に訊いてくる。

「昨日もそうだったが、今は来ないのかも知れない。夜もう一度この場所で待つための伏線だよ、これは」

「夜までずっとここにいるつもりか?」

「いや、もう一か所の方が本命だ」

「あのコンビナートか? あそこはあんたとロード・フィルの決闘後は部外者立ち入り禁止になってしまったのだが」

「人の出入りはあったのか?」

「警備員が常駐して門番をしている。」

「昼間に忍び込むのは難しいか。だからこそ夜の住人の棲家には向いていると言える」

「今から向かうか?」

「いや、後で一時的に立ち寄るだけで良い。これは正しくリタに対するマーキングなんだ」

「地図に映る我等を見ているか?」

「ああ、まず間違いなく」

「俺は必要なのか?」

「少なくとも今日、今は」

「夜は?」

「これを続けるなら夜は必ず居て欲しい」

「囮か?」

「いや、夜は少し離れた場に居て欲しいんだ。リタが現れたら時間稼ぎするから通訳して欲しい。出来るんだろスペイン語」

「あの方の言葉はスペイン語というよりロマ語なのだが、まあ確かに俺に関してはスペイン語の方が得意だ」

「リタとは・・・、と言うか、ロード・フィルとはスペインで知り合ったのか?」

「リタ様とは、スペインで知り合った時は吸血鬼関係者とは知らなかったのだが、その後、欧州統一後にロシアでロード・フィルと連れだっている時に再会した。ロシア周りでの日本入国を手引きしたのが俺という訳だ」

「なんだかかなりのエピソードが端折られてるような話だな?」

「そりゃそうだ。戒田信也、誠也の兄がスペインで死んだり、ロシアでリタに手を出してロード・フィルに殺されかけたり、ゾーイやハンターと一悶着あったりと欧州では波乱万丈だったよ」



「リタ様に手を出して殺されかけたって? それは初耳です!」

船田幹乃が一際大きい声を出した。

「何を怒っとるんだ? それでも、ロード・フィルはリタとどちらのスレイブになるか選択権を与えてくれたのだが・・・ 今、思い起こせば人生最大の選択ミスだったな」

「リタの眷属になったことか?」

と、若生が訊く。

「いや、リタをフィルの眷属にしてしまったことさ。俺がフィルのスレイブになっていれば先に眷属になれる可能性もあった。同じ階位ならまだリタと通じ合えたのかも知れん。最もグールにされていた可能性も高かったがな」

「俺は戒田兄弟のエピソードに興味があるけど・・・」

「この地での事は誠也の承諾無しに話しは出来ん。兄の信也はスペインでサッカーの暴動に巻き込まれてな。俺はその事後処理とあいつの仕事を引き継ぐためにスペインに渡り、そしてリタと知り合ったんだ。2015年の事だ」

「ロシアへはいつ?」

「5年前だ。スペインからロシアまで半年かかった。リタとは偽装結婚してNATOの目をかいくぐっての移動だったな」



「なんで吸血鬼に関わったんだ?」

「若気の至りだったのかな? スレイブ当時のリタは輝いていたんだよ」

「そんな理由で?」

若生の訊き返しは角の丸いものだった。

「俺にとってはスペインは恋の都だったんだ」

「そ・ん・な・理由で?」

船田の訊き返しはかなり角の立ったものだった。

「その頃のリタは芸達者でもあったしな」

「ひょうきんな面影はなかったが・・・」

「アーティストと言い換えた方がいいか、実際は大道芸だったのだがな。ロマというのはそういう民族だったのだ」

「で、大道芸をしながらロシアに向かったのか?」

「いや、その頃にはロマ族の移動は厳禁とされていてな。と言うのも移動サーカス団、移動舞踏団、それで生計を立てていれば良かったのだが、売春、麻薬の移動の温床になっていると認定されていて、定住を強制されていたのだ。ロマ族に紛れての吸血鬼の移動を封印すると言う目的も隠されていたのだろう。実際ロマ族の眷属とスレイブは少なくなかったしな。知り合った時のリタはそんな状況でなんとかロード・フィルをスペインから脱出させようと外国人の俺に近づいたんだろう」

「それで健司様は偽装結婚してホイホイと国外逃亡ですか?」

「何がホイホイか? あの結婚、俺は結構本気だったのだが、リタは結局ロシアでフィルの眷属となってしまったな」

「リタとヨロシクしてるのがフィルにばれたんですか?」

「何がヨロシクか? リタとの関係を持つことを勧めたのはフィルの方だ。最も、リタ眷属が前提ではあったのだが」

「で、試されたのか?」

若生は答えが判っている質問をあえてしてみた。

「何のことだ?」

「リタが眷属となって尚フィルの下僕のままでいるか否か? あんたをリタに噛ませて確かめたんじゃないのか?」

「トルコからイスラム諸国経由で船便を手配している間の事だったな。リタとの主従関係もそろそろ限界だった」

と言うより、リタの方が健司をスレイブとして維持することが負担になっていたのだろうことを、若生はフィルの記憶からある程度知っていた。

「で、日本に来てからリタは女眷属を作っていったのか?」

「俺が元同僚だった乗松綸子を紹介したんだ。結局リタは俺を含む4人の眷属を持つことになるのだが」

「仲たがいか?」

「と言うより首都圏の二人がリタから離反気味で綸子ともそりが合わなかった」

「で、フィルが死んで絶縁か?」

「いや、むしろ積極的に連絡が来るようになったよ。大宇根愛沙と言う名を覚えておいてくれ。こっちに来るとしたら彼女が友好的に関係を結ぶことだろう」

フィルの記憶にあった、スレンダーな短髪か、巨乳のワンレンかは今は聞かないでおこうと思う若生だった。

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